見たいものを見れば満足する
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀 紗章子(ライティング・ゼミ日曜コース)
黒光りするアイツが出た。
駆除業者のおじさんが神様に見えた日だった。
今年の夏、毎日の様に雨が続き湿気と熱気が部屋に篭ったせいなのか、私の部屋には多くの人が嫌うあの虫が住みついていた。
1シーズンに1匹や2匹であればまだ私も対処できるのだが、なんと連日見かけるようになってしまった。
日々、突然影から現れるヤツら。
いいかげん私も疲弊し、自分の部屋に帰るのすら嫌になるほどだった。
ある夜、限界に達した私はすぐさま害虫駆除業者を呼び、翌日の昼には来てもらうよう約束を取り付けた。
そして部屋のあらゆるところを見てもらい、隙間を埋め、薬剤を散布。
実際にそれからしばらくするとぱったりとヤツらを見なくなった。
先に言っておきたいが、ここで話したいのは私のゴキブリ奮闘記ではない。
悲しいことに、たかがゴキブリによって私はしばらく自分の部屋が大嫌いになってしまった。
もちろん、家に帰るとアイツと会うかもしれないという恐怖心がそうさせる部分もあったが、そこから派生して、築年数が古いから建て付けが悪いのではないかだとか、都会のワンルームだからいけないのではないかとか、狭い部屋を選んでしまったから遭遇するのだとか、風通しが悪いせいだとか、部屋の悪いところにばかり目が向いてしまい、「もう引っ越したい」とまで思うようになってしまっていた。
今年の初め、引っ越したての頃はお気に入りの家具を置いて、好きな香りのディフューザーで居心地の良い空間を作ったり、時々模様替えをする度に自分の部屋を好きになっていた。
都会のワンルームで狭い部屋だというところも、むしろコンパクトで都合がいいと思っていたし、築年数が古くても内装が綺麗なら他の物件より安上がりで運が良かったとさえ思っていた。
「私にとってのお気に入りの部屋」だった。
ところがヤツらが出てからというもの、私の部屋は「ゴキブリが出る最悪の部屋」へイメージが急降下。
私の中で一気に印象が変わってしまったのだ。
何かひとつのきっかけでイメージがガラリと変わったり、好感度までもが180度変わってしまう事はよくある事だと思う。
さっきまで好きだった人が、ひょんなことから生理的に受け付けない人へ変わってしまったり、また逆に全く気にも止めていなかった人がある瞬間から輝いて見えたり。
きっとそれらは、その一瞬の出来事がそうさせるというよりも、「見ようとする視点」の違いなんだと思う。
私は自分の部屋でゴキブリが大量発生したという最悪の事態を、部屋が原因でこうなったと思いたかったから、部屋を悪く見る視点に立っていたのだと思う。
実際にゴキブリがほとんど出なくなった今、改めてこの部屋が嫌いかと言われると、それほど悪い条件ではないし、レイアウトはその一件の前後も変わらず自分の好きなものに囲まれた空間なので、どちらかと言えば気に入っている。
むしろ今は自分が選んだこの部屋を好きでいたいという視点に立っている。
こういう見方の問題は、人の生き方にも通じていると思った。
何度も考えることがあるが、仕事に全力を注ぐ人生と、趣味や生活のために仕事をする人生、どちらの方が幸せなのだろうかと、時々頭を巡る。
多分どちらも幸せなはずだけれど、私もそうだが趣味のためや生きるお金を稼ぐために仕事を続けている人からしたら、何か一つの仕事に打ち込めている人生がとても羨ましく、輝いて見える。自分の人生では得られないものをたくさん経験しているようで、羨望の眼差しを向けてしまう。
けれど、逆の立場も想像する。
仕事に没頭して人生のほとんどの時間を労働に費やした人からしたら、趣味のためにお金を稼いだり、安定した暮らしができる分だけ働くと言った生き方はもしかしたら少し羨ましがられるのかもしれない。
それでも、それぞれが折り合いをつけてやっていけるのはきっと、自分の人生を幸せだと考えようとする視点に立っているからではないだろうか。
損ばかりの人生だと思うこともあるが、ずっとその視点に立っていたら毎日毎秒他人を妬んでいるだろう。
「こんな部屋に住まなければ」「もっと新しい物件を見ておけば」とこの部屋を恨む瞬間がこの夏はたくさんあったが、季節を超えた今、自分の部屋には相変わらず満足している。
人の生き方もそれと同じようなことで、時々他人の人生に目を向けてしまい羨んだり妬んだりする見方をしてしまうけれど、落ち着いてしまえば、やっぱり自分の人生は案外恵まれているなと思い返せる。
ゴキブリ事件の話に戻る。
自分の部屋を嫌いになって、勢い余って引っ越したりしなくて本当に良かった。
よく考えればやっぱりお気に入りの部屋だったと、しみじみ思った。
***
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