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「『君の成長のためには』と言う上司は、だいたいが詐欺師のようである」


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記事:佐野 タケヒロ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
転職して2社目の会社であった出来事。
最初に配属になった部門の上司から入社2日目に呼ばれた。
 
「君の成長のためには、まずこの仕事がいいと思うんだけど、やってくれないか」
「はい。承知しました」
 
前の会社では、「君の成長のためには……」なんて言ってくれる人がいなかったので、自分のことをよく考えてくれている非常によい上司だと思った。
 
3日目の午前、その上司から呼ばれた。
 
「君の成長のためには、次にこの仕事がいいと思うんだけど、やってくれないか。入社早々、難しいかもしれないが、がんばってほしい」
「はい。がんばってみます」
 
繰り返しになるが、前の会社では、「君の成長のためには……」なんて言ってくれる人がいなかった。なので、この依頼された仕事が自分の成長になるんだと思って、がんばってやった。
 
3日目の午後、その上司は他の部門メンバーに依頼していた。
 
「君の成長のためには、今期はここをやってほしい。やってくれるかな?」
「この企業の担当は自分には難しいです」
「でも、この企業を担当してこそ、君の成長になると思うんだが……」
「はい……。承知しました……」
 
他の部門メンバーの成長も考えているなんて、すばらしい上司だと思った。しかし、「君の成長のためには……」という繰り返されるフレーズに違和感を持ち始めた。
 
週初めの月曜日の朝。入社して4日目である。
 
部門の電話が鳴った。自分への電話とのことだ。入社して早々、社内電話なんて思い当たる節がなかったが、その電話に出てみた。
 
「バカヤロー! 入社早々、無断欠席なんて、いい度胸しているなー」
「……。どういうことでしょうか」
 
「何言っているんだ。おまえは申し込んでいる社内研修を欠席しているだよ!」
「そうなんですか……」
「しかし、その社内研修について私は案内されていません」
 
電話が一方的に切れた。
 
急いで上司に確認したところ、研修部の責任者からの電話だということがわかった。上司は間が悪そうな感じだった。
 
「あれっ。言ってなかったっけ?」
「あっそうー。そうか」
「それはまずいなあ」
 
「どうすればいいでしょうか?」
「早めにその責任者へお詫びに行ってくれないか?」
「えーっ!」
 
この社内研修の無断欠席に自分がお詫びに行くのかと驚いた。なぜなら、自分が研修予定を忘れていたのならともかく、社内研修の連絡を受けてなく、自分に責任があると思っていなかったからだ。
 
「私がひとりで行くのですか……?」
「もちろん。おれは都合があっていけないんだ」
「早い方がいい」
 
「……。そうですか。とりあえず行ってきます」
「それが君の成長のためになる」
 
こんなところで、「成長」という言葉が出てくるのかと、この「成長」という言葉の意味合いが悪いものになっていった。
 
研修部の責任者にお詫びに行ったが、その怒りは収まらなかった。
戻ってきて、その様子を上司に報告した。
 
「ひどい怒りようでした」
「一緒にお詫びに来いと言っています」
「……」
 
「『頭を下げないと、今後おまえにはこの研修は受けさせない!』とまで言っています」
「なので……、一緒にお詫びに行ってくれませんか?」
 
「……」
 
上司は考えているようだったが、しばらくして発言した。
 
「よしっ。わかった」
「そんな二人でお詫びなんてしなくていい」
 
「えっ。そうなると、……自分は社内研修が受講できなくなります」
 
「わかった」
「だったら、その研修は、受けなくていい。受けなくても今後の業務はできる」
「その研修を受けないで業務をやった方が、君は成長するぞ!」
 
この話合いの最後に「成長」という言葉が出てきた。この流れで「成長」という言葉が出てきて、やっとわかった気がした。
 
この上司は「成長」という言葉を言っておけば、部下が納得すると思っているのだ。確かに自分は成長したくありませんという反論はこちら側から言いにくい。
 
だから、意識的に使っているのだ。部下に反論させない説得単語、念押し単語という意味でもあろう。
 
それはまるで詐欺師がまず「儲かります」と言っているようなものだと感じた。つまり、詐欺師とその上司は次のように似ている。
 
詐欺師:「儲かります」-「その気にさせる」-「損をする」
その上司:「成長する」-「その気にさせる」-「無理なことを押し付けられている」
 
その後、その上司に関わらず、別の上司もこの「成長」という言葉を多用していることがわかった。つまり、この会社のカルチャーなのだ。
 
その後、詐欺師のようではない上司もいた。
 
「成長」という言葉だけではなく、部下側にわかるように補足して、そして事後フォローしている上司だ。例えば、次のようなことである。
 
・この仕事は君の「成長」につながる。具体的には、新しい知識が得られる
→(仕事完了後)
→(事後フォロー)どんな新たな知識が得られたかい?
 
・この仕事は君の「成長」につながる。具体的には、新しい社内人脈が得られる
→(仕事完了後)
→(事後フォロー)あの部門の人はどんな人だった?
 
・この仕事は君の「成長」につながる。具体的には、違う意味が得られる
→(仕事完了後)
→(事後フォロー)この仕事で、いままでと違う意味がわかったかい?
 
このように、「成長」について事後フォローし、その後の「成長」に関する対話までしていると、自分の「成長」について実感できるようになった。
 
こんなところまでやる上司もいたが、少なかった印象だ。
 
全ての上司が詐欺師というわけではない。しかし、「『君の成長のためには』と言う上司は、だいたいが詐欺師のようである」と言いたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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