山の道具と英語の関係
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記事:朝木亜佐(ライティング・ゼミ平日コース)
英語が話せてよかったと思うことが、これまで何度もあった。英語圏の人はもちろん、それ以外の国の人とも、ささやかにでも通じ合えたのは、英語のおかげだ。
まだインターネットがなかった学生時代、外国との接点は、ネイティブの英語の先生くらいだった。あるとき国内のユースホステルで、ドイツ人の旅行者と一緒になった。その人たちは英語を話していたので、ドキドキしながら思い切って声をかけてみた。学校でしか使ったことのない拙い英語でも、ちゃんとコミュニケーションが成り立った。「私の英語でも通じるんだ!」英語は人とつながる道具だと実感した原体験。そこから世界が広がった。
月日は流れ、すっかり中年になった私だが、この夏、人とつながる道具をまた手に入れた。夫婦をつないでくれる道具を。
夫が大の山好きで、夏休みの登山はわが家の恒例行事だ。もちろん技術を要する登山ではなく、登って下りる体力さえあれば、特別な道具はいらない。基本は登山靴とリュックサック。あとはウエア類といったところ。
他にも山でよく見かける道具がある。必須ではないが、使っている人は手放せないと口を揃える。私も勧められたことがあるが、そのときは自分には関係ないと思ってスルーしてしまった。
私にとって登山は、趣味というよりは、夫が計画する、年に2、3回の家族のイベントだ。家族行事だから半ば強制参加。しかし年を重ねるにつれ、登って下りるだけの体力すら怪しくなってきた。
数年前、福島・山形・新潟の三県にまたがる飯豊山に登った。1泊2日、行きは8時間、帰りは13時間の長丁場。登り始めからずっと急傾斜だった。行けども行けども、なだらかにならない。そそり立つむき出しの岩尾根を目の前にしたときは、本気で引き返したくなった。それでも登り続けた先に、こんどは雪渓が。慎重に足を運んだつもりだったが、滑って転倒。これは体力の限界に挑むゲームか? もはや家族で楽しむイベントからは外れて行っている……。
下山は登りよりもっとキツかった。下へ下へと体が勢いよく進んでしまいそうになるのを、足でブレーキをかけるようにして下る。急斜面が続き、ふだん使っていない太ももの筋肉に、容赦なく負荷がかかる。最高の筋トレではあるが、そんな悠長なことは言っていられない。文字通り足が棒のようになった。
さらに下山後の数日間は、激しい筋肉痛の洗礼を受ける。このときは過去最大の筋肉痛に見舞われた。太ももがパンパンに張り、右の膝が曲げられずに突っ張ったまま歩くしかない。ロボットのようにカクカクした奇妙な歩き方に、自分でも笑ってしまう。階段は、まともに降りられなかった。
こんな状態では、もう登山はムリなんじゃないだろうか。これから体力はますます落ちて行くのだし。けれど夫は相変わらず家族で山に行きたがる。なにしろ時間があればやりたいことの筆頭は、山登り。好きなことを家族で分かち合いたい人でもある。思春期の一人息子は、そろそろ家族登山から卒業だろうが、夫婦二人になったときに一緒にできる活動がひとつ減ることになる。ただでさえ共通の趣味が少ない私たち。中年夫婦の先行きは心許ない。
でも山に誘われるたびに、あのキツイ登り下りと激しい筋肉痛がもれなくセットで付いてくるのかと思うと、どんよりした気分に支配されて心が弾まない。夫に「山が楽しみに思えない」とグチったら、なんだか関係がギクシャクしてきてしまった……。困ったなあ。
しかし行き詰ったときこそ、新しいことを試すチャンスでもある。そう、自分には関係ないとスルーした、あの道具のことを思い出したのだ。
その名は、トレッキングポール。スキーのストック状の、いわば登山用の杖だ。あれを使ってみよう。
そうしてこの夏、いまさらながらトレッキングポール・デビューして驚いた。
「こんなに頼れるヤツだったとは!」
いっさい文句を言わずに私の体重を受け止めてくれるポール。余計なものを手に持ったまま山を歩くなんて、邪魔なのでは? と偏見を持っていたことを謝りたい。
大げさでも何でもなく、足元が安定して、脚への負担がほとんどゼロになる。ポールよ、なぜもっと早く言ってくれなかったの……あ、聞く耳を持たなかったのは私の方だったか。
下山後の激しすぎる筋肉痛から、ウソのように解放された。もうロボットみたいに歩かなくてもいい。人生の先輩方がなぜ元気に山を闊歩しているのか、よくわかった。まさに趣味を支える存在。私たち夫婦にとっては、山の世界でつないでくれる手放せない道具になった。トレッキングポールも英語も、人とつながり、世界を広げてくれる相棒であり続けるだろう。
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