トマト狂想曲
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記事:toko(ライティング・ゼミ通信限定コース)
あなたは目の前のありふれた野菜に、どれだけの新しい可能性を見つけることができますか?
私の目の前には、今、1キロ以上のミニトマトが転がっている。
つやつやとして普通のミニトマトよりは面長な、引き締まった実のトマトたち。
このトマトは、加熱専用トマトとしてオンライン上で販売されている品種だ。最小ロットでも一人暮らしの私には食べきれない量だったので、近所に住む家族連れの友人とシェアすることにして注文した。
普段の私は、1パック380円ほどするミニトマトに高いなあと顔をしかめ、しかも食べきれないうちにしわが寄ってしまい、慌てて煮込み料理にトマトをぶちこむような料理下手である。
それでもスマートホンの画面上でつややかに光る、おいしそうな加熱専用トマトに惹かれ、友人に声をかけて取り寄せてみた。
1キロのトマトとは未知の量である。
どう調理するか考えながら、ひとまず一粒水で洗って口に入れてみる。解説の紙に書いてある通り、感動するような甘さがあるわけではなく、どちらかというと酸味がメインで噛み応えがあった。
初日はひとまず、生で食べてみようとサラダにトマトをトッピングした。
そこから数日、私の献立はトマトを中心として組み立てられた。
トマトと野菜とベーコンを電子レンジで煮込んだお勧めの食べ方、レンチン。同じくベーコンとタイムで味付けしたシンプルなパスタ。エリンギと玉ねぎ、にんにくとの炒め。
和にも洋にもなじむ味の幅に驚かされながらも、最終的には卵と一緒ににゅうめんのトッピングにしたメニューが一番おいしかった。
十字に切れ目を入れたトマトが湯剥きされたようになり、酸味が甘いつゆとマッチして思わず箸が進むおいしさだった。
加熱専用トマトは、私にとって確かに新しい食材だった。
とはいえ、トマトだ。子どもの頃から数えきれないほど和食でも中華でも洋食でも口にし、一人暮らしが始まってからも、慣れない自炊生活を支えてくれる、頼もしく信頼できる古株の食材だ。
そんなありふれた存在であるトマトが、一週間以上も食卓の主役を張ることができるということは、私にとって新鮮な驚きだった。
こういったことは、案外私たちの生活の中にも潜んでいるのかもしれない。
目の前にあるありふれた出来事を、ピックアップして注目してみると、もしかしたら何通りもの楽しみ方が存在しているのかもしれない。
私たちは、「いつもの生活」に飽き飽きしている。
朝起きて歯を磨き、電車や車に乗って仕事へ向かう。仕事が終われば時には飲みに行ったりもするけれど、家に帰ってまた眠る。
このありきたりな日常は、大人になればなるほど代わり映えのしない毎日に感じられる。
そうして非日常を欲する私たちは、旅に出たり買い物をしたりして「ここではないどこか」や「今はない何か」を求めていく。
そして、代わり映えのしない毎日を過ごせなくなる日がやってきた。
この「家にいなくてはならない」期間を経て、私たちはそれぞれ、目の前の生活を豊かにする方法を自分なりに開発していった。
それは、本当に些細なことだったかもしれない。
美味しいものを食べるべく、いつもより時間をかけた手料理。暖かいうちに取り込める洗濯物。目を背け続けた換気扇の掃除。毎朝のヨガ時間。子供の成長を見届ける瞬間。部屋の模様替え。ベランダで過ごす晩酌タイム。
家という限られた面積の中でどうすれば心地よく過ごせるのかを、世界中の人間がそれぞれ試行錯誤しながら考えた2020年だった。
家とは、安らぐ場所。人によっては眠りに帰るだけの場所だったかもしれない。
そんな家に、様々な付加価値がついたこの半年間だった。これまで家ではできないと思っていた様々なことが可能になった。
海外へ引っ越した友達と次にお酒を飲めるのは数年後だと思っていたが、画面越しにいつでも盛り上がることができると知った。
私たちの目は、なんでもよく見えているように見えて、まだまだ見えていない部分も多いのかもしれない。
よく知ったつもりになっている場所や物、人でも、まだまだ新しい一面を沢山発掘することはできる。人間は、限られたものの中から無限を生み出すことができる。
早くも残り3か月を切った2020年を思い返しながら、目の前のトマトを見つめる。
「形式に縛られない気まぐれな曲」のことを狂想曲、カプリッチオという。
トマトを加熱して美味しくいただくために、今までトマトを入れるなど夢にも思わなかった料理にトマトを追加してきた。そしてそれはいつでも新鮮な美味しさを教えてくれた。
今、私たちは慣れ切っていた目の前の暮らしに、形式に縛られない気まぐれな要素を加えて、新しい楽しみ方を見つけている。
季節が変われば、楽しみ方もまた変わってくるだろう。
早春に大きな制限を加えられた私たちは、その制限の中から沢山の新しい楽しみを見つけてきた。
秋が深まり、もうすぐ冬がやってくる。私たちの狂想曲、冬編ではどんな新しい生活の楽しみを見つけることができるだろうか。
***
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