やっぱり好きだと噛み締めた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀紗章子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
かつて好きだったバンドや音楽に触れる事は、鏡を見るような行為だった。
中学生の頃、何よりも追いかけたバンドがあった。
ファンとアーティストという繋がり以外何もなかったが、10代の私にとって彼らの音楽は青春そのものだった。
初めて買ったアルバムで引き込まれ、あっという間に虜になった私はそのバンドの曲を日夜聴き続け、友達とこの曲はこういうメッセージなんだとか、あのP Vのあの場面がかっこいいだとか、いかにも中学生が話しそうなミーハーな話題で異様に盛り上がる日々を送っていた。
教室の隅で繰り広げられる会話は、知らない人からしたら少し気持ち悪いほどで、楽曲のことだけではなくこのボーカルがかっこいい、結婚したい、ラジオでこんな事言ってた、今月発売の雑誌に載っていたなど、生活で一切必要無いと言ってしまえばそれまでの事を、別に自分がどれだけ知っているのかを自慢するわけでもなく、ただただ楽しく話し続けていたのだ。
いつまでも追いかけていられるほどだったそのバンドは、私にとって完全に「大好きなもの」だった。
新曲解禁と聞きつけたからにはどんなに遅い時間であろうとラジオ前で待機、アルバムが発売されればフラゲ。(発売日前日に店頭で購入する事)歌詞は大体覚えてしまう。雑誌の3万字インタビューだって一気読み。
こんな事、大人になった今できるかと言われたら、きっと無理だ。
仕事という制約があるのもそうだが、あれほどまでに熱中する事はもうできないと思う。
10代の頃は、なぜあんなにも熱中できていたのか。
きっと、カラカラに乾いた喉に水を流し込むように、とにかく吸収したくてたまらなかったのだ。
自分がどんなものが好きで、どんなものに共感するのかがいまいちわかっていなかったからこそ、「自分が好きになれたもの」をとにかく知りたくてたまらなかったのではないだろうか。
そして知らず知らずのうちに吸収し続けたそれらは自分の一部になっていく。
価値観やものの考え方は生きてきた環境によるものだと思うが、それにプラスして自分から好きになったものから受けた様々な影響が、自分を形作っていくのだと思う。
大人になった今、かつて好きだったそのバンドのボーカルが結婚したというニュースを聞いた。
一時は年齢差を数えてはあと何年でつり合うだろうかと思うほど、本気で恋のような感情を抱くほど心酔していたが、流石に今は心から喜ばしいニュースだと思えた。
久しぶりに思い出し、もうしばらく聞いていなかったそのバンドの曲を聞いた。
何年経っても歌詞は覚えていて、懐かしさがこみ上げてくると同時に、私は確かにこの曲のこの歌詞に救われたなとか、この世界観が好きだったなと改めて思った。
そしてそれはまるで鏡を見ているかのように、自分と向き合う時間だった。
自分の事を知る方法はいくらでもあると思うが、自分が大好きだったものに触れる事は特別だと思う。
熱中していた時の感覚や、自分が何に感動したのかなど、自分の価値観を改めて思い返すことができるからだ。
よく懐メロ特集など、その時代の流行を振り返る機会は沢山あるが、その場合は昔を懐かしみ楽しむ事を目的としている。もちろんそれもそれで楽しいけれど、その時代の出来事を思い出したりするだけであって、自分が何に感動したのかを振り返るわけではない。
大袈裟な言い方かもしれないが私にとっては、自分が何を好きで何に感動し、どんなものに憧れたのかを今目の前に映しだしてくれるもの、それこそが「かつて好きだったバンド」だった。
年齢を重ねるごとに、常識や社会のルールなど自分から吸収しようとせずとも取り込まれるものが沢山ある。
そういうものに自分を合わせていく方が結局のところ生きやすく、それが普通というのかもしれない。
もちろんそれを否定するわけではなく、今の自分がそうであるように、キャリアを考えたり結婚の時期を気にしたり、そんな考えばかりが頭を巡ってしまうのが大人というものなのだと思う。
けれど、時々どうしようもなく苛立ってしまう時や、やりたいことが分からなくなる時、悩んでしまう時は、自分を見つめ直さなくてはいけなくなる。
誰かに自分の事を客観的に教えてもらうことが恥ずかしかったり、怖かったりもする。
そんな時に「大好きだったもの」に触れるとゆっくりとだけれど確実に、自分の本来好きなものや価値観を思い出し、改めて救われるのだ。
私にとってはバンドや音楽だったが、きっと人それぞれ熱中したり興味を持つものはある。
気づいていないだけで実はものすごく好きなものだってあるかもしれない。
先のことがなかなか見えずあまりにも変化の激しい今のような時代だからこそ、自分らしさを思い出させてくれるきっかけになる「大好きだったもの」が私にはあって良かったと思った。
そしてこれからも何かを好きになることで、いつかまた自分を映す鏡のような存在になってくれるものを増やしていきたい。
***
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