メディアグランプリ

カンボジアで出会ったトゥクトゥクおじさんは、サービスの天才だった。


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2018年のゴールデンウィークに、妻とカンボジアのシェムリアップに観光で行った。4泊5日でアンコールワットの遺跡群をまわる旅行である。カンボジアのリゾートホテル、プリンス・ダンコール・ホテル&スパ、に宿泊した。このホテルには、ホテルお墨付きのトゥクトゥク運転手が30人ほどいた。その中の一人がそのトゥクトゥクおじさんだった。
 
そのおじさんとの最初の出会いは、3日間のアンコールワット遺跡群パスチケットを買いにホテルからチケット売り場に行く時だった。そのおじさんのトゥクトゥクに乗せてもらい、ホテルとチケット売り場を往復してもらった。
 
寡黙でほとんど何も話さない人ではあったが、何の問題もなく、不快な思いも一切することがなかったので、次の日の遺跡めぐりもそのおじさんに頼むことにした。おじさんから次の日のスケジュールを聞かれたので、スケジュールを伝えて、次の日の7時にホテル前で待ち合わせる約束をした。
 
次の日、予定どおり7時からおじさんのトゥクトゥクに乗って遺跡めぐりをした。
 
お墨付きのトゥクトゥク運転手だけあって、トゥクトゥクも洗練されている。花の刺繍が施された金色の敷物が、座席に敷かれている。非日常感を演出してくれて気分が高揚した。しかも、乗っている間にできたシワやズレを遺跡めぐりに行っている間に直してくれていたので、最後までその高揚感を満喫することができた。
 
見た目上のサービスだけではない。遺跡めぐりから戻ってくるたびに500mmリットルの水とウェットタオルをくれた。30度近い気温で蒸し暑いうえに、日差しも強い。そんな中歩きまわったら、汗で体はべたべたで、喉もカラカラである。そういった時に渡される水とウェットタオルは、本当にありがたい。
 
その日の最後の遺跡をめぐり、おじさんのところに戻ると、冷えたマンゴーを用意してくれていた。暑い中、午前中ずっと歩きまわっていて、ちょうど甘いものを欲していたタイミングでのマンゴーだった。これだけでもおじさんが神様に見えた。
 
しかし、このマンゴーは、そんな甘いものを食べたいという欲求を満たすだけの代物ではなかった。今まで食べたどのマンゴーよりもおいしかったのだ。ほどよい歯ごたえ、ほどよい甘酸っぱさがある。味と食感のどちらも満点だった。体のコンディションが、その甘味と酸っぱさを求めていたのかもしれないが、その時はそう感じた。
彼によるとこのマンゴーは、彼独自のルートで手に入れているらしい。たしかに、ホテルで食べたマンゴーもこんなにはおいしくなかった。このマンゴーは、彼にしか提供できない特別なマンゴーだったのだ。
 
遺跡群をまわる料金は、40ドルで約束していた。しかし、その価値を大きく上回るサービスを受けたと心から感じていたので、チップを20ドルも多く払った。当然、次の日の遺跡めぐりもこのトゥクトゥクおじさんにお願いした。
 
私はすっかりこのおじさんのファンになっていた。
 
その時々で求める物をタイミングよく提供してくれた。それだけではなく、独自のルートを使って感動を与えてくれた。あのようなサービスはわずかな時間でつくれるものではない。きっと客が何をされたら喜ぶのかを徹底的に考えていたにちがいない。それだけでなく、どうしたらそれを実現できるのかも考えて、実行したにちがいない。リゾートホテルで食べるマンゴーよりもおいしいマンゴーなのだ。そんなマンゴーを手に入れるのが簡単なはずはない。
 
4日目もおじさんにお願いしたが、別の客がいるということで丁寧に断られてしまった。4日目、5日目に乗せてもらったトゥクトゥクは、今まで見てきたトゥクトゥクと変わらなかった。ゴージャスな敷物やマンゴーなどは当然なかった。4日目のトゥクトゥクの運転手に関しては、当初約束していた行先に行くことを拒み、追加料金を請求してきた。結局、5ドルの追加料金を払うことになって、大変不快な思いをすることになった。期待するサービス以上のものではなかったため、当然チップも2、3ドルしか払わなかった。
 
やはりあのトゥクトゥクおじさんは、特別だったのだ。
 
今思えば、寡黙でぐいぐい来ないのもよかった。ぐいぐいいって客から敵意を抱かれるよりも、控えめにして、サービスを提供した方が、結果的にチップをたくさんもらえることを知っていたのかもしれない。
 
このトゥクトゥクおじさんは、間違いなくサービスの天才だった。顧客のニーズを見つけて、そのニーズを満たすサービスを提供したり、仕組みをつくったりすることができる。
 
しかし、致命的な弱点もあった。
 
スマホなどのデジタル機器に疎いのだ。こういう人にかぎってデジタル機器に疎い。そのために、トゥクトゥクなどの配車アプリを使って、こういった人に簡単につながることができない。
 
旅行の中で出会う人によって、その国や地域の印象は大きく変わってしまう。
 
私も妻もこのトゥクトゥクおじさんのおかげでカンボジア旅行を楽しい思い出にすることができた。今でもカンボジア旅行の時のマンゴーの話が話題に出る。そのたびにあのマンゴーが食べたくなる。
 
最初に出会ったのが、マンゴーをくれたトゥクトゥクおじさんではなく、4日目のトゥクトゥクの運転手だったらどうなっていただろうか。カンボジア旅行の思い出は、他の思い出に埋もれてしまうか、少なくとも不快な思い出として残っていただろう。
 
マンゴーをくれたおじさんのような人と簡単につながって、サービスを受けることができるような仕組みができれば、こういった国にもっと行きたいと思えるのに。私はいつもインドやカンボジアなどの国に行くたびに思う。
 
 
 
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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