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貧乏すぎて子どもを小学校に行かせることができませんでした。


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貧乏すぎて子どもを小学校に行かせることができませんでした。
記事:坂東 愛(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
子どもを産んだとき、まさか社会復帰できないとは思わなかった。
 
子どもを保育園に預けられなかった。
待機の順番待ちでも、仕事が決まらないと預けられないという矛盾でもなく。
同居の母の年齢が原因だった。
就労していない65歳未満の家族がいる世帯は、保育園を利用できない。これが私の住む自治体のルールだった。
 
母が65歳になるのは半年以上先。
役所の窓口で説明を聞くと、社会復帰は不可能だった。
保育料の基準は世帯年収に加え、親の年金も加算されるのだという。とっさに浮かんだのは近所のコンビニのパート募集の貼り紙だ。その時給では保育料だけでプラスマイナスゼロ。預けたら赤字。高い時給で働くには、片道1時間半から2時間ほどかけて、都内に通勤するしかない。朝一番に預ければ、間に合う職場はあるだろう。しかし、最も遅い保育園は19時まで。定時にダッシュで帰っても、ほんの数分、電車が遅延したら間に合わない。
迷惑をかけないという約束で戻った実家。お迎えの協力は絶望的だった。
 
経済的に自立できる仕事を探して、来る日も来る日もネットで検索。ため息をつく毎日は、子どもが幼稚園に入るまで続いた。
子どもの幼稚園では、勤めに出ていない親でも、預かり保育を利用できた。
17時30分までで、利用できない日もある。その時間で何でもしようと、ポイ活やアフィリエイト、転売を試した。
知識があればもっと収入を増やせるだろうと、かなり無理をして高額の情報商材を購入した。コンテンツビジネスの話を持ちかけられ、記事を量産したこともある。
起業している人にも相談。自分が在宅で収入を得るために何ができるのか、アドバイスもいただいた。
 
どれだけ勉強しても、アドバイスどおりに行動しても、実家から独立するまでの収入にはいたらなかった。夜中、寝息をたてている子どもの隣で眠れずに、じっと天井を見つめては不安になっていた。
もし子どもを保育園に預けられたら。家から通えるところにフルタイムで働ける仕事があったなら。何度そう思っただろう。
 
救いだったのは、仕事がないわけではなかったことだ。
単価は低いが、登録したクラウドソーシングサイトからオファーは頻繁にあり、次々と受注できていた。
子どもが年中になったあたりから、徹夜して一睡もせず、ふらふらになりながら、弁当作りや送迎をするようになった。
頑張って納品を続けていれば、次の仕事につながった。こちらから特に何もしなくても、仕事はほぼ毎日あった。
 
時間の融通もきき、人間関係のトラブルもない。
何でも自力で解決しなくてはならない大変さはあったが、時間をかければたいていなんとかなり、自信もついた。
 
小学校入学まであと1年になった頃、また目の前が真っ暗になるような問題が立ち上がった。
 
子どもは学童保育も利用できなかったのだ。
 
母が専業主婦で家にいる以上、それは避けられないと薄々わかっていた。
問題は私が在宅で仕事をしていることで、学校にまつわるあらゆる役割がふりかかることだった。自分の時間を犠牲にすれば、対処できないわけではない。しかし、仕事と家事と育児に加えて、これ以上何かをする体力は私になかった。毎日3時間睡眠で、やっと生活していけているのに、半月も朝の旗振り当番はできない。半月、下校の付き添い当番はできない。6年間のうち4回はPTA役員と子供会役員が交互に回ってくる。その役割を担うことで、どのくらい収入が減るのか試算してみた。年収が半分になりそうだった。子どもの成長は喜ばしいことのはずなのに、気がついたら真綿で首を絞められているような恐怖が、強くなっていった。
 
私の冴えない顔色に気づいたのだろう。子どもは学校に行きたくないと言い出した。ただでさえ、家から学校まで大人の足でも往復1時間。1年生なら片道2時間。アップダウンも激しく、学区の外れに住んでいるため、最後は1人で家まで帰らなくてはいけない。仲良しの友達が行くことをのぞけば、子どもが学校に行きたい理由は何もなかった。
だから、親子で深刻にならざるをえなかった。急だったとはいえ、離婚したことで、経済的にも精神的にも、子どもに苦痛を与えてしまっていると思った。
 
私に必要なのは勤めに出るということ。
たったそれだけのことなのに、どうしてできないのだろう。
結局、貧乏すぎて、私は子どもを地域の小学校に行かせることができなかった。
 
ところが2年後。
 
コロナ禍で、地域の学校は2ヶ月にわたり休校。夏休みも短縮された。
子どもの通う学校でも休校期間はあったが、オンライン授業があり、学習の進度に目立った遅れはなかった。
 
学校はスクールバスがないと通えないほど遠い。しかし、小規模校なので「密にならないから、安心して通える」と子どもは笑っている。
 
入学のとき、私は6年間、子どもにすまないと思い続けていくのだろうと思っていた。
それがオセロをひっくり返すように、この決断で良かったと思える事態になった。
これから先はわからないが、在宅で仕事をしていたことで、今のところ収入を減らさずに済んでいる。
 
コロナ禍で、自分の中の霧が晴れた。
「みんなと同じようにできることばかりが、いいわけじゃない」と。
 
就職氷河期に大学を卒業、定職につくまでに6年もかかった。市販の履歴書には書ききれないほど、転職も重ねた。
だから、レールの上を走れない自分にコンプレックスを感じ続けてきた。
 
でも、職を転々として来たからこそ、いろいろな局面での対応力が身につき、
子どもを今の学校に入学させることもできた。
 
誰も知らないところで始まった子どもの小学校生活。今では交換日記をするほど、仲良しの友達ができた。夜、寝る前に一緒にベッドで横になりながら、学校での出来事を楽しそうに話す毎日がある。
 
けっこう、ちゃんと頑張れてきたじゃない。
やっと今までの自分を認めてあげられた。
 
また、中学生になる頃、壁にぶちあたるのかもしれない。
今度は就労できないことを嘆く前に、壁をクリアする方法をわくわくしながら、考えるはずだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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