サンドペーパーでアドリブに磨きをかけよ!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:塚井綾(ライティング・ゼミ平日コース)
社会人になって、もうすぐ20年になります。
もともとは文学部出身で、人に教える仕事がしたかったのに、何を考えたのか最初の3年間はシステムエンジニアをしていました。
「やっぱり人に教える仕事がしたい!」と初心に返り、ITインストラクターへ転身。
その後、何度か会社は変わりましたが、今も継続して講習会やセミナーの講師をやっています。
社内外の人間とコミュニケーションをとるとき、「聞き手にとってわかりやすく伝える」ということが大切です。
例えば、テンプレップの法則(「伝え方の教科書」の著者である木暮太一さんが考案)という伝え方の「型」があります。
Theme(話のテーマ)
Number(言いたいことの数)
Point(結論・要点)
Reason(理由)
Example(具体的な話)
Point(結論・まとめ)
このとおりに話せば要点がブレることなく相手に伝えることができる、という非常に便利な「型」です。
社内のミーティングで報告するときなどに、とても役立っています。
しかし、講習会やセミナーとなると、ちょっと話が変わってきます。
予め用意しておいた「型」どおりに、ただ進めるだけでは、お客さんはついてきません。
特に無料のセミナーでは、お客さんは容赦なく席を立っていきます。
こうなってしまうと講師としては非常に切ないです……。
物を買ってもらう、サービスに興味を持ってもらう、など人の心を動かすには
聞き手をよく観察して、次の一手を繰り出す必要があるのです。
そう、それはアドリブ。
先日偶然にも、ある男の子がアドリブを駆使している光景を見かけました。
それはまるで、粗目の#40くらいのサンドペーパーでざっくり削ったようなアドリブでしたが、非常に目を引くところがありました。
私はその日、ファミリーレストランでオンラインセミナーを受講していました。
片耳にはイヤホン、もう片方はウェイトレスの声が聞こえるように、イヤホンを外していました。
しばらくして、大学生くらいでしょうか。男の子が2人入ってきて、ひとつ間を空けて隣の席に座りました。
特段、気に止めていませんでした。彼らが「ピンポーン」とボタンを押すまでは。
このファミリーレストランはメニューブックがなく、タブレットで注文する形式です。
どうしてボタンを押すのだろう?
そんな素朴な疑問から彼らの席に目をやると、
「すいません、高校生ですか?」
「……違いますけど。なんでですか?」
「いや〜、かわいいなと思って」
おおっぴらにウェイトレスをナンパしている! まったく周りを気にする様子はありません。
「このあと花火やるんです。今年はいろんな花火大会が中止になってるでしょう。一緒にやりませんか?」
「そうですね、花火大会が中止になって残念ですよね。このあたりで花火をやる場所、あるんですか?」
「ありますよ! 多分。この辺、地元じゃないんでわからないんですけど(笑)何時あがりですか?」
「……9時半ですけど」
「じゃあ花火しましょうよ!」
その後もしばらく話し続け、ウェイトレスは奥に下がっていきました。
「高校生ですか?」から始まって、以降はちょっと強引な、荒削りなアドリブ。
それでこんなに長くコミュニケーションが続くとは、正直驚きました!
ほどなくして男の子はお店を出ていきました。ナンパは失敗したのかもしれません。
『そんな日もあるさ、元気だしなよ』
余計なお世話かもしれませんが、そんな眼差しで見送りました。
そこから真面目にオンラインセミナーを受講し、私がお会計をしたのは9時半前。
お店の自動ドアを出て駐輪場へ向かう途中、ふと道端に目をやると、先程の男の子がガードレールに寄りかかって話し込んでいるではありませんか!
そういえば、ウェイトレスの子が9時半あがりと言っていたような……
予想に反して、ナンパは成功していたのかもしれません。
相手に合わせたアドリブがあってこそ、人の心は動く。
今回は「花火」というキーワードが相手にマッチしたのでしょうか。
たとえ荒削りであったとしても、相手に対して一生懸命であれば効果はあるものだなぁ。
そう感じた出来事でした。
アドリブは一朝一夕で身につくものではありません。
それなりに鍛錬が必要です。
そういう点からいうと、ナンパはアドリブに磨きをかけるための、立派な修業の場といえるのかもしれません。
ナンパに限らず、臆することなく気軽に人とコミュニケーションをとってみること。
例えば、普段あまり話さないご近所さんと世間話をしてみる。会社で気難しいと有名な上司に思い切って話しかけてみる。
など、自ら課題を作ってチャレンジしてみてもよいかもしれません。
そのコミュニケーション一つ一つが、サンドペーパーのように自身のアドリブに磨きをかけてくれるでしょう。
ちなみに、私には息子が3人います。
いまはまだ小さいですが、これから大きくなって、もし短期間で彼女が変わったとしても大目に見てやろうと思います。
余計なお世話かもしれませんが、『アドリブに磨きをかけている途中なんだな、がんばれよ』と。
≪終わり≫
***
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