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願いの種まき


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記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「自分が親にやってもらって、子どもにも、やってあげたいなってことある?」
少し遠出をした高速道路の帰り道。運転席から夫がたずねる。後部座席の子どもたちは仲良く夢の中だ。
 
しばらく考えた末、「歯の矯正……かなぁ?」とぼんやり答えた。
内心、でたでた、いつもの質問。と思っている。
 
結婚して9年。夫はこういう「願い」の話をするのが大好きで、「あの車に乗りたい」とか「あと何年したら家を建てたい」とか、欲しい・やりたいをよく語る。子どもが生まれてからは、「息子と一緒にこういうことがしたい!」とか「将来は◯◯になったらかっこいいよね」などが加わり、「願い」がてんこ盛りである。よーくそんなにペラペラと……と思う。とんでもなく先の話だったり、深く考えずに発言していることも多いから、この頃は私も真面目に聞いていない。
 
おっと、しまった。今なんて言ったんだろう。聞き逃した……。
「ね?」という顔に慌てて首だけ縦に振る。
 
「今年はできなさそうだけど、家族の恒例行事とかあるといいね。旅行とか」
ひとつ付け加えた。無難そうなやつを。
 
私はといえば、夫とは違って「願い」を口にするのはとても苦手だ。もちろん私にだって希望はあるし、やりたいことはやる。ただ、口に出すとなると夫のようにはいかない。先にあれこれ頭で考えてしまう。「願い」は1歩間違ったら「呪い」になる気がするのだ。期待という変なプレッシャーが生まれるし、体がひとつ重たくなったような気になる。だから、特に自分ではない誰かへの「願い」は怖い。そんな不安を夫に話したこともあるけれど、「うーん、そうかなぁ?」と不思議がられるばかりだった。言うだけならタダでしょ? と思うらしい。それは確かに。
 
車での会話から数日。
 
よく晴れた土曜日の朝、「最近また写真が撮りたくなってさ」と言った夫が持ち出したのは、フィルムカメラだ。黒くて重い鉄の塊の出現に子どもたちの目の色が変わる。2人とも男の子だからか、機械はみなロボット変形する! よってカッコイイ! と考えたらしい。早く触らせろと夫の足に巻きついている。
予想以上の食いつきに、パパの趣味に興味を? 嬉しい! と大喜びの夫は、カメラのもち方からピントの合わせ方まで、ひとつひとつ丁寧に指南しているようだ。
 
「ちょっとかーしてー!」
「ちがうちがう! ここをまわすの!」
「え? これ? ここ押すの?」
 
3人が入り乱れて大騒ぎである。黒いボディにスッポリ隠れて、こちらから息子の顔は見えないが、ビシバシとしたパパの指導に文句も垂れず、2人とも真剣に聞いている。片目をパチリとつむり、レンズ越しに私を覗く。チラリとのぞく口元がニヤニヤしている。楽しそうだ。なかなか様になっているじゃない。これはカメラブームの到来か。
 
私は被写体に徹する。
 
「息子とカメラを持って撮影旅行したい」
ぼーっとしていたら、そういえばこれも山のような夫の願望の1つだったなと思い出した。長男が2歳くらいの時、そんなことを言っていた。完全に自己満足だけど……と、子どもが扱える丈夫なデジカメを誕生日にプレゼントしたのだった。
 
あれから5年。夫の蒔いた願いの種はようやく小さな芽を出したことになる。息子本人は覚えていないだろう。5年も前に同じように写真の撮り方を教えてもらっていたこと。プレゼントしたカメラをみる度に、夫が「一緒に写真撮ろうね」と笑いかけていたこと。いつの間にかその小さなカメラも引っ張りだしてきて、次男の首にかかっている。
 
そっか。
 
「願い」を口にするのは「種まき」なんだ。
 
と、唐突に思う。
 
柔らかな土に蒔いて、じっと芽がでる時を待つ。蒔いたらそのまま、芽がでるまでゆっくりと。待っていたらそれはいつか自分で芽を出すのかもしれない。蒔いた種全てが芽を出すとは限らないけれど。まぁ、いいじゃない。蒔かなければ芽も出ない。当たり前だけど。だったら遠慮せずに蒔いたらいい。
 
目の前の景色が急に鮮やかになったような気がして、思わず立ち上がった。夫に伝えたいこと、子どもたちに話したいことがたくさんあった。3人の輪に混ざって、カメラをちょっと貸してもらう。被写体交代。大切な人たちを収めて、片目をパチリとつむる。ワクワクが止まらない。ぼやっとした景色にピタリとピントが合う。
 
これからは私も「種まき」をするよ。あなたと、あなたたちと叶えたい夢がたくさんあるのだ。
 
<<終わり>>
 
 
 
 
***
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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