メディアグランプリ

壊れてからが始まり~家族はジェンガのごとく~


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記事:上嶋陽子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
この前ひさびさにジェンガをして遊んだ。木を抜いては積み上げ、抜いては積み上げ、バランスを取りながら高さに挑んでいく。いつかそのバランスを誰かが崩し、壊れた時にゲームが終了する。壊れた後に参加者に沸き起こる一体感と妙な気合。そしてさらに高みに挑みたくなってしまうという危険なゲームだ。私は夜な夜なゲームを繰り返しながら、ふと「ジェンガとは家族のようなもの」だなと思った。ジェンガと家族の結びつき、それを私の経験に重ねながらお話出来たらと思う。
 
長野のド田舎に生まれ、今は珍しい3世代の家族が同居している環境で育った私は、自分で言うのもなんだがとにかく沢山の人から可愛がられて育てられたと思う。親戚中を見渡しても女の子は私だけ、ということも相まって、それはそれは特別待遇を受けてきたように思う。こんなに愛情いっぱい育てられたことは本当に幸せだと今は心からそう感じる。でも少し前までの私は、その愛情や期待に必死に応えなきゃと自分を押さえつけて生きてきた。「本当に手がかからない良い子だね。しっかりしてるね。」ずっとそんな風に言われて育てられた私は、いつのまにか家族の前でその自分を保つようになっていた。いつもバランスを取りながら、両親が喜ぶこと、家族が喜ぶこと、それが私の軸になりつつあった。
 
大学進学のときを思い出す。保育園の時からピアノを習っていた私は、音楽療法という世界に興味を持ち、高校生の時に音大を目指すようになった。両親も応援してくれていて、高校の時は授業の傍らピアノと声楽を習うという日々を過ごしていた。ただ受験が迫っていた高校3年の夏、私は突然その習い事を辞めた。なぜか。私はある夜に両親と親戚のおばちゃんが話しているのを聞いてしまった。ハッキリと内容は覚えていないが「音大に行くなんて大変」ということを話していたと思う。
 
「普通の大学に比べ学費は高いし、その後の就職先が安定しているとは言えない。これからが大変だね」というようなことをお酒を飲みながら話していた気がする。もちろん両親たちに悪気はなく、たまたま通りかかった私が耳にしただけなのだが、家族のバランスをとってきた私の心に深く刺さったのは言うまでもない。「音大に行くことは両親を悲しませる」と思い込んでしまった私は、「練習に疲れた。将来が見えないから」というような理由をつけて突然進路を変更したのだ。両親はびっくりしていたが、これでお金面ではそこまで苦労をかけないだろうと私はどこか少し、安心したのを覚えている。その後東京の大学に進学した私は、自分の選択に少しの後悔を感じながら葛藤し、必死でやりたいことを模索する日々を過ごしたのは言うまでもない。
 
4年間様々な体験をして葛藤した私は、「音楽は趣味で楽しもう」と自分の中で消化し、ホテル・ブライダル業界を就職先に選んだ。本当に大変な仕事だったが、やりがいを感じ、充実した日々を過ごしていた。そして職業柄、英語を使わざるを得ない場面が増え、泣く泣く英語を習い始めたのだが、これが私の大きな転機となった。最初は仕方なく習い始めたのだが、段々と上達するにつれて楽しくなり、いつからか「海外に行きたい」という思いが沸き起こるようになってきた。そこから思ったより話はトントン拍子で進んで、知り合いがハワイのステイ先を紹介してくれて、学校も紹介してくれて、あとは仕事を辞めて飛び立つだけという状態になっていた。それは私が27歳のとき。実家の両親は、娘はそろそろ地元に戻ってきて結婚をする時期だろうと考えていたタイミングだった。
 
だから私の決断を両親に話したとき、「お前は何を言ってるんだ?」と猛反発された。たった3か月海外に行くだけでこんなにも色々言われるのかと腹が立ったが、これまでの私からは想像できない行動だったのだと思う。家族から反対されることは、ずっとバランスをとってきた私にとっては、本当にツラかった。得に父からは「何のためにいくのか?お金は無駄じゃないか?帰ってきて就職先はどうするんだ?」ととにかく心配事項を並べられた。説得することにも疲れ、ほとんど話さなくなった。私は今家族のバランスを初めて崩している。私は間違ったことをしているのか、と自分を責めたりもした。だけどこのタイミングで決断しないと、また後悔すると思った。だから最後は半ば強引に、家族の反対を押し切って仕事を辞めハワイに飛び立った。私は初めて自分からそのバランスを壊したのだ。
 
自分を貫くことは本当にツラかったが、結果ハワイに行ったことは大正解だった。それは家族の変化にも現われた。現地に着いてから母にはとりあえず無事を伝える素っ気ないメールをしていたのだが、ある日母親からLINEがきた。
 
「来月、お父さんとハワイに行くことにしたから」
「えっ?」
 
一瞬状況が飲みこめずビックリしたが、もうホテルも飛行機も予約したらしい。飛行機は怖いからと新婚旅行以来乗ることを避けていた母親。あれだけ反対していた父親。2人は本当にハワイに来て、私のお世話になったホストファミリーにも会って、なんだかんだハワイを大満喫して帰っていった。私もビザの期限が切れるギリギリまでハワイを堪能し帰国したのだが、その後すっかり魅せられてしまい、帰国後1か月してまたハワイに行くことにした。完全にねじが外れていたと思う。
 
2回目のハワイ行きの準備をしているとき、父親がこっそり部屋に来た。また何か言われると思っていたところ、そっとぐしゃぐしゃになった2万円を私に差し出してくれた。それは不器用な父親が「楽しんでおいで」と大好きな娘に託してくれた思いだった。きっと私がハワイで自分らしく、キラキラしているのを見て何か感じてくれたのだと思う。真意は分からないけど、その時何かが伝わったのかなと思った。私はあの時、勇気を出して家族のバランスを壊してよかったと思う。自分の気持ちを貫いてよかったと思う。一度壊れたことで、お互いの中で色々な気づきが生まれ、さらに絆は深くなった。バランスを壊すのが怖くても、自分の気持ちを大切にすることが家族のためでもあると実感できた。壊れてからが始まり。久々にジェンガをしながら思い出した私の大切な体験だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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