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一目惚れがくれたもの


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一目惚れがくれたもの
 
記事:吉田さゆり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
一目惚れ。
その瞬間から、身体が勝手な反応をしてしまい、自分ではどうする事も出来ない。目は見開くし、心臓はドッキーン! ドクドク、ドクドク。足が震えたり、声が上ずったり、頬が赤くなったり。
 
本当に、一目惚れって、赤ちゃんみたいだ。
制御不能で、私の立場や状況はおかまいなし。
今、都合悪いからちょっと待ってなんて、聞いてくれやしない。
 
私がそんな経験をしたのは、進学のために上京して間もない18歳の頃。
場所は今も昔もお洒落な街、自由が丘。
 
改札を抜けて、明るい日差しの中に出ようと視線を外に向けた瞬間、私の目は釘付けになった。雷に打たれた事はないけれど、その表現しか思いつかない。正に、雷に打たれたようなもの凄い衝撃が走った。
 
きっと私の目は、目の前の光景に驚き、大きく見開いていた事だろう。心臓は高鳴り、動く事が出来ない。本当に、こんなに鼓動は早いのに、身体はその場から1ミリも動けない!
 
この状態は何?
ひょっとしてこれが一目惚れ?
見た瞬間虜になる。こんな事って起こるものなんだ!
 
私の視線の先にあったもの。
それは、駅のロータリーに停まっている1台の車だった。そう、私はその車を見た瞬間、恋に落ちた。その車の虜になってしまったのだ。
 
言っておくが、私は前から車が好きだったわけじゃない。むしろ全く興味がなかった。いや、それ以上だ。乗り物酔いする事もあって、出来れば車とは関わりたくない、避けたいと思っていた。もちろん、免許は持っていない。
当然ながら、その車の名前なんて知るはずもない。
 
そんな私が、まさか、車を見てこんな気持ちになるなんて!
まるで人間に抱くような、好きで好きでたまらない気持ち。
私は頭がどうかしちゃったんじゃないかと思った。
 
頭がどうかしちゃったと思いながらも、もう一方の私はこれを運命だと感じていた。
この気持ちは何?
何でこんな事になっているの?
私は、その名も知らぬ車をただ、ただ見つめ、目に焼き付けた。
そして、免許を取ったら絶対にあの車に乗ると心に決めた。
 
人生って不思議な事が起こるものだ。
乗り物酔いをするから車は苦手。興味はない。
それなのに運命を感じるなんて。
 
そんな事を考えていたら、ふと、子供の時に一度だけ車と関わった瞬間があった事を思い出した。
小学生の頃、遊園地でゴーカートに乗ったのだ。
あの時はゴーカートに乗る事がとても嫌だった。というより、怖かった。
じゃあ、何故乗ったのか。
弟が乗りたいと言い出したからだ。
弟が乗るからには、姉の私が乗らないわけにはいかない。
当時の私は怖がりのくせに、姉のプライドも人一倍ある面倒な子供だった。
 
そんなこんなで初めてのゴーカート。
ゴーカートに座ると、さっきまでの姉のプライドはどこへやら。何で乗っちゃったんだろう。自分を呪いたくなるくらい、後悔した。
一人でゴーカートを動かす。自分一人で何かをするという事が、とても怖くて心細かった。
 
誰の助けも借りずに一人でやらなくてはいけない。
 
やった事がない事をやるなんて。全く知らない未知の世界なのに。
嫌だ! 逃げたい! 怖いよ!
不安で、不安で、仕方がない。
 
遊園地の乗り物くらいで大袈裟過ぎると思われた人もいるかもしれない。
なんて憶病な子供だろうと思われた人もいるかもしれない。
確かにそうかも。
ただ、あの時の私は、本当に怖かった。
他の、ジェットコースターの様な乗り物系アトラクションは、全く怖くない。
何故って、それは座ればゴールまで連れて行ってくれるから。自分は何もしなくていいから。誰かが作った決まったレールに乗っかるだけだもの。行きつく先の未来も分かっている。だから安心。
 
でも、ゴーカートにレールはない。今のゴーカート事情はどうなのか知らないが、私が体験したゴーカートは屋外にあり、サーキット場の様な作りだった。確かに、決められた敷地の中で完結するし、ゴールはスタートからは見えなかったけれど必ずある。ただ、そのゴールへ、どの様に行くのかは自分次第だ。極端な事を言えば、やっちゃいけない、逆走行だって出来るのだ。他の車にぶつかる事もあるだろう。
そんなトラブル、他の乗り物にはなかった。
そう、自分で決めて自分で行動するという事はトラブルが起こる。私はそれが怖かった。
 
スタート音がなった。
もう、逃げられない。
 
私はアクセルを踏んだ。
 
その瞬間、私の中の何かが変わった。
そして、世界は一変した。
風を切る爽快感とスピード感。自分の握るハンドル次第でどこにでも行ける自由さ。
確かに他の車とぶつかったし、クラッシュしそうにもなった。更に、自分一人ではにっちもさっちもいかない状態にもなった。
 
だから何なのだ?
ぶつかってもお互い様じゃないか。相手だって、似た様に右往左往している。クラッシュしそうになった経験は、次のコーナーを攻める別のやり方を思いついた。何より動けなくなった時は、助けてくれるスタッフがいた。
 
そうだ。一人じゃなかったんだ。
やりさえすれば、他にも同じ様な人だらけだと気がついた。それに、助けてくれる人も現れるのだ。
なんだ。何もトラブルなんてないじゃないか。
ただ、やりさえすれば。方法はいくらでもあったんだ。
 
不安や恐れは踏み出す前に自分が作りだした幻想に過ぎなかった。
踏み出しさえすれば、そこには全く知らなかった素晴しい世界が待っていた。
私はその後、もう一回! とせがんだ事は言うまでもない。
 
そうだった。何でこんな楽しかった思い出を忘れていたんだろう。
私が興味ないのは車じゃなくて、運転席以外の場所だったんだ。あの時の事を思い出したら、本当は私はめちゃくちゃ車好きなのだと気がついた。
自分で自分の好きな道を自由に走るって最高に気持ちいいじゃないか。
第一、自分で運転していれば、車酔いとは無縁だ。
 
その後、お財布事情から、学生時代に免許を取る事は叶わなかったけれど、就職してから晴れて免許を取得した。免許を取った後は、もちろん、中古車屋であの時見た車を探しだした。
 
その車の名前はRX-7。
私は7君と呼んでいる。
 
あれから月日は流れ、今も7君は元気だ。
流石に高齢なのでメンテナンスをしても、色んなタイミングで色んな事が起きる。その度に周囲の人に助けてもらい、そこにドラマが生まれている。
そして、私は、そんな全ての事に感謝している。
今も、全ての経験は私の人生をより豊かに、より自由にしてくれているから。
 
本当に、本当にありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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