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Go To 一碧湖


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村 光昭(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「これはゼリーが入ってますけどいいですか?」と背が高く眉がキリッとした青年は確認してきた。
 
お店の看板メニュー「一碧湖レモネード」を注文した時のことである。おじさんが頼む飲み物じゃないと思ったのだろう。写真を見せてくれた。想像と違って真っ青のドリンクにゼリーが入っている。ありがたい忠告だった。とても僕が好んで飲むものではなかった。注文を変更「タワーレモネード」にした。こっちは凍ったスライスレモンが何重にもなっていてスッキリとした僕好みの味。青年に感謝しつつ喉を潤した。
 
他にお客もいないので、青年と会話を楽しんだ。
 
「ここいいね。いつできたの?」
 
「昨年です」と話し相手が欲しかったのか嬉しそうに青年は答えた。
 
「昔は貸しボート兼お土産物屋で、貸しボート業を引き継いで、お店を改装したんです」と青年は教えてくれた。
 
改装したての昨年はコロナがなかったので、観光バスで訪れる中国人観光客で大賑わいだったそうだ。今は日本人だけなので、それほど混まないとちょっと寂しげな顔を見せた。
 
「山の中に配属されちゃったの? ローテーションとかしているのかな?」と若いのに気の毒だと思って尋ねた。
 
「オープンを手伝っていて、流れでそのまま僕ひとりでここを切り盛りすることになりました。沖縄宮古島出身なので、これぐらいの田舎が丁度いいんです」とここで働くことに不満なさげに答えた。
 
沖縄からか、そういえばどことなくエキゾチックな顔つき。若者全てが都会を好むと先入観で尋ねたこと反省した。
 
ここはTerrace cafe ippekiko。あてのないドライブの末、たどり着いた伊豆の一碧湖湖畔に建つお洒落なカフェ。夏休みが終わった平日、客は僕ひとり。ジャズが流れる店内にコーヒーの匂いが漂っている。ソファーは嫌味のないシンプルなデザインである。注文前にぐるりと店内を徘徊。壁一面は本棚になっており、デザイン系の洋書、ホテルや旅関連、建築や美術の本などから小説、絵本まで揃っている。お店の本棚ってコンセプトを表している。セレクトされている本でオーナーのキャラクターが想像できる。ビジネスの本もあったが、森の湖では不似合いだ。僕は絵本「おひさまパン」を手にとった。表紙がほのぼのしていたのと、江國香織訳というところに惹かれた。
 
湖畔を望むテラスで「おひさまパン」と「レモネード」を堪能することにした。絵本の中には「おひさま」の偉大さが表現されていた。でも今日は「おひさま」は出てない。空は厚い雲に覆われていた。「おひさま」は好きだけど、暑い日にはちょっとお手柔らかにして欲しかったので、「おひさま」に少し隠れていていただくくらいが丁度良いかも。くもり空を映し出す湖を眺めつつ、レモネードを飲んでいる。ふと視線を横に向けると何か赤いものが見える。郵便ポストだ。湖を背にポツンと立っている。自然の風景に溶け込める訳もなく、なんて違和感。
 
「こんなところにポストって珍しいね」と青年に問いかける。
 
「結構、有名なんですよ、ちゃんと配達してくれます」
 
そんな話をしていると黒い雲がどんどん大きくなって、ドバァーっと豪雨。慌てて店内に避難。こりゃ雨が止むまでここに居さしてもらおう。Wi-Fi があるし愛用のiPadで記事を書く事にした。
 
「このエリアは山に囲まれた盆地になっているので、雨がすごく多いんですよ」逃げ込んできた僕に言葉を投げかけてくれた。昨年の台風では湖の水位が上がり、階段のところまできたそうだ。
 
土砂降りの雨の中、郵便配達のスクーターがやってきた。ポストから郵便を回収。ちゃんと回収していることをこの目で確かめることができた。ポストを開けたところ手紙が一通。このポストを主に使うのは外国人観光客かな? そういえば学生のころ旅行先のハワイから自宅に手紙を書いたことを思い出した。配達員は心なしか背中に哀愁が漂っていた。何度もポストの中を覗き込み他に郵便物がないか確かめていた。
 
お腹も空いてきたので、何か食べよう。帰りがけに海の幸を堪能しようと計画していたが、これといってこだわりのない僕はあっさりとグリーンカレーに予定変更。
 
「お店の名前を記事に書いて良い? もしかしたらホームページに出てしまうかもしれないけど」とカレーにコーヒーをつけて注文。
 
「別に良いですよ。コーヒーはサービスします」
記事にすると言ったからサービスしてくれたのかな。ヤバイこれってもし掲載されなかったら載る載る詐欺? いろいろ雑談して、お店のことを根掘り葉掘り聞いたこともあり、きっとグルメか旅雑誌の記者と勘違いしたのかも? まあどこに載るとか知らせてないし良いか。
 
カレーを食べていると若い男女がやってきた。
 
「ペダルボート乗れます?」
オイオイ、この土砂降りの雨の中、ボートに乗る気?
 
「いやー雨でボートが濡れているので出せません」と青年は申し訳なさそうに答えた。
 
「そうですか」男はがっかりもせず、だよねという顔で、わかりきった答えが返ってきたという反応をみせた。
 
そりゃそうだろ。誰だってこんな中、ボートを貸す人はいない。
それにしてもチャレンジャーなカップルだ。貸すと言ったら乗ったのかな。
 
30分ほどで雨も上がり、全開にしたドアから涼しい風が吹き込んできた。雨上がり特有の匂いが好きだ。森林に囲まれているせいか都会の匂いとも違い透明な匂いがする。木々からは水がポツリポツリと滴っている。大粒の雨で洗濯された緑の葉が綺麗だ。
 
ぶらりあてのない旅をするとなんとも居心地の良い場所を発見することがある。今日は人も少なかったので長居できた。観光シーズンを外してまた来よう。その時、青年は僕のことを覚えていてくれるか。記事のことを聞かれるかもしれない。再会が楽しみだ。
 
ガタイの良いオヤジがやってきて「一碧湖レモネード」を注文した。
「ゼリーの入ったレモネードですけど良いですか?」
 
 
 
 
***
 
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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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