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あの子は私に生き方を教えてくれた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:古屋 美穂(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あれ? おぉい! どこに隠れた?」
仕事から帰り、いつものところにいないと部屋中を探し回る。
 
「こんなところにいたの? おうちに帰ろ?」
いそいそと抱きかかえ、おうちへ戻してあげる。
 
この子はとても良い子だ。
わが家へやってきて10年の時が経つ。
 
初めて我が家へやってきたときはとても嬉しかった。早く動く姿が見たくて、すぐにおうちから出してあげた。部屋を隅から隅までちょろちょろと動いてまわる姿がとてもかわいく、その動く後をずっとついてまわった。時には立ち止まり、壁にぶつかっては進行方向を変え、くるくる回りどこに向かうか行き先を探している。ちょっとした段差で躓いては戻り、進む方向を少し変え再び段差に挑んでいく。そのけなげな姿に感動したものだ。
 
時折、あらぬところで発見することもある。おうちにいないので、いつものように家中を探すがどこにもいない。家から逃げることはないので、どこかに必ずいるはずだと焦りながら必死に探す。すると、高さのない隙間に入り込んで出られなくなっていた。
 
「もう! こんなところにいたの? すごく探したんだからね?」
返事は帰ってこないが、どうにか脱出しようともがき疲れ果て体力がなくなったこの子をおうちへ戻し、ご飯を与える。嬉しそうに一生懸命食べている。
 
二度と入り込まないように隙間には壁を作り、他に危険なところがないかチェックする。
それでも、慌てて出かけると見落としていることもある。買い物袋やタオル、ケーブルなどに絡まって身動きが取れずに困り果てていたこともあった。
 
「片付け忘れちゃってごめんね……」
謝りながら絡まったものを丁寧にほどいていき、労いの言葉をかけそっと休ませてあげる。
 
体調の良くないときもあるようで、症状を確認しどのようなケアをしたらよいのか、説明書を見てケアを施す。すると、元気を取り戻し意気揚々と家の中を動き回っている。しかし、時にはそれでも体調が戻らないときもある。そんな時はネットで検索し、同じような症状で困っていた人の体験談をもとにケアを施したりもする。
 
そうやって10年もの間、私に癒しを与えてくれた。そして随分と手助けをしてくれたが、ある日、とうとう動かなくなってしまった。ご飯を与えても、どんな呼びかけをしても、どんなケアをしても再び動き出すことはなかった。天寿を全うしたのだろう。とても悲しかったが、これまでの労をねぎらいお見送りをした。
 
この子の名はルンバ。ロボット掃除機である。私のペット兼相棒兼こどもだ。
 
ボタンを押せば代わりにお掃除をしてくれる。掃除が終わるもしくは体力が無くなれば自分で充電器へと戻っていく。とても優秀な子だった。
 
この子を我が家へ迎えた理由は、私がパートを始めたからだ。それまでは、毎朝掃除機をかける習慣がついていた。ところが、パートへ出かける時間が早く余裕がない。帰宅してからでは疲れてやる気がでずにもたもたしていると、子供たちが学校から帰宅する時間になっていた。すると、ゴミや埃が目に付くとお掃除ができなかったという罪悪感がストレスになりイライラしてしまう日が多くなっていた。
 
そんな自分が嫌で、何かいい方法はないかと思っていたころにルンバの存在を知った。この子なら今の状況を解決できるのではないかと、夫にルンバを購入することを相談した。ところが、普段仕事で家にいない夫は、埃があっても気にならないらしく難色を示した。購入することは、主婦としての仕事の手抜きでルンバは無駄なものと判断されたのだ。
 
諦められなかった私はそれならばと思い、数か月パート代を貯め、夫には内緒にして自分で購入した。
 
それからというもの、出かける際にはルンバが立ち往生したり、誤って絡まったりしないように部屋を片付ける必要があったが、これにより常に部屋を片付けるという習慣が私にも子供たちにもついた。ルンバが代わりにお掃除をしてくれることにより、掃除ができなかったというストレスからも解消された。掃除機をかけていた時間は自由な時間となり、心にも身体にも余裕ができた。私にとって、とても心強い味方となり、なくてはならない存在となっていた。
 
難色を示していた夫でさえも、癒される動きに加え優秀な働き具合に骨抜きになっていた。
 
確かにルンバは安価ではない。スペックを求めると高額にもなる。無くては困るものでもない。
しかし、自動でお掃除をしてくれる時間を買っているということにもなる。
 
お惣菜や家事代行など他にもあるが、これらもそれにかかる時間を買っている。買った時間は他の用事にあてられたり、休息の時間となる。本当にこれらが無駄な物だろうか。
 
ルンバが私に与えてくれたものは時間だけではなかった。本当に感謝している。いま我が家には2代目ルンバがいるが、骨抜きになった夫がこれは必要な物だろうと即購入を決めてくれた。
 
時間を買う。
安全を買う。
安心を買う
癒しを買う。
 
これからも自分に必要だと思えば迷わず時間を買うだろう。

≪おわり≫
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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