メディアグランプリ

この世の終わりに 私は少しだけ救われた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さくらしおり   (ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
わんわん大声をあげて、子供のように泣いた。
まるで、この世の終わりのように・・・・・・。
 
去年の5月。
はなちゃんが、亡くなった。
目の前が真っ暗になるほど悲しかった。
 
16年半、共に暮らしてきた、かけがえのない家族、パートナー、相棒。
ある時は、私が母であり、ある時は、彼女が母のようだった。
そんな不思議な関係だった。
 
彼女との出会い。
それは、週末に、何気に立ち寄った先でのことだった。
 
真っ黒なちっちゃい子がいた。
目が綺麗で、利発で、ちょっとお転婆。
 
私は、私に反応して見つめてくる彼女から、目が離せなくなった。
「これはいかん」と思い、無理やり視線を外した。
 
気分を変えようと、辺りを一周、ぐるりと歩いた。
 
けれども、気がつくと、また吸い寄せられるように、彼女の前に立っていた。
そして、お互いが、じっと見詰め合う。
 
それを見ていた店員さんが、「抱いてみますか?」と言った。
私は、頑なに断った。
しかし、家族からも、「抱いてみるぐらい、いいのでは?」と薦められ、彼女を抱いてしまう。
すると、やはり、不思議なほど、しっくりときた。
 
それが、彼女との生活の始まりだった。
 
今思えば、目が合った時点で、すでに、縁が結ばれていたのだろうと思う。
 
彼女は、きらきらとした毛並みが綺麗な、ヨークシャテリアだった。
 
元気いっぱい、高くジャンプしながら、空中でボールをキャッチするのが得意だった。
ドッグランの遊具も、一度教えたら、二度目には全てこなす。
 
元気で、頭が良くて、凛としていて、人の気持ちが良く分かる、ちょっとお転婆な女の子。
 
当時、私には、家族のことで、辛いことが多くあったが、そのどの場面にも、彼女が一緒にいて、その場を共有してくれた。
 
いつしか、私は、彼女に、ただの家族ではない、もっと深い絆を感じていた。
辛い時を共に過ごし、乗り越えてきた、戦友であり、運命共同体のように思っていた。
 
しかし、元気いっぱいだった彼女も、歳をとり、最後の2年位は、体調が良くなかった。
心臓も悪かったし、腎臓も悪かった。
 
彼女自身、とても辛かったと思う。
 
私は、彼女が、食事を食べるか、食べないかに、一喜一憂した。
体調が急変すると、夜中でも、タクシーで、夜間の動物病院に連れて行った。
知らぬ間に呼吸が止まってしまうのではと、夜も、熟睡できなかった。
 
私のエゴだったかもしれないが、少しでも長く、一緒にいたかった。
 
そんな生活が長く続いたある日、ついに、私まで寝込んでしまった。
気力と体力が、限界に達していたのだと思う。
 
彼女と暮らし始めた時は、旦那がいたが、その後、私は離婚していた。
 
「これから先、私1人で彼女を見ていけるのか?」
「もっと、人の助けを借りようか? どうしたら良いか?」
そんな弱気な気持ちが、ふと、頭をよぎった。
 
その日から数日後。
私に、これ以上の無理をさせまいとするかのように、彼女は、すっと亡くなってしまった。
 
亡くなる前日には、珍しく、ちょっとした悪戯をして、私にじゃれてきた。
そういったこと自体が、久しぶりで、私は、昔を思い出して、とても喜んだ。
あれは、最後の思い出作りだったのだろうか。
 
「はなちゃん! はなちゃん!!」
 
私は、動かなくなった彼女に向かって、大声で叫び、わんわん泣いた。
大人になって、こんなに声を出して泣いたことがあっただろうかと思うくらい。
まるで、この世の終わりのように、悲しかった。
 
今でも、彼女がいない生活は、とても寂しい。
けれども、唯一、救いだったこと。
 
それは、もっと、こうしておけば良かったという後悔がなかったことだった。
最後の時まで、彼女と、彼女の病気と、精一杯向き合えたから。
 
いつ別れが来ても、後悔をしたくない。
それは、私の過去の経験によるものが大きい。
 
私は、3年の間に、父を亡くし、祖母を亡くし、叔父を亡くした。
そのうち2人は、想像もしなかった、ある日突然の別れだった。
悲しみが少し癒えたと思った矢先に、次々とやってきた親しい身内との別れ。
 
そして、その度に、私は、後悔した。
 
「もっと、一緒にいれば良かった」
「もっと、こうしていれば良かった」
「もっと、こう伝えていれば良かった」
 
「もっと、もっと」と溢れる後悔・・・・・・。
二度とそんな思いをしたくないと思った。
 
そのため、はなちゃんの体調が悪くなり出した頃から、毎晩こう話しかけた。
 
「今日も、一緒にいてくれて有難う」
「はなちゃんは、大事な、大事な家族だよ」
「大好きだよ」
 
いつ、彼女の病状が急変して、別れの時が来るか分からない。
彼女が生きている間に、必ず伝えておきたい、知っておいて欲しいと思った。
 
彼女は、「分かっているよ」とでもいうような、優しい顔をして、毎日、幸せそうに聞いていた。
 
たくさんの大切な家族との別れを経験して思うこと。
 
大切だと思う人であればあるほど、その時、その時、しっかりと向き合いたい。
今という時は、この瞬間しかないのだから。
後で後悔することのないように・・・・・・。
 
はなちゃんとの別れ。
それは、この世の終わりのように悲しかったが、後悔がなかったことで、私は少しだけ救われた。
 
はなちゃん、ありがとう。愛をこめて。
 
<<終わり>>
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 


 
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事