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視点を変えた息子がライバルになった日


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たまっくす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
むかし、むかし、江戸時代の話。
ある満月の夜に、小さな村の住人たちが7~8人集まって酒盛りをしていた。村人たちは、頭上に見事にかかった真ん丸の満月をながめながら、酒を酌み交わし、そのうち、この名月を題材に俳句をひねり始めた。
 
そこに、村人ではない、身なりのみすぼらしい老人が通りかかった。
 
彼は、
「私も一句よんだら、お酒をごちそうしていただけるかな?」と言った。
 
村人たちは、酔っていたこともあり、「ああ、もちろん。良い句をよめば、ごちそうするよ」と、面白がってその老人に作句をうながした。
 
その老人は、少し考えると、
「三日月の……」
と、よみ始めた。
 
その途端、村人たちは、
「おいおい、じいさん! せっかくこんな見事な満月が出ているのに、
いきなり『三日月の……』はねえだろ! あんた、ド素人か?」と言って、笑った。
 
老人は意に介さず、
「三日月の頃より待ちし、今宵かな」と、言葉を継いだ。
 
村人たちは、「三日月の頃から、この満月の夜を心待ちにしていた」というこの句の素晴らしさに絶句し、一瞬、静かになった後、歓声を上げてこの老人に酒をふるまったという。
 
私は、この話を小学生の頃の国語のテストの裏に書かれていた「読み物」で読んだ記憶がある。その時は、その老人は小林一茶とされていたが、諸説あるらしい。
 
ただ、この話は、誰がよんだのか? の点はあまり重要ではない。
大事なのは、「視点を変える」ということだ。
 
村人はみんな、見事に輝く真ん丸の満月を見ていた。その時点で、満月の「三日月時代」に着目する者は皆無だった。だから、まったく異なる角度(「死角」といってもいい)から投じられた「三日月」という変化球に反応できずに絶句した。
 
視点を変える、角度を変える、表現は異なるが言っていることは同じだ。つまり、予想もしていなかった不意打ちをくらわせるのは非常に効果的だということ。
 
先日、中学1年になる息子が、気難しい顔をして机上の1冊の本と原稿用紙に向き合っていた。
 
その本は、遠藤周作の「海と毒薬」だった。息子曰く、学校の宿題で読書感想文を書かなければならないのだが、書き出しに迷っているという。
 
私はこの本を学生時代に読んだことがあった。読んだことのない人にはネタバレになるので、AmazonのWebサイトに書かれている程度の情報をかいつまんで書くと、「(太平洋戦争末期に起きた)九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化」したものである。つまり、米軍捕虜が日本人医師らの生体解剖の対象となった。
 
学生の頃に読んだきりなので、うろ覚えだったが、私はアドバイスのつもりで、「まあ、なんていうの? 敵国の捕虜とはいえ、人を殺しちゃうという罪を犯したことへの罪悪感とか、組織命令と個人の倫理観とか……。まあ、そんな感じのこと書けばいいんじゃないの?」と、息子に伝えた。
 
すると、息子は、
「うん。そうだよね。そういうことだよね。ありがとう。まあ、書いてみるよ」と言って、やおら鉛筆を握ると、
 
「新型コロナウイルスが世界中にまん延し……」と、書き始めた。
 
「え? 新型コロナウイルス? え? なんで?」と、私は心の中で疑問の声をもらしていた。
 
すると息子は、
「新型コロナウイルスが世界中にまん延し、一か月の平均死者数は、世界全体で10万人を超えている。この小説の舞台になった太平洋戦争末期の日本では、月に4万人もの人々が戦死したと聞いたことがある。
この時代と今は、人が日常的に数百、数千の単位で亡くなっているという異常な状況という点で共通している。多くの人が異常な状況にいるなかで、他人が死んだり、他人を殺したりすることへの感覚がおかしくなっている点でも共通している」
と、書き進めた。
 
私は、思いもよらない角度から、それこそ強烈なパンチをくらったような気持ちになった。
 
太平洋戦争では日本人だけでなく多くの方々が命を落とした。軍人でもなんでもない一般の人が戦地に駆り出され、敵国の兵と殺し合いの日々を余儀なくされた。戦地ではない国内で普通に暮らしている一般人でさえ、空襲の恐怖にさらされ、死と隣り合わせの毎日を過ごしていた時代だ。
 
私はそんな時代を「異常な時代」と思っていた。
にもかかわらず、世界規模でいえば、その時代と変わらない数の方々が新型コロナウイルスにかかって亡くなっているのに、私には、今が「その時代と同じか、それ以上に異常な時代」という認識はなかった。息子の読書感想文の書き出しに、自分の感覚の鈍さを思い知らされた気がした。
 
しかし、父としての威厳を保たなければ……、というもう一つの思いが胸に沸き起こり、私は「うろたえてはならない」と自分に言い聞かせた。
 
そして、
「なかなか、鋭い視点じゃない。なるほど、なるほど」と言ってみた。
息子は、
「パパ、もう大丈夫だよ。僕、もう書けそうだから。テレビ見てていいよ」と言ってきた。
 
私は、なぜだかとても悔しくなり、「鋭い視点で思い出したんだけど。パパも、昔、幼稚園の年中さんの頃、絵の発表会があって、『花咲かじいさん』の絵を描くという課題が出たんだ」と、話し始めた。
 
「花咲か爺さんの絵本を先生が読んでくれて、それを聞いた園児たちが、『一番面白かった場面を描く』という課題でさ、先生が、絵本を読んだ後、ひとりひとりの園児の机を回って、『〇〇ちゃんは、どこが面白かった? うん。じゃあ、そこを描きなさい』って指導してくれたんだよ。
で、発表会の日になって、おばあちゃん、パパのお母さんね、が、幼稚園に入ったら、壁一面に、満開の桜の前でニコニコしているお爺さんとお婆さんの絵が飾られているなかに、1枚だけ、焦げ茶色の背景に黄色い真ん丸を描いて、そのうえに、大きなモグラを描いている絵を発見して絶句したんだって。すごい視点の子がいるなって」
 
「実はさ、その花咲か爺さんは、オチがちょっと変わっていて、隣のいじわる爺さんは殿様に怒られただけでなく、最後に『モグラ』に変身させられて、一生、土の中で暮らしましたとさ、で終わったわけ。パパは、そのモグラになるシーンが衝撃的でさ、モグラになった爺さんの気持ちが気になっちゃって、どうしてもモグラを描きたくなったんだよね。だって、絶対、どこが一番面白いかって聞かれたら、モグラだろ?」
 
しばらく、話を聞いていた息子は、
「パパ、僕はもうほんとに大丈夫だよ。『なんでも鑑定団』始まっちゃうよ」
と、静かに、それでいて有無を言わさぬ口調でそう言った。
 
私は、テレビの部屋に向かう階段をおりながら、モグラとコロナの違いはあれど、視点を変える技術については、引き分けだな、引き分け、と心のなかで繰り返した。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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