諸刃の剣が影をおとす
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:すぎうら けいこ (ライティング・ゼミ夏期集中コース)
※この記事はフィクションです。
一瞬で脳みそが沸いて思考が止まった。
そんな顔立ちで立ち止まってしまう男をよく見かける。
彼女と一緒に歩いているとそう。
人は理解できないものに出会うと思考がとまる。
特にこんな田舎では見る機会などほとんどない。
写真やテレビで見るのとは違う生の迫力。
長くてまっすぐな足をマシュマロのようなさらさらしたとした肌が包む。
きゅっと上向きのヒップとほどよい大きさのバスト。
一年中着ているノースリーから出た生意気な肘とすらりと伸びたしなやかな腕。
いつもきれいに巻かれている、つやつやでたっぷりボリュームのある髪。
そして、すうと伸びた首の上には左右均等に整った、はちきれんばかりの笑顔。
彼女は美人だ。
20代の後半、同じ職場の私たちはふとした事で仲がよくなり、一緒に飲みに出かけるようになった。
当時よく行っていたのは職場から数分の大衆居酒屋。職場から近すぎるので逆に会社の人は寄り付かない穴場で、私たちのお気に入りだった。
ある日、仕事終わりのビールを楽しもうといつもの居酒屋へ向かった。
看板メニューの焼き鳥は、安くてボリュームがある。お通しの大根おろしが食べ放題なのがお気に入りだった。
店の中は4人掛けのボックス席が6つ並んでいるコンパクトな造りで、隣のボックスとは背中合わせに座る、オープンな雰囲気だ。そこの一角に私たちは案内された。
ビールといくつかの注文を終え座っていると、3人組の男の子達が隣のボックスに腰を下ろした。
しばらくすると男の子たちがざわついている。
またか。
「おねえさんは何のんでるんですかぁ?」
彼女は優しすぎず、でも突き放す事なく、やんわりと相手を不快にさせない程度に言葉を濁し、会話を終わらせ私との会話に戻ってきた。
一緒にいると私は透明人間なのか? と思ってしまうほど気にかけられなくなってしまうのだが、彼女を目の前にしたら皆、他の物が見えなくなってしまう。
そんな時、心の中で「わかる。目、離せないよね」と、ひそかに共感していた。
当時勤めていた会社は女性の多い職場で、男性社員は少なかったのだが直属の上司は未婚の33歳。
男性だった。
そんな彼女を上司は放って置かなかった。
彼女が当時付き合っていた彼氏の相談を聞くような話し方をしながら、自分の方がより良い男で、将来性がある事を仕事中に呼び出し、話していた。
仕事後の誘いに彼女が乗らないので仕事中、逃げられない所を利用したのだ。
そんな時も彼女は冗談めかして笑いながら、「仕事さぼれてよかったわ」などと話していた。
私たちが勤めていた会社は、古い体制が色濃く残り、全社あげて行う忘年会は、新人から順番に、上層部の人たちへお酌をしてまわる風習があった。
200人規模の忘年会で順番にお酌してゆく。
気に入られた子は上層部のテーブルに呼ばれ、ご高話を拝聴する。
彼女は上層部テーブルの常連だったので、いつも通りテーブルについていた。
上層部テーブルの最悪な所は、勝手に移動する事は出来ず、すべての話に頷き、笑顔でいなければならないところだ。誰かが話を終えると「スゴイ」だとか「オモシロイ」などと、みんなで持ち上げてこの時間が過ぎるのを待つ。
私はそばで胸が悪くなる思いをしながら、その様子を見守っていた。下っ端その1の私に彼女を救い出すことなんかできなかった。
そんな時も彼女は
「笑っていれば、終わるし」
と言って、どうでも良い顔をしていた。
美しいという事で彼女は好きな場所でお酒を楽しむ自由を遮られていた。
ある日彼女から連絡がきた。
「彼氏と別れた」
彼は彼女が綺麗なあまり、他の人に取られるのではないかという不安とずっと戦っていた。愛しすぎて、自分と離れている間に彼女が何をしているか不安で不安でたまらなくなる。だから確認する。
何度も。何度も。何度も。
でも負けたのだ。
不安に耐えられず、別れを選んだ。
彼女の美しさを愛した人だった。
これには彼女も堪えていた。
いつも笑顔で何事もさらっと流す彼女が、涙を落とした。
一番の武器が自分を傷つけた。
そんな彼女を見ておもう。
「諸刃の剣」
大きく振りかぶって剣を持ち上げると自分も切れてしまう。
美しいという武器で、
美しいという諸刃で自らの血が流れてゆく。
でも彼女はその武器を手に生まれてきた。
そしてそれを握りしめながら生きてきた。
それを知らない私たちは
きれいならば人生楽だろう。
優しくしてもらえるだろう。
特別扱いもされるだろう。
と考える。
それは光。
しかし光には影もついてくる。
大きな武器ほど影は濃くなる。
当事者にしかわからない悩みがある。
華やかに見える特別な世界に生きていても
光の下、深く黒い影を落とす。
彼女は今結婚して4人の子供がいる。
彼女の美しさだけでなく、明るく冗談好きな彼女のすべてを愛してくれる人だ。
今は遠くに住んでいて、一緒に出掛ける事も出来なくなってしまった彼女から、毎年年賀状が届く。
年賀状を見ながら思った。
彼女の娘もまた諸刃の剣を持って生きるのだなと。
***
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