病んでいる自分を味わうというススメ
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記事:まあすけ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
中学校の時通っていた塾で、ある数学の先生は言った。
「ウツはねえ、いいんですよ。こうね、キューっと集中力が上がるんです。だから難しい数式なんかを解くときは、ウツが良いんですよねぇ」
なんの文脈でそうなったのかはよく覚えていない。
もしかしたら、「いま僕、ちょっとウツなんですよねぇ」なんていうくだりから始まったのかもしれない。
あまりにも心地よく、味わうように、笑顔を浮かべて話したので、ものすごく強烈だった。
まだ周りに鬱気味の友達なんていなかったから、(というか、そんな認識をしていなかったから)、「ウツ」というものが何かわからなかった。
だけどなんらかの生理現象で、わたしは経験をしたことがないけれどこの人はいま、そういう不思議な状態にいて、数学を解くには絶好のコンディションなのだなぁ、ということは中学生になりによくわかった。
家に帰って母親に、
「数学の先生、ウツなんだって。だから、数学を解くのにすごく良いんだって」
と話した記憶がある。
「ふーん、そういうのあるかもしれないねぇ。なるほどねぇ」
と母親も納得していた気がする。
今思っても変わった先生だった。
というか、そんな先生よくお受験のための学習塾の先生をやっていたな、と思う。
よく考えると、そのほかの先生も変な人が多かったから、あの塾はもっと味わっておくべき場所だったかもしれない……
と、話は逸れたが、
この先生は「病んでいる自分を楽しんでいる人」だったんだなと、大人なってからたまに思い出す。
自分が仕事を始めて、辛いこととか、どうしようもないこととかがあって、
気持ちの整理がつかなくなったり、
ただただ倦怠感に襲われたりしたとき、
「あれ、もしやこれがあの先生の言っていたウツってやつかなあ」なんてぼんやりと考える。
実際には、別に鬱ではないだろう。ただあえて言葉にするなら、少し”病んでいる”だけだ。
ただその先生の気持ちは、正直言って、大人になって「わかるかも」と思うことがある。
病んでいる時の自分は、少しやられている時の自分は、とてつもなく感性が高まる思うのだ。
なんらかの実験結果とか、そういう時に私たちがヒトという動物としてどのような状態に陥っているのかとか、そういうことはわからない。
あくまでわたしの個人的な感覚なので、めちゃくちゃなことを言っているかもしれない。
でもこの先生と同様、やられている自分だからこそわかった、「いいんですよねぇ」がいくつかあって、そしてわたしは、割とそれを楽しんできた。
例えば、大きめの失恋をしたとき。
大好きだった相手から、「今上手く言ってないよね、別れよう」と言われ、まさに青天の霹靂。放心状態だったかんかん照りの夏の日、仕事で行った工事現場で幾度か、涼しい風が吹いた。
その度に工事現場のおじちゃん達は手を止め、「おお、いい風だ」とその風を味わった。
普段だったら、その姿を見てもただ「やっと風吹いたよ、暑すぎるんだよ」くらいの感想だろう。
ただその時はその風の心地よさに、涙が出そうになった。
「こんなに暑い日に吹く風は、こんなに心地よいのかぁ。わたし、知らなかったなぁ」
「いい風」という言葉は、この日から瑞々しさを帯びるようになった。
例えば、仕事がただ忙しく、生活を支配してしまうとき。
毎日忙しなく職場と自宅を行き来して、帰っても仕事をして。駅までの道もチャリンコで爆走する日々の中で、やっとの休日、いつもの駅までの道で紫陽花が満開になっていることに気づく。
「紫陽花の季節になっていたことにも気がつかなかったのかぁ。紫陽花って、こんな形で、こんなに美しかったのかぁ」
そんなとき、季節を感じて生活ができる尊さに涙が出そうになる。四季のある日本に生まれたことに大きく拍手をしたくなる。
小説とか、エッセイとか、映画とか、音楽とか。
そういった芸術や、文化的なものの吸収力もガッと上がると思う。
いつもよりずっと、刺さってくるフレーズが増えて、通常の1冊の1.5倍の感動を吸収できたような気持ちになる。
だから変な話だけれど、「ちょっと調子が悪いかも〜」と思ったら、科学反応を示しそうな何らかのエサを自分に与えるようにしている。
それがハマったら大正解。
いつもより研ぎ澄まされた感性で享受するそれらは、わたしの中にしっかりと沁みて、根を張ってくれる。
ちなみに一番どハマりしたのは、星野源さんの作品たち。
仕事がつらめで元気が出なかった時期は、源さんの歌で目を覚まし、夜には源さんのラジオを聴き、寝る前のベットでは彼のエッセイを読んで、さらに眠りにつく前に「今日の一曲」を選び、味わってから眠りについた。
だから今でも少し、「くたびれてきたかなあ」、と思ったら、わたしは星野源を補給する。
辛いとき。
悲しくなりそうなとき。
自分で自分を、どうにもコントロールしにくいとき。
なんとなく、疲れてしまったな、と思うとき。
ヒトという動物として、どうしても上手く生きられない時が、誰しもあると思う。
そういう時は、そういう自分も楽しんでしまいたい。
新しい自分と出会ったようなつもりで、塞ぎ込む気持ちも面白がってしまいたい。
そしてそんな自分だからこそ出会える感情や感性には、敬意を表してしまいたい。
病んでいる自分を味わうということ。
くたびれた自分との向き合い方に悩む人がいるなら、わたしはこれをそっとオススメしたい。
数学の先生は、今でも新しい数式にキューっと入り込む感覚を、楽しんでいるだろうか。
楽しみ続けてくれているといいな。
そのくらいの距離感で、ウツという自分とも向き合っていてほしいと、そう思う。
《終わり》
***
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