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「私たち、親友だよね」は必要かもしれないと思った


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記事:籾山尚子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私が初めて「この言葉、違和感がある」と感じたのは「親友」という言葉だった。
 
小学生の頃、国語が大好きで、既に好きなのに更に「国語が好きになる辞典」という本を読んでいた私は、新しく知った言葉を使いたくて、いつもうずうずしていた。
まだ周りの友だちが使っていない言葉を使うチャンスをいつも狙っていて、隙あらばそれを差し込んでいた。
 
しかし、「親友」に関しては逆だった。
みんなはガンガン使っていたが、私は口にすることが出来なかったのだ。
でも、みんなが簡単に使っているこの言葉に、自分はどうしてこんなに抵抗を感じるのか、自分でもよく分からなかった。
 
女の子たちは、事あるごとにその言葉を持ち出しては、自分たちの絆を確認しあっていた。
 
「私たち、親友だよね?」
 
私は、このセリフを聞くと、恐さと悲しさがないまぜになったような気持ちになって、どうしたら良いか分からなくなった。
そこで、いつも適当にごまかしていたのだが、そのことで仲良しの友だちが悲しそうにしているのを見るのも辛かった。
 
覚えているのは、最終的に友だちに手紙を書いたことだ。
あなたのことは好きだということ。でも、「親友」という言葉は使うことが出来ないということ。あなたのことが好きだというだけでは足りない、私も「私たち親友だよ」と言わなくては嫌だというのであれば、もう仲良くできないかも知れないということ。
 
そうやって手紙でわざわざ伝えなければやってられない程、その言葉を使うのが嫌だったのだ。
自分の中に消化できない何かを飲み込んでしまって、それがいつまでも胸の中にあるような気持ちで、ずっと自分でも理解できない違和感を抱えていた。
 
違和感の正体が分かったのは、高校2年生の時だった。
 
ある友だちから「あなたのことは95%くらい信頼してるよ。別に残りの5%は何だっていう訳じゃないけど、100%っていうのもあれだから」と言われたのだ。
 
その言葉を聞いて「なるほど!」と思った。
これならば、素直に受け取れる。
 
友だちは、「私たち」について言及していない。あくまで、彼女の気持ちだけを言ってくれている。
自分はあなたを信頼している、ということを伝えてくれているけれど、私に「だからあなたも信頼してほしい」という縛りのようなものを押し付けないでいてくれた。
 
私は、「自分の感情までしか責任を持てない」と思っていたのだ。
つまり、私は「私があなたをどう思っているか」を言うことは出来るけれど「2人の関係」について定義するみたいなことは出来ない、と感じていたから「私たちは親友だ」と言うことが出来なかったのだ。
 
「私たち」というものは「私」の管轄外にあるものだという感覚があり、それについて何かを断定するのは「私」にはできないよ……と途方に暮れていたのだ。
 
彼女の言葉は、「100%」と言い切らずにいてくれたことも大きかった。
もし、100%の気持ちを受け取ってしまったら、その100%に見合う何かを差し出さなくてはいけないような気持ちになってしまう。
それはある意味「親友だよね?」「うん、親友だよ」の応酬に似ている。
 
彼女はちゃんと5%の余裕を持たせてくれていた。
ありがたかった。
 
これを機に、違和感の理由を理解した私は、安心して「私たち、親友だよ」と言わないということを選択できるようになった。
それまでは「親友だ」と言えない私は、相手のことをあまり好きではないのかな……と疑っていたのだが、自分が相手を好きな気持ちに間違いはない、ということに自信が持てたのだ。
 
ただ単純に、自分の管轄を超えたゾーンについて言及するのに違和感がある、という、何というか「日本語の使い方」についての違和感だったのだ。
 
「よかった!」
 
何だか心底ほっとした。
そして、それが分かったら、過去の「親友だよね?」の子たちについてもその愛情をありがたく受け取れるようになった。
女の子たちは皆、「親友」という言葉に心酔しているように見えたけれど、きっと彼女らは彼女らで「親友だよね?」をただ「自分はあなたをその位好きだよ」の意味で使っていただけなのだと思う。
 
遅ればせながら、わたしもまっすぐに言える気がした。
「うん、私もとっても好きだったよ」
 
大人になった今、「親友だよね」と言い合っている人は周りにいなくなった。私に「親友だよね」と言ってくる人もいなくなった。
そういうことを確認しあわず、適度な距離感で付き合っているのだ。
 
各々の心の中で信頼していても、でも相手には相手の感情や都合があるから、
いちいち「親友だよね」という言葉で縛っちゃいけない。
あの頃は友だちが一番大事だったけど、今はそれぞれに家族ができたりして大事なものも変わってきているかも知れない。
みんな、そうやって遠慮しながらお互いを慮っている気がする。
 
「私たち、親友だよね?」と言葉で縛り合わない関係。
それぞれが、自分の持ち場を守って、きちんと正しいサイズの愛情だけを相手に渡す関係。
これが、小学生の私が求めていたものだった。
それが今手に入っている。
 
でも、そうなった今、分かったことがある。
 
適度な関係というのは、自分の人生の土台がしっかりしていて不安や不満がないときにはちょうど良いが、ぐらぐらと不安定になったとき、それでは生ぬるいのだ。
 
今の私は、「私たち」と言ってもらうことを求めている。
昔は越権行為に感じていたこの表現を、今は使ってほしいと思う。
何かの拍子に相手が「私たち」と言うと、とても嬉しいのだ。
 
「ああ、今この瞬間、自分はこの人とふたりでひとつなんだ」
 
大袈裟に言うと、そういう安心感を感じるのだ。
 
私たちは今、これまでにない環境で生きている。
きっと今、私たちには相手と自分がつながっているという実感がとても大切なのだと思う。
それぞれに家族がいるだろう。大事な子どもがいるだろう。
でも、それが何なのだ。
いつも家族が円満とは限らない。子どもが常に問題なくいい子でいてくれるとは限らない。
端から見て、あの人は家族がなかよくて幸せだから、と見えていても、それが本当にそうなのか、常にそうなのかは分からないのだ。
 
「私たち」
 
その言葉が、いつもじゃなくても、どこかのタイミングで誰かを助けるかもしれない。
少なくとも、この瞬間は自分にはこの人がいると思うことで、何かが免れるかもしれない。
ギリギリのところで人を踏みとどまらせるものは、きっと人だ。
何気なく使われる「私たち」に、私たちは救われながら生きている。
そうやってお互いをつなぎながら、大人になった私たちは生きていこう。
 
小学生の私には要らなかったものだけど、今の私には必要かもしれない。
「私たち、親友だよね」
 
 
 
 
***

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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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