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三島由紀夫に勧められた100年前の教科書

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三島由紀夫に勧められた100年前の教科書
記事:Aya Yamafuji(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
思い立って、脊椎反射のように誰かへ手紙やEメールを出したことはあるだろうか?例えば、ラブレターなどはそういう性質を持っていると思う。ネット主流の時代に、LINEというチャットアプリがSNS苦手な層ほど浸透しているのも、「今、伝えたい!」を簡単に叶えてくれたからだと思う。
先日、脊椎反射でイギリスから本を取り寄せてしまった。そのきっかけは、なんと、三島由紀夫の直筆手紙である。その手紙もまた、ある本を読んだ三島由紀夫が思いのたけを理解してほしいとばかりに、とある精神科医に送り付けた手紙だった。熱烈な文体だった。文字の行間から、「あなたになら、この思いを共感してくれるに違いない!」という感情がにじみ出てくるような手紙だった。三島由紀夫をそこまで熱狂させたのは、一体どんな本だったのだろう。達筆すぎて、少し読み取るのに時間が掛ったが、「SEXUAL INVERTION」というタイトルらしい。なるほど、そういう事か。あの三島由紀夫が、こんなにも感情を込めた手紙を書きたくなるような内容なのであれば、読まない理由は無い。その場で注文した。約2週間ほどで私の元へ届いた本は、1900年にかかれた性的倒錯、つまり、普通とは言えない性の好みについて書かれた教科書だった。しかも、和訳は未だに出ていない。三島由紀夫が手紙を書いていたのは、彼の小説「仮面の告白」が出版された直後。今から75年前の1950年頃、終戦してたった5年過ぎた昭和25年あたりである。そんな時代に英文で、性に関する学術書を読んでいた三島由紀夫の語学力もすごいが、この人ならそれを読んでいるに違いないと三島由紀夫に思わせた相手は、どんな人だったのだろうか。
大正から昭和にかけて、一人の精神科医が日本に居た。式場隆三郎。新潟出身で実業家としても業績を残した人だ。彼は、第二次世界大戦後の日本にとあるヨーロッパ出身の画家の個展を全国各地で開催するという、とんでもない活動をしている。その画家の名は、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。式場医師は、精神科医としてゴッホの作品を研究する傍ら、ご自身の病院に入院した精神的疾患を持つ人に、絵を描かせたり、工作をさせたりして、その中でも特に優れたものを定期的に展示していたらしい。今年3月から6月にかけて、広島で開催されていた式場氏の企画展で初めて知った事だ。その企画展の展示品に、三島由紀夫が式場医師に思いのたけを書き綴った直筆の手紙が有ったのだ。
私は、20代の半ばから、普通とは違う性の好みを持つ人たちが集まる場所へと通い、いろんな人と関わってきた。私自身も、大きな声では言えないが、他人とは違う性に関する好みを持っている。三島由紀夫の「仮面の告白」も、おそらく三島本人の性に関する感情の実体験を元にした小説だと思う。それは、普段、私が関わる少数派の人たちと同じ匂いを三島由紀夫の書いた手紙から感じ取ってしまったからだ。だからこそ、たった1通、それも75年近く前の手紙にそそのかされて、イギリスから英文しかない本を取り寄せてしまったのだ。
7月末に友人がセカンド結婚式を内々で行った時に、ほんの少額のお祝いをさせてもらった。本人からSNS上で御礼のメッセージはもらっていたのだが、8月末に御礼の葉書をもらった。そこに書かれていたのは、お祝いに対する御礼とある活動へのお誘いで、直ぐさま、承諾の返事をメールで送った。普段が、デジタル上のやり取りになっているからこそ、余計に彼が私の事を気にかけてくれていることを強く感じ取れたのだ。
今のように、思い立ったらすぐに地球の裏側まで画面越しに対面して会話することが叶う時代でも、手書きの文字のパワーは人を動かせる何かを秘めている。移動にも、手紙を届けるにも、今より倍以上の時間が必要だった戦後間もないころだからこそ、私たちが込める想いよりも強く重いものが込められていたに違いない。手書きの文字と言うのは、その人の人柄や感情なども残酷なほどに明らかにしてしまう。日本は判子文化だが、ヨーロッパなどでは手書きのサインが主流なのも、筆跡に個人の人格が現れるという認識が強いのだろうと思う。字の上手い下手ではない見えない何かが、確実に文字とその行間に込められている。その見えない何かに突き動かされるから、デジタル化が進んだ今のご時世でも、ここぞという時に手紙という手段は使われるのだろう。
100年もの年月を越えて、三島由紀夫が教えてくれた性に関する教科書。実は、未だにきちんと読めていない。100年もの間に、性に関する研究は随分と進んでいる。そういう意味では、教科書としては古い事は解かっている。ただ、今のように全ての情報を瞬時に集められる時代でも、日本ではまだ、性をひも解いて研究している人は少ないし、逆に、情報も少なく、宗教的な偏見も根強かった時代にどんなことが研究されてまとめられていたのかは、とても興味深いし、性を学び研究していくうえで、基本となる情報が有ると思う。この文章を書く前に、ぱらぱらと目で追ってみた。辞書がやはり要る。しかし、在りし日の三島由紀夫も、少なからず辞書を片手にこの文章を読んだと思えば、背筋を正して忠実に読んでいきたいと思う。性的な好みに思い悩んだことが有る同じ仲間として、強く感じる。この教科書には、自分の境遇を理解できると思える人に熱烈な手紙を書きたくなるほどに、他人とは違う性の悩みへ何かしらの回答を見つけられた本なのだろうから。
 
 
 
 
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2020-09-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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