メディアグランプリ

題名:「うらやましい」と思う自分を憐れむ言葉。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かなたあきこ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「キモッ!」
最初は気のせいだと思った。でも、たしかに聞こえた。テスト用紙を教壇の先生から受け取って、一番後ろの自分の席に帰る途中で、クラスの真ん中あたりから。
88点。得意の英語にしても、我ながら頑張った点数が取れた気がする。通学中の電車で構文を何度も見返したし、テスト前日は深夜まで例題を解きまくった結果だろう。
 
本当は手放しで喜びたいのだけれど、担任が「山下、88点。学年4位!」なんて声高に読み上げるものだから、クラス中にビミョーな空気が漂うのをあたしは瞬時に感じ取った。今どき点数を公表するなんて、時代錯誤も甚だしい。その一言が、3年Ⅱ組・15歳女子38名の人間関係にどんな一石を投じるのか、先生は本当に気づいてないのだろうか。
 
あたしの通う中学校は、都内でもわりと上の方のレベルの私立女子校だ。中高一貫校で、よっぽどひどい成績を取らない限り、高校へはエスカレーター式で上がれることになっている。
中学受験は精いっぱい頑張ったし、やり切った! と言い切れるほどの努力をして、第一志望のこの学校への合格が決まった時は、本当に嬉しかった。6年生になってからは遊ぶ時間もほとんどなく我慢の連続だったから、中学ではとことん青春を謳歌してやろうと心に決めていたのだ。
その思い通りあたしのこれまでの2年間は、勉強は二の次で、マンドリン部の活動と趣味の小説書きに没頭してきた。成績は常に“学年で中の下”をキープし、同じような位置づけの友達とグループを組んでつるむようになっていった。
 
が、それも中3の春までのこと。新学期が始まってすぐの三者面談で、「この成績では付属高校への進学が難しくなるかも」と、担任から通告されてしまったのだ。顔面蒼白になる母親の横で、それ以上に焦ったのは私自身だ。高校に上がれないことなんてみじんも考えていなかったから、強烈なカウンターに打ちのめされ、一気に目が見開いた。―――マジで勉強しなきゃ!!
そんなわけで、中学受験以来の真剣さを持って試験勉強をして臨んだのが、こないだの中3の中間テストだったというわけだ。
 
そして、場面は冒頭のセリフに戻る。
「キモッ!」
そう言い放ったのは、間違いなく同じ“中の下グループ”のさゆみだ。ちょっとニヤついてこっちに視線をくれるあたり、バレてもかまわないといったところか。注意深くあたりを見渡すと、これまた同じグループのあの子も、あの子も、嫌な笑いを目に含ませてこっちを見ている。はぁ。
 
いい点数を取るのは、果たしてキモイことなのだろうか? これまで同じように遊んでいたにもかかわらず、急に勉強しだした仲間は非難すべき対象なのだろうか? キモイ、その一言で片づけられる筋合いは、はっきり言ってあたしには無い。むしろキモイのは、高校進学が危うくなってるにもかかわらず、相変わらず勉強しようとしないあんたらではないのか?
 
ここまで思って、あたしははっとした。
キモイ。
そう思って、自分も小学校の時、クラスでゲームの話しかしない男子をバカにしたではないか。休み時間に塾の宿題をするあたしの隣で、その服可愛いだとか原宿でショッピングしただとか、おしゃべりに花を咲かせる女子グループをウザがったではないか。
キモイ。
それは、自分の価値と相容れない他人を、バッサリ切り捨てる便利な言葉。というよりも、本当は自分もそうしたいのにできないことを、軽々とやってのける他人をうらやむ言葉。「うらやましい」と思う自分を憐れんで、慰めるためのむなしい言葉。
 
中学受験さえ終われば、もう誰のこともキモイと思う必要もないと思っていたのに、まさか自分がその言葉をぶつけられるとは。
キモイ。キモイ。キモイ。
いや、いい。傷つくな、あたし。きっとさゆみ達だって、「本当は自分も勉強したい」と思っているに違いない。「中の下グループから脱したい」と思ってるに違いない。
だからこそのキモイ、なのだ。スゴーイ、じゃなくて、キモイというのはそういうことだ。やりたいのにやれない歯がゆさから思わず出てしまった「キモイ」。その言葉なら、私も幾度となく放った覚えがある。きっとまだ、救いようがあるはず。
 
あたしのことをうらやむのはまだ早すぎる。しょせんは付け焼刃のテスト勉強、これから返されるテストは全然自信がないんだもの。
次の時間のテスト返しで「山下、物理32点。夏休みの補講、絶対来いよ」――担任がそう告げたら、彼女らは満足だろうか。キモイなんて言ってごめん、なんてあっけらかんと笑うだろうか。
あたしはきっと「ぴえん」のジェスチャーをしながら、元のグループに戻るだろうけど、やっぱり勉強にはこれまで以上に力を入れるつもりだ。キモイ、という言葉を過去に安易に使ったものとして、自分への戒めも込めて。
短い学生時代、何かを全力で頑張る姿は決してキモくない。キモイどころかカッコよくない? うらやましいなら、一緒にがんばろ?
グループ内の大好きな友達に、胸を張ってそう伝えられることを願いつつ、次のテスト返しを待つことにしよう。
 
<<終わり>>
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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