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「役所仕事」なら「ポークカレー」を中華にすることもできる! 


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:きさらぎ(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
私は、役所の仕事とは「ポークカレー」のレシピをもとに、オーダーにそって、様々なアレンジすることのようだと思っている。
「ポークカレー」なので、ビーフやチキンなどの食材ではダメだし、ポークジンジャーや豚カツを作ってもダメだ。
「ポークカレー」の絶対条件はポークとカレーを使うこと。
 
いまから何年か前、役所で住民票や戸籍などを扱う部署で三年ほど仕事をしていた。
仕事としては、住民票や印鑑証明書の発行、戸籍や住民票の異動などの処理をする。
 
行政のルールが自身のやりたいことにそぐわなくて怒声を浴びることが時々ある。
「役所仕事しやがって」
「税金泥棒!」などなど。
悲しい気持ちになり、心の中でつぶやく。
「税金泥棒と言われるけど、労働の対価として賃金をもらっているのだし、納税だってしているのに」
 
「役所仕事」と言うと、悪い意味で使われることの方が多いであろう。
感情もなく、淡々とルールのみに沿って仕事を執り行う。
時間が来れば、途中であろうがそこで業務終了。
 
少なくとも、私のいた役所では、悪い意味での「役所仕事」をしている人は一人もいなかった。
役所には、それぞれの手続きに対してのルールブックのようなものが存在する。
それは、法律や条例などをもとに制定されている。
そのルールブックを元に仕事はすすめられていく。
私のいた役所では、市民の方の意にできるだけ沿うように努力していた。
ルールブックの範囲内でできることをするし、ルールブックを読み込み、この条例が適用されるかも、といったことをしていた。
事情を聞けば、何とかしてあげたい! と思いルールブックを隅から隅まで読みとく。
 
例えば、戸籍謄本を請求するとき、戸籍所在地の記入が必要だ。
これを案外わすれている人が多い。
以前は運転免許証に本籍地が載っていたが今は記載されていない。
それを知るためには、戸籍入りの住民票を取得する必要がある。
それにはもちろん別に料金が必要だ。
必要でないものにお金を支払わせるのは本意ではない。
なので、昔すんでいた場所に戸籍があるかも、という方には、住宅地図を持ってきて、その場所を一緒に探したりする
その場所が地図で確認できると本籍地の番地もわかる。
あと「この県にはありませんよ」くらいのヒントは教える。
 
それでもすべての人の思い通りにできるかと言えばそうではない。
「こういうルールだからできません」と残念ながら言わざるを得ない時も多い。
そうした時には、
「役所仕事と思われるかもしれないけど、こういう理由で~」
と丁寧にできない理由を説明する。
 
以前、音信不通になっている弟を探したい、死ぬまでに会いたいから、と高齢の老人が来庁したことがある。
戸籍には「附票」とよばれるものがあり、それを取り寄せると現在の住民票登録地がわかる。
それを取り寄せたいという。
しかし、どう頭をひねっても、他の職員に相談しても叶えてあげられなかった。
戸籍は直系のものしか取り寄せられない。
親、子、孫、等。
このケースは弟が親の戸籍を抜けていたため、兄が取得することはできなかった。
気持ちはすごくわかる。
わたしは調べたので弟の住所がわかっている。
わりと近隣にすんでいる。
教えてあげたい。
でも教えてあげることはできない。
深々と頭を下げ老人を見送った。
何か他に方法がなかったのかといまだに思い出す。
 
なぜルールブックから外れることはしないのか。
まず、法律や条例を守ることは絶対条件。
もし昔に制定された法律や条令が時代にそぐわないのであれば、法律や条令を変えなければいけない。
時代にそぐわないからと言って、それを無視することはできない。
なぜなら、日本は法治国家だから。
法令遵守の精神は何より優先される。
もう一つ、一人一人の職員の感情や主観でルールを無視してよいのかという問題がある。
そのようなことが認められれば、当然、担当者によって対応が異なり、公正・公平な手続きができなくなってしまう。
結果として市民に悪影響を及ぼす。
 
ルールブック内でできることや、時に拡大解釈(いくぶんグレー)してでも、できるだけ市民の方の意に沿うよう努力する。
しかし、決して、ルールブックから逸脱することはしない。
 
それは「ポークカレー」というレシピの中で、お客様の様々なオーダーに答えるようなものである。
豚肉を使ったカレー味のもの。
「ポークカレー」のレシピが役所のルールブックである。
いわゆるオーソドックスなポークカレーを所望されれば、すんなりお出しできる。
しかし、中華が食べたい! 言われれば、豚肉を八角や粉山椒などとカレー粉をブレンドしたスパイスで炒め物にする。
中華だけど、強引に「ポークカレー」と言えないこともない。
スープを希望されれば、カレー風味のスープに揚げた豚肉を添える。
これはこれで、なかなか美味しそうなポークカレーだ。
あくまでもルール遵守。
しかしその範囲内でやれることを柔軟に考えて行う。
 
役所では、手続上難しいと思われることは、こうしたい、という結果だけでなく、その事情も合わせて相談してほしいと思う。
例えば、外国人の子供の就学問題やDV被害者の住民票の問題などなど。
理由を話してくれれば、別の条例で対応できることもたくさんある。
役所の人間は、ロボットではない、血のかよった人間だ。
誰かの子供であるし、誰かの親や兄弟でもある。
あなたと同じように嬉しいことや悲しいことを経験してきた人間だ。
あなたの事情を聞けば、思いに気持ちを馳せ、難しいことでも、なにかやれる方法はないかと考えてくれるはずだ。
そして以前はできなかったことでも、法律や条令が変わり、できるようになることもあるので諦めないで相談してほしいと思う。
 
役所が「役所仕事」をする。
これは当たり前のことだ。
むしろ積極的に「役所仕事」をして欲しいと思う。
ただし、「役所仕事」とは、決められたルールの範囲内で最大限市民の意に沿うよう努力することだと思っている。
そう、「ポークカレー」の範囲は実に広いのだから。
 
《終わり》
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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