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ここは昭和保護区


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村 光昭(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「これ千二百円でいいよ」
「中国産だけど、俺はいつもこれを食べている。旨いから食べてみ」と威勢の良い声が聞こえ、マジックでパッケージに千二百円と書く。
 
魚屋でウナギのパッケージを指してのやりとり。大きなウナギが2尾で千二百円は高騰しているウナギにしては驚きの価格である。実際、買って食べたが、ふっくらとして国産とそれほど変わらない味でボリューム満点。某チェーン店で食べるウナギより断然良い。湘南名物の生シラスも、朝、水揚げされたものが格安で買える。江ノ島で生シラス丼を食べたら千円以上するけど、ここでシラスだけ買えば数百円。2人分ぐらいの生シラス丼は作れる。
 
この魚屋は藤沢駅前というより駅に直結している古びたビルの地下にある。昔ながらの雰囲気があり、お世辞にも洗練されているとはいえない。レジはベテランのおばちゃん達が手際良くこなしている。決済は現金のみで品物はそのまま手渡し。アメ横っぽい値引き交渉もできる。近頃のスーパーとは大違いの買い物スタイルだ。でもそれは近頃のスーパーが進化して、ここが取り残されてしまっただけであるとも言える。
 
魚屋だけでなく、ビル全体が昭和の雰囲気を醸し出している。ビルの名前は「フジサワ名店ビル」だ。東京近郊の駅前一等地はほぼ大規模資本により新しいビルに置き換えられてきているが、ここは頑固に建て替えを拒否し続けているのか、昔のままを守る意志が感じられる。テナントは個人商店っぽい青果店、惣菜屋や飲食店などが入っている。デザイン性のある内装とは無縁の店。商品以外は無駄なコストをかけず、その分、価格で消費者に還元するのがポリシーではないか。地下食品売り場全体が市場みたいだ。
 
そんな名店ビルもコロナ緊急事態宣言で休業を余儀なくされた。その時の主張がちょっとした話題になった。ビルに横断幕が掲げられ、そこにはこう書かれたていた。
 
自粛は戦いだべ。
魅惑の頑固商店街 フジサワ名店ビル
 
「だべ」とは藤沢の方言。藤沢出身の元スマップ中居くんが時々使っているので耳にしたことがある人もいるかもしれない。頑固商店街は負けないぞ! なんとしても生き残ってやると僕は生命力を感じた。自粛期間は多くの小売店がもうダメかもと弱音を吐いていた。その頃にこのメッセージは僕の心に響いた。感動して横断幕を写真で撮り、今もスマホの中に残している。
 
この記事を書くにあたって「フジサワ名店ビル」についてググってみたところ、トリップバイザーの藤沢市観光スポットにランクされていた。確かに遊びに来た時に訪れると楽しいかも。そしてオープンは昭和40年。なんと僕と同じ歳。ちょっと親近感が湧いてきた。それにしても55年も経つとビルも人も老朽化するなあ。このビルと同じ歳と思うと自分自身も外から見るとヘタっていると思われているだろう。昭和頑固オヤジは社会で嫌われそうだけど、ビルは頑固のままでも人を惹きつける。最近、レトロビルを好んで撮影しているカメラマンもおり、昭和の遺産は貴重な存在となりつつある。特に現役のビルは耐震性の問題もあり、現実的に取り壊さざる得ない建物も多いと聞いた。
 
藤沢市がある湘南エリアは新しいショッピングモールがちょこちょこできてきている。湘南ブランドは強く、移住者も多いからか人口も増えていて、経済圏として成り立つのかもしれない。ただ大手デベロッパー開発によるテナントは似たようなところが多い。地元のお店も入れるような工夫はされているが、なんとなく味気ない。海岸沿いにはここ数年でいくつか小規模のビルが建ち、アパレルとか飲食店も増えている。皆さんもご存知、湘南天狼院は新江ノ島水族館前のENOTOKIという施設に入っている。流石に書店は海沿いにはなく、不思議な感じがした。クリエイティブ空間として海沿いはいいですね。
 
新しいおしゃれなショッピングモールが湘南に出現してくる中で「フジサワ名店ビル」はいつまで頑張れるか分からないが僕は応援し続けて買い物をしていきたい。でも少子高齢化の日本社会って逆にこういうレトロな施設が重要かも。今後の購買層は高齢化が進み、人から買う現金商売の方が需要はあるかもしれない。デジタルと逆行したライフスタイルもありである。
 
そんな中、「フジサワ名店ビル」にまた新しい横断幕が掲げられた。これがまた粋である。
 
あんたにも、伝えたい。
常連だけが知るこの熱狂を。
ハマりこんだら出られない。
ここは昭和保護区。
 
魅惑の頑固商店街 フジサワ名店ビル
 
常連しか知られてないから自虐的なこのメッセージなのか。昭和保護区とはこれからもフジサワ名店ビルは守られていきそうで安心した。このままでいて欲しい。でもこのメッセージをみたら、みんな行きたくなるのではないかな。僕の本心は秘密の場所にしておきたいんだけど。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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