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良品ストレス

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三毛 三昧(ライティングゼミ特講)
※この記事はフィクションです
 
 
「ストレス買います」
 
雑踏から外れた裏路地の片隅にそれはあった。
クラシックで重厚な木製のドアに、A4のコピー用に不思議な色合いで書いてあったそれに引きつけられるように、ふらふらと中へ入ってしまった。
ここは、本当に店なのだろうか?
中には、机と椅子が二脚。壁には絵や文字が書かれている物が、何枚か飾ってあった。商品らしい物が何も無く何の店か分からない。
 
「いらっしゃいませ」
 
出迎えてくれたのは、白い手袋をした執事の様な格好をした青年だった。
笑顔が、とても胡散臭い。
だが、その胡散臭さがどうでも良くなるほど、私は疲れていた。
仕事・人間関係、全てを壊したくなる位に疲れていたのだ。
 
「あの、表の張り紙を見たんですけど……」
「ご利用ありがとうございます。ですが、これは、今すぐどうこうできる物ではありません」
青年の言葉に私は、きょとんとしてしまった。
「少々お待ちください」
そう言って店の奥に引っ込んだかと思ったら、すぐに小さな箱を持って出てきた。
手のひらで握り込めるくらいの小さな箱を開けると、中には薄いピンクのガラス玉みたいな物が入っていた。
「この石を普段から肌身離さず持って頂きます。肌に触れる部分であればどこでも結構です。手に握って頂くのでも問題ありません」
ストレスが石に吸収され、すっきりします。但し、と話は続く。
「ある程度一杯になった時吸収されにくくなります。その時は、こちらへお持ちください。引き取らせて頂きます」
「え? 購入ではなく引き取りですか?」
「お客様がこの石をご購入して頂いた場合は、買い取らせて頂きます。ですが、石そのものが滅多に無い物故、かなり値が張ります」
聞いた値段は、ニュースの話題で出そうなありえない金額だった。無くしたらと思うと、流石に手がでない。
「ここに来る方は皆様、お客様のように顔色が悪く生気の無い方が多いのですが、石を持ってこられる時は、元気に店に入っていらっしゃいますよ」
「……、その石お借りします」
元気になれる、その一言に勝てなかった。
 
次の日から、仕事をするときには、会社の制服のポケットに石を忍ばせるようにした。
 
「おはようございます」
「はぁ!? おはようじゃないだろう!? 言葉が違う!!」
いや、朝の挨拶はおはようでいいよね? それ以外の言葉があるのかな?
きょとんとしてしまった私に、更に同部署の人間がたたみかける。
「これだから常識の無いやつは……!!」
訳の分からない、言いがかりのような嫌みが一時間続く。毎日だ。私のストレスの一番の原因だ!
こっそりとポケットの中の石を握ると、いつもなら涙が湧き上がり叫びたくなる位苛々するのだが、今は雑音程度に思える位嫌味が気にならない。石が黒い物を吸い込んでくれているみたいだ。
本人が言いたいことを言い、満足すると終わる。その後やっと業務に入れる。
今日は、この石のおかげで普通に仕事が出来た。そんな当たり前のことが嬉しかった。
 
石は、私のストレスを吸い、日に日に大きくなっていったが、石の大きさに反比例し、仕事は順調だった。
 
だが、そんな平和も長くは続かなかった。
 
「どうなってるんだ!!」
朝、事務所に入った途端罵声が響いた。
どうなっているんだ、と言われる前に意味が分からない。
おそらく私が事務所に入る前に色々話してしたのだろうが、その場にいなかった私には内容が分からない。それを伝えると、
「何で分からないんだ!! これだから記憶力の無いやつは……!!」
「!?」
記憶以前に説明不足じゃ無いの!?
石の吸収力が落ちてきていたせいもあるが、感情の押さえが効かなかった。
今まで石が吸収してくれるのを待っていたが、もうそんな余裕は無い。自分から石に、あふれる感情を押しつける様にどんどん流し込んでいった。
バンッ!
何かが弾ける音と共に頭の中が真っ白になった。
 
気がつくと、私は例の店にいた。
「……様、…お客様? 大丈夫ですか?」
目の前に例の青年が、私の目の苗で手の平をヒラヒラさせていた。
「気がつかれたようですね。どうなさいました?」
私はまだボーッとしていたが、聞かれたままに少しづつ答えていった。
「石は?」
と、聞かれ握っていた手を広げると、石の欠片らしき物があった。
石のかけらを見た途端、涙があふれてきた。この石のおかげで、この何日かが平穏に過ごせたのだ。もうあの平穏な日々は、帰ってこないのだろうか。
何かを察したのだろうか。青年は、私の前の机の上に紙と少し変わったペンを置いた。
「欠片をお貸し頂けますか?」
大きめの欠片を受け取ると、それをペンの頭にセットした。なんだか欠片がペンの飾りに見えてかわいい。
青年がペンで紙にコイルの様な○を書いた。黒いグレー色であまり好きな色では無かった。
「これは、この石に込められた物の色です。ですが……」
ペンに付いていたダイアルのメモリを動かし、また、紙に同じ模様を描いた。
今度は、グレーもあるが、他にも緑や暖かな色が数色あった。
「これは、全てお客様の中にある物です」
「私どもは、ストレスとは押さえ込んだいくつかの感情が重なった物だと考えております。負荷が強い程黒に近くなりますが、<目盛り>バランスや物の見方を変えれば、華やかな色にすることも可能だと考えております。」
ストレスも使いようですよ、と言った笑顔に胡散臭さは無く、見惚れる程暖かかった。
代わりの石がいるか聞かれたが断り、今までのお礼を言って店を出た。
 
「このようにならなくて良かったですね」
青年が開けた店の奥には、幾つもの人影があった。
「石に感情を全て吸われた者は、人として生きる事ができない。感情があってこそ人なのだから」
これ以上在庫はいりませんよ。呟きながら青年は、その場を去った。
 
—ストレス買います。尚、それ以外の感情も買います。—
〜 店主より
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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