53歳、初体験
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:結きよみ(ライティング・ゼミ特講)
「呆然としている人」というタイトルがぴったりな姿だったと思う、2020年9月1日の私。
仕事を終え、いそいそと向かった美容院。次のヘアスタイルを相談中に美容師から放たれたひとこと。「あれっ? 円形脱毛症ですね。それも結構大きいですよ」
「えんけいだつもうしょう??」鏡に映しだされた後頭部の1円玉大の白いまる。つむじの加減でちょうどうまく隠れていたらしく自分も誰にも気づかれなかったようで。
まさか私が円形脱毛症になるって……。細かいことは気にしないほうだし、体力もあるほうだし、と心の中でつぶやく。美容師の「3か月後くらいに症状がでると聞いたことがあります」の言葉に、3か月前、6月、そして、5月、4月、と時空をさかのぼる。
4月、感染拡大防止のための活動自粛が始まった。私は東京都内のある機関で求職者向けのセミナー企画・運営を仕事としている。講座数は大小あわせて月に約60本、参加者は約700人、結構な規模だったりする。4月4日、4月中の全セミナーを中止するよう指示が来た。委託をうけての仕事のため、私には最終的な決定権はない。すでに申込済の求職者、そして、講師へ中止連絡とお詫び、ホームページの更新と、対応に追われる数日間。そのあと、空虚感がやってきた。企画をたて、打ち合わせをして、コピーを考え、フライヤーをつくり、告知をして、テキストを準備して、半年以上かけて創ってきたものが、すべて「ゼロ」になったのだ。そして、追い打ちをかけるかのような指示がきた。セミナーの再開時期は未定だが、いつでも再開できるよう年間スケジュールに基づいた準備をしておくように、と。実行できないかもしれないことの準備を進める、やるせない気持ちにムチ打って準備した。仕事柄、リモートワークの選択肢はなく、ガラガラの電車、人の消えた街を日々出勤する。ある日、仕事の都合で20時過ぎてオフィスを出たときの光景と空気感は未だ忘れられない。ネオンが消え、人の気配が消えた駅前、そうゴーストタウンの様相になんともいえない恐怖を感じて駅まで必死に走った夜。日々、世界中の感染者、死者の数が積み重なってゆき、でも私は、日々出勤して、数週間後に迎える5月のセミナー準備をしていて、日常と非日常の境界線を見失ったような感覚が続く。4月も終わるころ、活動自粛期間延長の決定とともに全セミナー中止の指示がきた……。なんとなく覚悟はしていたものの、やってきた大きな空虚感に押しつぶされそうだった。好天続くゴールデンウィーク、遠出もできず、一人暮らしの母のことが心配でも帰省もできない、悶々とした日々。そんな底なし沼の状態から抜け出すことができたのは、人とのつながりだった。Zoomでの情報交換や飲み会、LINEなどでのチャット、リアルに会えないけど時空を超えて、国内各地・海外にいる友人たちとすぐに会える、お喋りできる。「ひとりじゃない。オンラインでつながれる」
ある日、私の中でセミナーのオンライン化というワードがピコーンと光った。オンライン化できれば必ず開催できる、申込した求職者をがっかりさせることもなくなる。それからは、委託元にオンライン化を提案し続け、ようやく、あるセミナー1本のトライアル開催の許可を得た。開催日は6月1日、準備期間は1週間ちょっと。既存のシステムや仕組みを使った開催方法を模索して、テキストを作成して、講師とオンライン打合せして、告知期間はたった2日間、それもホームページのみ。それでも8人の申し込みがあり、無事に終えることができた。受講者からの、求職活動のモチベーションが保てた、オンラインのセミナーを増やしてほしい、の声にどれだけ安堵し喜びを感じたことか。前例ができ、他のセミナーのオンライン化も許可を得ることができた。さらに、6月初旬から従来の来所型セミナーも定員を減らしたうえで実施できることになった。一方で、動画の準備をしたり、オンラインセミナーの種類を増やしたり、
と全力疾走するような日々。職場に活気が戻り、空虚感から解放されて、息があがっても走り続けるかのように猛烈に動いていた6月。
私自身、自覚はないのだけれど、周囲から、短期間でよく形にしましたね、とか、すごいパワーだったとか、言われる。何かにつき動かされたかのように走り続けていたのだ。そう、4月、5月、6月、3ケ月間の私の感情から生まれたのが、この円形脱毛症だったのだ。この1円玉の白いまるは私のコロナ禍の残骸なのだ。
人生での感情を曲線で描いたら「谷底」の4月、沼から抜け出ることができたから「谷底」になるわけで「谷底」の形ができた要因は「ひととのつながり」だった。こうして、2020年9月1日の53歳、初体験を書きながら思うこと。
「どんな事柄もネタにできたら最強!」
ネタにするということは事柄を客観視して認めることだから。これからも想定外のことがいっぱい起きるだろうし、失うものもあるだろう。それでも、大丈夫。残されたものに感謝して、結びあわせていったら、何かがみつかる。9月1日の朝、神社への朔日詣で飛び込んできた令和2年長月の言葉は「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に活かせ」思いおこせば、朔日詣を始めたのはコロナ騒動が始まった4月1日。
1円玉の白いまる、私の円形脱毛症がいう、「人生はネタに満ちている」
楽しいじゃん、53歳。
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