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メディアグランプリ

仕事で唸っていた自分に、黒板の神様が教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森真由子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
午後のまだ太陽が照りつける時間、教室は半分閑散としていた。
全ての机が後ろに移動され、ほこりが光の中で舞っている。
教室の先頭に目を向けると、黒板の前に3人の神様が立っていた。
 
2人はゆっくりと黒板消しを持ち上げ、1人はチョーク入れを取り出した。
それぞれ初動を見定め、何かの合図が発せられたかのように、てきぱきと手元を動かし始めた。
黒板の神、黒板消しを黒板に押し付けながら、寸分の狂いもなく真っ直ぐ下に腕を下ろしていく。
粉受けの神、黒板の下にある銀色の粉受けに溜まったチョークの粉を黒板消しで吸うかの如く、微塵も残さず拭き取っていく。
チョークの神、こちらもチョーク入れに溜まった粉をさっと捨て、チョークを綺麗な背の順に並べていく。
 
数十分後、黒板は新品同様の美しさを取り戻し、神様たちはもと来たところへ帰っていった。
 

 
お昼休憩後の少しまどろみかけていた頃、ふとあの教室と黒板が頭の中に浮かんできた。
懐かしい学生時代の光景だった。
 
大人になり仕事を始めてから、たまに学生の楽しかった頃を思い出してしまう。
何も具体的なことを思い出せなくても、なんとなく楽しかったという当時の気持ちだけは思い出せる。
あるいは、案外特別でもなんでもない日常のささやかな楽しさが突如思い出されたりするかもしれない。
 
私が度々思い出してしまうのは、自分がかつて神様だったときのこと……。
誤解のないように今のうちに正しておこう。
この回顧は、かつて私と友人たちが神様になりきった頃のことだった。
私たちは、何を思ったのか、掃除の時間になるとそれぞれ黒板の神様になりきるスイッチを入れていた。
 
掃除なんて正直面倒だった。だけどやらないといけない。
そんな中で私たちが編み出した究極のなりきりゲームだった。
自分が黒板の神だと思い込む。
神様だから当然黒板を愛し、丁寧に扱わなくてはならない。
雑に扱ったり、塵ひとつ残すことは許されない。
常に黒板は私たちの手によって綺麗にならなければならない。
 
神様と言ってしまうと、かなり妄想力が飛躍しているかもしれないが、中学生だったため当時の私たちをどうか大目に見てやってほしい。
言い換えると、私たちは黒板掃除のプロフェッショナルになりきっていたに過ぎない。
でもこのなりきりごっこが、思いの外、面倒な掃除を楽しいものにしてくれた。
でないと、こんな風に大人にもなってもふとした瞬間に思い出したりはしないだろう。
 

 
現実に引き戻された。
私の目の前は会社のデスク、そしてその上にはノートパソコン。
メールを確認すると、またいつものトラブル対応案件が入ってきていた。
これも正直面倒な仕事だった。見た瞬間パソコンを閉じて、逃亡したかった。
だけど、これは私の担当業務。自分でやるしかない……。
 
気の進まない業務を前にして唸っていたところ、神様だった頃の自分を思い出した。
ただの掃除で楽しんでいた頃の自分はどこに行ってしまったのやら。
あの頃は妄想力に富み、遊びのプロでもあった。いつの間に自分はこんなに遊びが欠如した大人になってしまったのだろう。
 
切り替えて、一層のこと自分はトラブル対応案件の神様にでもなろうかと思ってみた。
会社でこんなことを考えているのはシュールだが、誰も頭の中は見えやしない。
これくらいの妄想力なら許されて然るべきだろう。
 
再びメールを開き、キーボードを叩き始めた。
いつも対応するときに使うフォーマットを自分好みの分かりやすいものにちょっと改良してみた。神様だったらこんなフォーマットをご用意されるだろうか。
中身をどんどん入力していく。
メール本文に間違いないがないことを確認して、関係者へ一斉送信する。
 
次にトラブルが来た時は、前回よりもより早く反応し、対処していく。
私でなくともできる業務だが、私はトラブル対応の神様なのであれば、周りと同じ対応ではいけない。
誰よりも迅速に、誰よりも分かりやすく、対応していく。
ここ数ヶ月、自分の中でそんなゲームをやっていた。
 

 
「またトラブルの連絡をするから、いつもの職人技を頼むよ」
普段トラブル対応で連携を取っている方から、こんなことを言われた。
神様ではなく人間ではあるけれど、どうやら周りから私の対応は職人技と言われているようだった。
職人か。悪い気はしなかった。
特別難しいことはしていなかったが、素人と比べたらまずまずの評価なのでは。
 
満足したのも束の間、自分はなんせ職人と称されているのだからこれからも質を落としてはいけない。職人技と言われ続けるようにしなければ。
そんな変なプレッシャーを自らかけてしまったけれど、意外とこれが面白い。
気が重かった業務もプロフェッショナルになりきってみたら、そんなに後ろ向きでなくなってきた。
 
こういう仕事のスタンスもありなのではないか。
最初はつまらなくても真剣に遊んでみたら、仕事も面白い気がしてくる。
黒板の神様になりきっていた中学生の自分は、既にそのことを分かっていたのかもしれない。
遅ればせながら、面倒な仕事の乗り越え方の一つの方法に気付けた。
全ての業務ではできないかもしれない、だけどたまにこういうやり方を試してみるのもありだろう。
今になって、黒板の神様にこのことを教えてもらったような気がする。
 
<<終わり>>
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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