メディアグランプリ

「パンドラの箱」の底にはアレがある


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記事:晏藤滉子(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「変わった声だよね」
私は、子供の頃から何度となく言われている。特別高くも低くもなく、やや上ずったような力強くない、言語化しにくい声なのだ。ハッキリ自覚したのは小学生で転校した時、自己紹介で嘲笑されたのだ。「なんか変な声」……、恥ずかしくて真っ赤になったことを覚えている。「私は人前では発言してはいけない」という思い込みがコンプレックスと紐づけされたのもこの頃かもしれない。人前で発言する事が大の苦手となったのだ。
 
大人になるにつれ、私の声は話のネタにされることが多くなった。進学、就職面接、合コンの場でさえも「私の声」はネタとなった。
その度に「ふふ……、よく言われるよ」と明るく答えるものの、内心「また?」と自虐的な気分にもなる。
 
「パンドラの箱」というものがある。
ギリシャ神話が語源であり、決して開けてはいけない箱として登場する。
その箱の中には「あらゆる禍、災難」が詰まっていると云われ、触れてはいけないこと、敢えて取り上げてはいけないことを示している。
 
「パンドラの箱」を、人は誰でも持っていると思う。
中身はきっと人其々だろう。妬み、怒り、憎悪、羞恥心、罪悪感、思い込み、墓場に持っていく程の秘密まで。誰も中身を覗くことはできないパンドラの箱。
「パンドラの箱」の中身達は不遇だ。それぞれが主人から「お前なんて見たくない!」「静かにしていろ!」と蔑ろにされ、表に出る事を許されず、当然虫干しもされない。待遇最悪な収容所の中に居るようなものだ。隙あらば脱走してみる強者もいるが、大抵主人に掴まり箱の中に戻される。
 
当時の私は、コンプレックスという羞恥心、無価値観を「パンドラの箱」の中に沈めてしまったのかもしれない。無きモノにしたかったのだ。
 
今から10年以上前の事。私のコンプレックスは「パンドラの箱」から脱走した。私は仕事を通して「私の声」と向き合う必要性に迫られていた。
それは人前で話すこと。「私の声は恥ずかしいのでイヤです!」なんて言えない。何故ならその仕事自体は成し遂げたいチャンスだったからだ。
 
そこからの私は真剣にコンプレックスと向き合った。「私の本当の声を出したい」という抽象的な私のニーズ。明確化すると不思議と良いタイミングで友人から情報も入ってくる。新幹線に乗りボイストレーニングにも通った。
当時の私は本気だったのだろう。
 
向き合う事が数か月経ち、「私の声」は表面上全く別物になった訳ではない。
ただトレーニングの成果もあり、自分比ではあるが「しっかりした声」に育ったと思う。数値に出るものではないので感覚的な表現になるが、私にとっては大きな変化を実感した。
 
「しっかりした声」というのは、自分の想いを声に乗せて発言するということ。
コンプレックスに感じていた「以前の声」は、自信がなくいつも儚げだったのだ。自分の声質と、儚げな雰囲気が相まって「不思議な声」と周囲には感じられたのかもしれない。
 
そして、コンプレックスと向き合った後日談ではあるが不思議な事が連続した。
初めて会う人から「印象の良い声」と云われることが続けて起こったのだ。
「癒される声」「眠る前に聞きたい声」「優しい声」……。
からかい半分の嘲笑含みではなく、好意的に認められた私の声。「パンドラの箱」に沈められたコンプレックスにスポットライトが当たったような不思議な出来事だった。
 
私の弱みだったものが、強みになるのだ。これは、私に対して「自信」「自己肯定感」をもたらしてくれた。かけがえのない「宝物」だ。
 
その恵みは、パンドラの箱を自ら開ける事から始まった。
そこには、魑魅魍魎のようなやさぐれた「影」がうごめいていた。
 
私はその「影」のひとつと向き合っただけ。
無きものとするのではなく、直視し存在を認めること。
 
私はふと気づいた。「影」を拾い出したパンドラの箱の底には、箱の持ち主にとっての「大事なもの」が隠されているのかもしれない。それは生きていく上での重要な「鍵」かもしれないということ。
 
昔から、「お宝」を隠す所は「それらしくない場所」と決まっている。
発掘者が素通りするような場所、手を付けたくない場所、要は意外な場所だ。
だからこそ、重要な「鍵」を隠すにはパンドラの箱の奥底に隠すのは王道かもしれない。何故なら、誰も進んで開けたがらない箱だから。
密かに隠してきたものと向き合わなければ手に入れられない「鍵」だ。
それだけ貴重な鍵に違いない。
 
よく、長所を伸ばそう、好きな事を仕事にしようということを見聞きする。
私自身も賛同だ。褒められることは励みになるし原動力にもなる。好きな事を仕事にすることも人生を楽しくさせる要因だ。
 
でも、同時にそれはいつか壁にぶつかるということも容易に想像できる。
好きで始めた事なのに、いつの間にか横道に逸れてしまう。
長所や好きな事で自己表現することは、次第にハードルが高くなり苦しくなってしまう。
 
そんな壁にぶつかった時こそ、「パンドラの箱」の底に大事な鍵が隠されているという事を思い出してほしい。無きモノにしようとした「影」に光を当てることによって、箱底にある「鍵」は見つかるかもしれない。その鍵によってより高みを目指せるのかもしれない。
 
東洋哲学では、陰と陽を統合して一体という考え方がある。どちらも存在価値のあるものなのだ。陽の為の鍵は「陰の場所」に。陰の為の鍵は「陽の場所」に隠されているということは真理なのかもしれない。
 
私は「パンドラの箱」という陰の場所で、「自己肯定」「自信」「強み」という鍵を箱底に見つけた。
 
これらをどう生かしていくのか・・・・・・迷った時は再び「パンドラの箱」を開ける時がくるのかもしれない。その時は、箱の底の鍵に期待しつつ、勇気をもって私は開けるのだろう。
 
 
 
 
***

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2020-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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