聴衆はあなたの成功を望んでいる
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事: 大毛 順子(ライティング・ゼミ平日コース)
あなたは、人前で話すのが苦痛ではないタイプの人ですか?
そうだとしたら、とてもうらやましいです。
わたしにとっては、人の視線が自分に向くことが、すでに恐怖です。
凶器を突き付けられている思いがします。
しかし、仕事で報告をするとか、プレゼンをするとか、どうしても人前に出て、話さなければならないときがあります。
ある日、これ以上、逃げてばかりもいられないと思い、名人に助けを求める決心をしました。
その名人とは、人事部研修課のA課長です。A課長は以前、某映画会社の広報担当として、バリバリ働いていたという経歴の持ち主です。
今では数々の研修講師もこなし、そのプレゼンの上手さから、かなりの定評があります。
まるでテレビ番組でも観ているかのように、人前でなめらかに話ができる人物です。
筆者:「A課長、ご相談したいことがあります。申し訳ありませんが、一時間ほどお時間をいただけませんか」
A課長:「大毛さんは財務部門の所属でしたね。今日はどういったご相談ですか?」
筆者:「人前で話すのが苦手で、プレゼンやブリーフィングができないのです。極度の緊張症で、心臓がバクバクになるし、それに、手が勝手に小刻みにがたがた震えだして、そうなると、自分で震えが止められないのです」
A課長:「うーん、心理的なことは僕にはわかりませんが、ひとつ言えるのは、逆療法で、そういう状況に、自ら慣らしてしまったらどうかと思いますが」
筆者:「慣らす?!」
A課長:「やっぱり、最初から得意な人はいないので、とにかく、機会を増やして、回数を多くこなして、その状況に体を慣らしてしまうんです。あと、慣れるためには、練習はできるだけたくさんした方がいいです。鏡とか見てするのも、いいです」
筆者:「鏡を見て、ですか?!」
A課長:「それに、事前に家族とか、自分の部署の人、二~三人でいいですから、見てもらって、アドバイスをもらっておくと、本番の緊張はだいぶ違ってきますよ」
筆者:「えー、それすら、緊張します!」
A課長:「僕は心理学者じゃないから……。でも、誰でも最初は、慣れるよう取り組むしかないです。それには、とにかく練習を多くすることです。僕だって、今もプレゼンの前は、結構緊張してるんですよ。でも、そのあがり症は、催眠術とかで治せたりできないかなあ(笑)」
A課長からは、「とにかく、多くの量の練習をする」というアドバイスをいただいた。
その後のこと。
他の部署のトップから、プレゼンのコツについて従業員にレクチャーして欲しいという依頼が出された。そのアイディアは大当たりで、受講希望者が予想を上回った。
予算をかけないということで、研修の企画が素早く通った。つまり、外部の講師を呼ぶのではなく、A課長と、普段から発表を多くこなす管理部門のB部長のふたりに白羽の矢を立て、
講師をしてもらうことになった。
これはちょっと驚きの企画で、B部長が45分間レクチャーをして、それに続けて、A課長も45分間、同じテーマでレクチャーするというものだった。ふたりは内容が被らないように相談したそうだが、忙しいこともあって、ふたりが事前にすり合わせたことは、ただそれだけだったそうだ。
B部長の内容は、パワーポイントなどスライドを使う場合の注意、例えば、後ろの席の人まで見えるように大きなフォントを使う、細かい説明までスライドに盛り込まないようにする、図にできるものは図を使い、表にできる数値は表で見せて、視覚に訴えるように心がけると効果が高く説得力が増す、そういった内容だった。
B部長の45分のレクチャーは、あっという間に終わった感じがした。
A課長の内容は、発表する人の事前準備に何が必要かに始まり、発表の服装や立ち位置、目配りなどの動作、質問に対応できるような時間配分の取り方、聞きやすい話し方、間の取り方、声の大きさ、聞き手が途中で眠くならないようにする工夫、そういったことが中心だった。
そしてA課長自身は、最後に自分のレクチャーをビデオ撮影し、それを研修課のメンバーと一緒に見ながら、意見を出し合い、できる限り完成度を上げて仕上げているのだという。
その徹底した打ち込み方には驚いてしまった。
そしてレクチャーの最後に、「これだけはいつも覚えていて下さい」とA課長は言った。
「ここで私の話を聞いているみなさんは、私の発表のために、わざわざ、忙しい仕事の間を割いて、今日ここに来られています。だから、行って良かった、有意義な時間を過ごせたと
思って帰りたいですよね?
誰も、Aの話はつまらなかった、時間を無駄にした、行って損した、とは、思いたくないですよね?
ということは、ここにいる全員が、今日の私の、発表がうまくいくことを望んでいるのです。
聴衆は、自分の発表の成功を望んでいるんです。
ご自分の発表のときには、それを忘れないで下さい。
私からの話は、以上です。」
自分の成功を、聴いている人達が望んでいる。
わたしに大きく欠けていたのは、そんな風に、外側からの思いを、受けとめる作業だったかも知れない。
《終わり》
***
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