メディアグランプリ

フィットネスゲームが教えてくれた、「ちょっと踏ん張る」ということ


記事:根本 理沙(ライティング・ゼミ日曜コース)

私は昔から何事も長続きしない性格でした。
勉強、スポーツ、習い事、趣味、仕事……。
今思い返しても、自分が長続きしたことを思い浮かべることができません。

なぜかというと、一度壁にぶつかると、すぐに投げ出してしまうから。
最初は、おもしろそうだな、やってみよう! と意気込んではじめるのですが、越えなくてはいけない壁にぶつかった瞬間、すぐに嫌になって投げ出してしまうのです。

今までは、その現象を「飽き性」と捉えて、特に気にしてもいませんでした。
ところが、社会人として働くようになって、その考えが、いかに甘く、間違っていたのかを思い知ることになります。

仕事は飽きたとしても、途中で投げ出すことはできません。
会社という組織に雇われている限り、従業員は労働を提供することが義務であり、義務を果たせなければ権利を主張することはできません。

仕事で壁にぶつかると、乗り越えようとせずにすぐに逃げ出そうとする。逃げて、どうやったら回避できるか、あわよくば投げ出せないかと、そんなことばかり考えていました。
そんな自分を見透かしたのか、ある日同僚にこんなことを言われます。

「あんた、全然、踏ん張ってないじゃん。飽き性なんじゃなくて、逃げ癖がついてるだけ」

しばらく言葉を失ってしまいました。辛辣な言葉に傷付いたのではなく、いままで言語化することを避けていた答えを目の前に突きつけられ、どう答えたらいいのかわからなくなってしまったのです。
そうなんだよね、私って、本当は飽き性なんかじゃない。踏ん張ることができず、逃げ癖がついてしまっているんだよね。

同僚は何も言えなくなっている私にさらに追い討ちをかけるように、こう続けます。

「そんなんじゃ、流されるだけの人生になって終わるよ。いいの?」

このままじゃろくでもない人生を送ることになる……。
いよいよ、私は越えなくてはならない壁と向き合う時がきたのでした。

とはいえ、何十年間も踏ん張ってこなかった人間が、いきなり踏ん張れるようになるわけがありません。そもそも、踏ん張ったことがない人間は、どう踏ん張ったらいいのか、その方法すらわからないのです。実に情けない話です。

結局これだ! という答えにたどり着くことができず、心のどこかにもやを抱えながらも、なんとなく毎日を過ごし、気がついたら同僚とのやりとりから1年が過ぎていました。
同僚の有難い言葉を忘れ、また元通りの日々を過ごしていた時、出会ったのが、とあるフィットネスゲームでした。

え、急にフィットネスゲーム? と思われるかもしれません。
私も、まさかゲームに踏ん張り方を教わることになるとは思いもしませんでした。

そのフィットネスゲームは、超本気の筋トレをプレイヤーに要求してきます。
超本気の熱意が伝わるのが、ひとつの筋トレをはじめたら、途中でリタイアすることができないというシステム。

私はこのシステムに苦しめられます。最後までやり切らないと、ゲームを終わることができない。思わぬ形で、逃げ癖と戦うことになったのです。

毎日ひいひい悲鳴を上げながら、それでも、なぜか毎日身体が勝手にゲーム機のボタンを押していて、自分を追い詰める……。気がついたら1ヶ月間、毎日続けることができていました。
正直、自分がこんなに続けられるとは思わず、自分自身驚きました。

今までの私だったら、絶対に途中で投げ出していたはずなのに、どうして毎日続けられているのだろう。その理由をあれこれ考えていると、ひとつの答えにたどり着きました。

それは、踏ん張ったのではなく、「ちょっと」踏ん張ったから。

その答えにたどり着くまで、自分の中で、「踏ん張る=全力で踏ん張る」という図式を勝手に作り上げていたことに気がついたのです。
フィットネスゲームでおこなう筋トレは、全力で踏ん張らなくていい。ちょっと、つまり、無理のない範囲で踏ん張ればいいようにうまくシステムを組まれていたのです。(ゲームそのものが、相当考えて作られていると思います。)

なるほど、ちょっと踏ん張ればいいのか。
この答えにたどり着いた時、心のどこかでずっとくすぶっていたもやが、さあっと晴れ渡ったような気持ちになりました。
この考え方は、もしかしてプライベートや仕事にも活かせるのではないだろうか。

早速、その日から私は、壁にぶつかった時、踏ん張ろうとすることをやめ、「ちょっと」踏ん張るようにしました。
ずっと踏ん張り続けようとしない。その日1日分だけ踏ん張る。次の日も1日分だけ踏ん張る。
すると、1週間、1ヶ月と踏ん張り続けることができ、いつの間にかぶつかっていたはずの壁を乗り越えていたのです。

二十何年生きてきて今更気が付くのも恥ずかしい話ですが、これには本当に感動しました。継続というものは、リアルタイムで実感することはできない。後になって振り返ってみて、はじめて、継続していたということに気がつくのです。

さて、今回、フットネスゲームを購入した時と同じくらいの気軽な気持ちで、天狼院ライティング・ゼミに参加することを決めました。

おそらく、全8回の講義を受講する中で、いくつもの壁にぶつかることがあるでしょう。
けれど、踏ん張り方を覚えた私は、壁にぶつかることがすでに楽しみでもあります。
1講義受講するごとに、ちょっと踏ん張って、4ヶ月後、全8回の講義を終えたあとに振り返った時、一体何が見えるのか。今からワクワクしています。

≪終わり≫


2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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