オートバイのアンチエイジング効果
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記事：しげＧ（ライティング・ゼミ日曜コース）
オートバイを買ったのはちょうど３年前。夏場ということもあって、ちょっとお買い得に手に入れることができたのだが、そのときから筆者の人生が変わった。決して大げさな話ではないし、オートバイディーラーの回し者でもない。ある出会いが筆者をオートバイの世界へと駆り立て、その後の人生に大きな影響を与えたのである。
オートバイを買う前の筆者と言えば、昔懐かしい猛烈サラリーマンよろしく、平日はほぼ毎日残業。仕事のストレスを花金の飲み歩きで発散し午前様。そのせいで週末は家でぐったりという、なんとも人に自慢できない生活を送っていた。初対面での会話はいつもこうだ。
「週末は何をされているんですか？」
「お酒を飲むのが好きでして……。休みの日は家でゴロゴロしてるんです」
「ははは……」
不毛な会話である。さらに身体にも悪影響が出始めていた。肝臓の値はありがたくない右肩上がりを続け、何より見た目が一気に老け込んでしまったのだ。さすがにこのままではいけないと思い、スポーツジムに通い始めたのだが、今ひとつトレーニングに身が入らない。
だらだらとトレーニングをしていたある日、筆者と同世代、５０代のビジネスパーソンと出会った。すでに中高年の域に達しているはずなのだが、笑顔が青年のようにすがすがしい。体型もしまっている。どうしたらこんなに若々しくいられるのだろう。まさか若作りの秘薬でも飲んでいるのか？ 真相解明……というわけではないが、ある日こう聞いてみた。
「いつも若々しいですね。なにか特別なことをされているんですか？」
「オートバイに乗るのが趣味でして。週末はいつもツーリングに行ってるんですよ。そのせいで日焼けしてますからね。少しは若く見られるのかなあ」と彼は、はにかんだ。なんか素敵だ。インタビューに答える映画俳優のようだ。週末の過ごし方ひとつとっても、不毛な筆者のそれとは大違い。興味をそそられさらに聞いてみた。
「長く乗ってるんですか？」
「いえいえ、５０過ぎてから二輪免許を取ったんです。まだまだビギナーですよ」
へええ。５０代からでも乗れるんだ、オートバイって。これこそが彼の秘薬なんだとこのときは気付かなかったが、風を切って颯爽と走る彼の姿を頭に浮かべ、自分も乗りたいなあという気持ちが風船のように膨らんでくるのを感じていた。
さっそくネットで情報収集を始めた。免許は教習所で取れる。購入費用もなんとかなりそうだ。問題は維持費用だ。我が家には駐輪スペースがないため、オートバイ用の車庫を借りなければならない。季節ごとにオートバイ用ウェアも買い揃える必要がある。保険やガソリン代、ツーリングの高速代などなどを合わせると、毎月５万円くらいかかりそうだ。うーん、どうしよう……。
後日そんな悩みを打ち明けると、彼は夢を語る少年のような熱い眼差しでこう答えた。
「たしかにお金はかかります。でもその分がんばって働けばいいんです。あとは他の出費を削ることもできます。オートバイはただの趣味じゃないんです。オートバイに乗ると人生が変わるんですよ」
妙に説得力があるのは、彼自身の人生も変わったからなのだろう。そう思った筆者の頭の中では、計算機がカチャカチャと作動し始めていた。
飲み歩き１回１万円×月４回＝４万円
簡単な掛け算で答えは出た。残りの１万円は長年挫折を繰り返した禁煙を実行すればいい。
こうして購入したオートバイは筆者の人生に３つの変革をもたらした。
１つ目は「健康」だ。禁煙かつ飲酒の回数も減った現在、健康診断の結果はオールＡ。人生初の好成績だ。
２つ目は「体型」である。筆者はある日、ガラスに映った自分とオートバイの姿に愕然とした。オートバイはかっこいい。ウェアもキマっている。しかし！ おなかがタヌキのようにポッコリ出ているのだ……。全然素敵じゃない！ 引き締まったウェストを作り出さなければ、オートバイに費やした時間やお金が水の泡になってしまうのではないか！？
トレーニングにも身が入りだした。
３つ目は「仲間」だ。オートバイ仲間の間には、経済力や肩書きによるヒエラルキーは一切存在しない。ただオートバイが好きで、走ることが好きで集まった仲間には利害関係もない。だから付き合いがブレないし、何時間一緒にいてもまったく苦にならないのだ。５０を過ぎてこんな仲間をつくるのは、決して簡単なことではない。それに何より風を切って走るときの爽快感、仲間と走っているときの一体感は極上だ！ まさに人生が変わったことを実感できる瞬間である。
さらにうれしいのが、アンチエイジング効果だ。オートバイとの出会いをくれた彼のような「若々しさ」を取り戻せることができるのである。人の脳は新しい刺激があったり、少し危険なことがあったりすると、心身を守ろうとするホルモンが分泌されるらしい。そしてこのホルモンには、アンチエイジングの効果もあるそうだ。医学的な根拠を確かめた訳ではないが、最近は自他ともに「若々しさ」を取り戻していることを認識している。
今では筆者もこんな会話ができるようになった。
「週末はなにをしているんですか？」
「オートバイに乗るのが趣味でして。週末はいつもツーリングに行ってるんですよ」
そこにはちょっとはにかんだ、映画俳優のような素敵な自分がいた。
＊＊＊
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