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「偏差値28の高校生がキレた学年新聞」


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「偏差値28の高校生がキレた学年新聞」
 
記事:佐野 タケヒロ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
高校3年生の4月。
高校内の学年新聞が配られた。
 
「えっ!」
 
その学年新聞を見て驚いた。
なぜなら自分の模試の成績が掲載されていたからだ。
名前は伏せてはあるが、明らかに自分の成績なのだ。
 
なぜ自分の成績だというのがわかったかというと、
すでにその模試の成績表はすでに受け取っていたのと、
国立大学志望は、学年で約400人中2人だったからだ。
 
その成績はもう一人の同級生と、棒グラフで比較されていた。
もちろん、そのもう一人の方が、成績はよかった。
 
「冗談じゃない! なんでこんなことするんだ!」
 
感情的にはなかったが、抗議しようにも、あまりにも惨めな成績なので、
抗議できない。だから、怒りを抑えた。
 
その一ヶ月前の3月、新高3対象の模試を受けた。
高校生になってはじめて受けた模試だった。
国立志望であるので、5教科だった。
学校のテストとは、異なり非常に難しいと感じた。
 
一か月後の4月に成績表が返ってきた。
5教科の総合的な偏差値が書かれてあった。
 
「28」
 
この数字の意味が一瞬わからなかった。
中学生時の高校受験の偏差値で「43」というのは自分の成績で見たことがある。
しかし、「偏差値28」というのは見たことがない。
 
点数かなと思ったが、偏差値と書いてある。
また、新たな換算値でも導入されたのかと思ったが、そうでもない。
成績表をくまなく見たが、間違いなく偏差値であった。
 
これは正直、やばいと思った。
 
高校受験と大学受験のレベルが異なることが全くわかっていなかった。
なので、これからは相当勉強しないといけないと思った。
 
そのように思っていたときの学年新聞だった。
国立大学志望者2名の偏差値が、棒グラフになって掲載されているのだ。
 
一人が、偏差値68。
そしてもう一人が、偏差値28。
低い方が自分である。
お互いが競っているのではない。
明らかにデコボコな棒グラフのである。
 
今でもなぜ学年新聞がそのような模試結果を掲載したのかわからない。
学年新聞の発行者の意図を自問自答した。
 
「こんな低い成績でも国立大学を受けようとしている人がいるので、みなさんもがんばりましょう」
 
それとも逆なのだろうか?
 
「よくもまあ、こんな成績で国立大学を受けようとするなんて。はずかしいと思わないの。あなた、これから大変ですよ」
 
それから、しばらくはその学年新聞のことは頭から離れなかった。
なぜ自分の惨めな成績を掲載したのかを、発行者に問いただしたかった。
 
クラスの友人が話しかけてきた。
「これみた? もしかしたら、おまえじゃないか?」
「おれじゃないよ!」
 
その不自然な挙動で、自分の成績だということがばれてしまったようだ。
その他の友人は、自分の成績を知ったようで、話しかけてこなくなった。
学年全員から笑われているようで、どこかに逃げたかった。
 
「あいつ、国立大学を受けるんだってよ」
「こんな成績で、よくやるよ」
「レベル下げた方がいいじゃないか」
 
そんな会話を妄想して、苦悩した。
 
その後の受験勉強中、やばい! くやしい! はずかしい! という感情が抜けなかった。
 
こんな感情を受験中、現役~2浪までの約3年間ずーっと持ちながら勉強していた。
 
成績が上がらず、落ち込んだときもあったが、あの学年新聞を思い出すと、「なにくそー」と言って、またがんばれた。
 
現役で大学に落ちたとき、「ほら、それ見ろ。やっぱりな」という声が聞こえたが、「学年新聞で笑ったやつら、今に見ていろー」と思った。
 
一浪で大学に落ちたときも、「やっぱりな。あの偏差値では、浪人しても国立大学は無理なんだよ」という声が聞こえたが、「まだ終わっていないぞー」と思った。
 
このように、自分はあの学年新聞で奮起した。
あの掲載された出来事に対して、自分で勝手に憤慨して、勝手に努力したのである。
 
結果的に、2年間浪人して、国立大学に合格した。
嬉しかった。
 
正直、2年間浪人してもギリギリだったので、
合格できて心から嬉しかった。
 
本当に嬉しかったので、その学年新聞のことは忘れてしまっていた。
最終的に大学に合格できたので、その余韻で思い出しもしなかった。
 
しかし、その後学年新聞のことは時折思い出していた。
約30年経った今でもまた思い出すことがある。
 
正直、現時点でもあの学年新聞における成績の掲載は、
自分にとって、「理不尽な出来事」という思いが残っていた。
 
だから、学年新聞が見たくて、母校に問い合わせた。
あの学年新聞がどんな意図で自分の成績を載せたのか、
確かめたかったのだ。
 
「図書館の担当者をご案内します」
 
図書館では、いままで生徒向けに発行されていた出版物を
束で見せてもらった。
 
1時間以上かけてくまなく探してみたが、
自分が見たい学年新聞が見当たらなかった。
 
「もう探すのはやめよう」
 
なぜならば、犯人捜しをして、犯人の意図を
詮索しているようだと思ったからだ。
そこまですることは、意味がないと思った。
 
結果的に、自分は建設的な方向に進み、
よい結果が得られた。それでいいじゃないか! と思うようになった。
 
つまり、「理不尽な出来事」は、いろいろ思うところがあるかもしれないが、
最終的には、自分自身が成長する種となっていると思えたのである。
 
今後は、自分にとって「理不尽な出来事」が起こったと思ったら、
どういうことだ! なぜだ! という声をおさえて、
自分がどの方向に成長できそうかを“心を落ち着かせて”
考えるようにしてみよう。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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