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「道」を歩こう

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:エルコンドルパサー(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私の茶道のお稽古見に来る?」
僕がそう聞かれたのは、ベルギーのアントワープで、誘ってくれたのはルーマニア人の女の子だった。
 
もう10年が経過しようとしているが、ある年の7月に僕は前の会社を辞めた。好きで入った業界だったし、仕事そのものは楽しかったので、その仕事に就けたことは今でも良かったと思っている。でも、自分で思っていたよりも体力と欲望が無かった僕は、激務を自分のキャパシティでは消化しきれなくなっていた。
 
会社を辞めた後、とにかく疲れ切っていた僕は、癒しと刺激を求めて、その年の8月に、ずっと憧れだった欧州バックパックの旅に出た。最初の目的地はパリで、その後は、まずは夏の間に北を目指すことにした。ベルギーはフランスのすぐ北に位置しているから、2番目の訪問国であり、アントワープはベルギーで3番目の訪問地だった。この街で僕はCouch Surfingを通じて冒頭の女の子にガイドをお願いしていた。Couch Surfingとは旅行者と地元の人を繋ぐサイトで、旅行者は地元の人に連絡して、相手次第で、お茶をしたり、地元をガイドしてもらったり、上手くいくとタダで泊めてもらったりすることが出来るのである。
 
アントワープでガイドをしてくれた彼女は非常に親切で、街の名所を色々と案内してくれた。その道すがら、彼女とは色んな話をしたが、茶道を習っているという話になった。
「いつから茶道をしているの?」
「高校の時からかな。日本の文化を学ぶ授業があってね。夢中になっちゃった」
「茶道は今でもやってるの?」
「やってるわよ」
「ベルギーで? どこで? どうやって?」
僕はベルギーでルーマニア人の女の子が茶道をやっているなんて、ちょっと信じられなかった。今思えば、世界の色んなところで茶道は行われているのだろうが、そんなことを日本人が知らないのが面白かったのかもしれない。彼女は翌日だか翌々日だかの茶道の稽古に連れていってくれると言った。
 
稽古場は、アントワープから電車で二、三十分の郊外にある茶道の先生のご自宅だった。ところが、その先生は日本人ではなく、どこの国か忘れてしまったがとにかく外国の方で、しかしちゃんと茶道の家元の免許を取得されていた。そして、先生も生徒も、外国の方が和服に身を包み、先生の自作により完璧に作られた茶室の中で、茶道の稽古をしていたのである。
 
日本人が一人も居ない中で、日本の文化が成立している。僕はそのことに非常に感銘を受けたし、日本の文化の偉大さを初めてきちんと認識した様に思った。この経験は、僕の旅に良い意味での重しを与えてくれた。
 
「そういえば、僕って日本のことを何も知らないな」
そんなことを意識して旅を続けるうち、僕は帰国したら何か日本の習い事をしようと思うようになった。僕は歴史が好きで、やはり武士とか刀に憧れがあるから、剣道を習うことにした。
 
「大人の人でも大歓迎ですよ。どうして剣道を習おうと思ったんですか?」
「じつはこの間までヨーロッパをバックパックで旅していて、そこで日本のことを何も知らないなと思ったんです。それで元々憧れがあった剣道をやってみようと思って」
「なんと、そんな人は初めてですけどね」
何だか大げさなことを言ったかなと思って少し面はゆかったが、僕は近所の小学校でやっている剣道教室に通うこととなった。
 
剣道を始めたと言っても、いきなり防具をつけて竹刀で戦う訳ではなかった。同時期に始めた子供たちに交じって運動着のまま「すり足」の稽古から始まり、竹刀を握れる様になって、道着を着る様になって、面と小手と胴を着けて先生方と稽古する様になるまで半年くらいかかったと思う。飽きっぽい僕が、そんな地味な稽古を続けられたのは、もちろん先生方の指導のお陰であるが、動作の一つ一つが知らないこと、そして出来ないことばかりだったのが逆に面白かったのかもしれない。
 
先生方に稽古をつけてもらうと、もっと面白いことがあった。こちらの竹刀が全く当たらないのである。正確に言うと、こちらが先に打ち込むのに、必ず先生の竹刀の方が先に僕の面に届くのだ。うちの剣道教室の先生方、特に高段者の先生は50代後半~70代の方が多い。僕は運動神経が良い方ではないけれど、普通の動作ならお年をめした先生方より速いハズである。だが、剣道では、絶対に僕が先に斬られる。その差は時間にすればほんの僅かなものかもしれない。だけど、十年、二十年あるいは半世紀の稽古の積み重ねが大きな差として生まれている。
 
技量の差、努力の差、情熱の差。その大きな差、大きすぎる差を感じずにはいられないから、剣道は僕を素直で謙虚な気持ちにさせてくれる。素直で謙虚な気持ちになれるからこそ、つらい稽古も我慢できる。稽古をすれば、小さな進歩がある。小さな進歩があれば楽しくなる。まるで目的地に向かって実際の道を歩いている様に、ただ前へ前へ、少しずつ自分が進んでいることをかみしめる。
 
ベルギーで茶道に触れた時はそんなことは思いもしなかったし、最初は日本のことを知るためだったはずだけど、剣道に出会ったことで僕は「道」の魅力を知ることが出来た。
 
「剣道は下りのエスカレーターに乗っている様なものだ。稽古をしないと後ろに下がる。前に進むには稽古をするしかない」
ある先生がそうおっしゃっていた。
おそらく「道」とつくものは同じ様な魅力があるのではないだろうか。
さあ、「道」を歩こう。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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