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漏れ恥! センター試験で漏れるは恥だが役に立つ。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大野了(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
今年は息子ふたりがW受験だ。
 
我が家にも俄かに緊張感が漂い始めたが、この時期が近づくと思い出すことがある。
 
心の奥深くに閉まっていたあの時のことを。いっそ忘れたいのに身体の芯で憶えている記憶。
 
私は人生で一度だけ失禁したことがある。
 
それは忘れもしない18歳の寒い冬、センター試験の数学の時間だった。
 
試験当日、私は極度の緊張に襲われていたものの、最初の科目の数学には一番自信があった。それが2問目で躓き、まさかと思考が停止した。気づくと予想以上に時間をかけてしまい、時計を見て完全にペース配分を間違えたことに愕然とした。
 
すると人間の脳は不思議でドンドン追い詰まって働かなくなる。更に指先が痺れてきて、尿意も強くなって耐え難くなり、思考が朦朧としてきた。最後の数問まで辿り着いた時には数分しか時間が残っていなかった。目標の国立大学はある点数以上取らないと2次試験に進めない「足切り」ラインがあり、1科目も落とせない。
 
どうしよう。尿意も爆発しそうだ。トイレに行く時間もない。間に合わない間に合わない間に合わない。どうしようやばいやばいどうしようどうしようやばいやばいやばい。
 
あっ!
 
はっと気づいた瞬間、私は全てを解放してしまっていた。
 
一瞬のできごとだった。
 
人生で初めておしっこを漏らしてしまった。
 
それも公共の場。しかも人生で一番大事だと思っていた試験本番に。何てことをしてしまった! と思ったが、1問でも終わらせねばと集中することだけを意識した。無理だった。あえなく試験時間は終わった。最後の数問は間に合わなかった。
 
休憩時、濡れた椅子を周囲に悟られぬようティッシュで拭き、個室トイレに駆け込み、パンツを脱ぎ、ハンカチにくるみ、ポケットに入れて、顔面蒼白のまま試験会場に戻った。
 
まさかのノーパン受験である。
 
その後の科目は、尿意から解放されたからか、試験を無事に終えることができた。ただ、家に着くまでの記憶がない。
 
家に着いた時には、私はすさまじい喪失感に覆われていた。母に気づかれないように洗面所でパンツをすすいで服と服の間に挟み、洗濯機に入れたことを覚えている。「どうだった?」と母に聴かれた時に思わず涙が溢れそうになり「ま、まあ」と俯いて外に出てひとしきり泣いた。人生であんなに泣いたことはないくらいに。
 
これが私の人生唯一の失禁体験である。
 
その後、足切りは逃れたものの目標の国立大に落ちて、唯一受かった私大に入った。
 
この経験には後日談がある。
 
5年前、私の長男が中学受験に臨んだ時のことだ。
 
彼が夢見ていた学校への1校受験で極度の緊張だったと思う。そして試験本番に何の因果か算数で躓き、大誤算の失敗をした。
 
合格発表日、私と妻は長男の志望校への想いからどうにか受かっていて欲しいと祈っていた。彼が学校から帰る前にWEB通知が来て2人でおそるおそるパソコンを開いた。彼の受験番号は無かった。妻は黙ったままぽろぽろと涙し、私も妻を慰めているうちに涙が溢れた。長男からは、自分で見たいから結果は言わないで欲しいと言われていた。妻は泣き腫らした顔を見せまいと化粧し直して、表情を必死に繕おうとしていた。
 
彼が帰ってきた。一直線にパソコンの前に座り、結果通知を開いた。自分の番号を探そうと画面を食い入るように見て、そして彼の視線が止まった。
 
「やっぱり駄目だった」と小声で呟いた。
必死に現実を受け止めようとしている長男の表情を見て胸が詰まった。次男が明るさいっぱいに「どうだった!?」と飛び込んできた。首を振った妻の姿を見て、次男は今にも泣きそうな表情で俯いた。
 
暫く沈黙が続いた後、私は大学の試験本番におしっこを漏らした話をし始めた。最初、長男はこわばった表情のまま私を見ていた。でも私はできるだけ明るく話して、最後に「パパもまさかノーパンで受験すると思わなかったけどな!」と言ったら、長男はぷっと噴き出すように笑った。
 
「どうしても行きたい大学だったけど、もしその大学に行ってたら、ママには会えてなかった。お前たちも生まれてなかったんだよ」と話した。
 
「だから今思うと、パパはおしっこを漏らして本当に良かった。○○(長男の名前)も今は凄く悔しくて辛いと思うけど、人生何が自分にとって財産になるかわからない。この1年の頑張りは絶対に活きてくる。本当によく頑張ったよ!」と伝えると、「うん」と彼は涙を浮かべて頷いた。
 
その時、小学3年の次男が「なんでパパがママと出会わないと、僕たちは生まれなかったの? ママのお腹から生まれるから関係ないじゃん」とぽつりと呟いた。長男はにやりと笑った。私は「それはまた今度ね」とごまかした。妻も泣きながら笑った。
 
その夜、妻がお祝いに用意していた焼き肉を、皆で言葉少なに食べた情景が心に残っている。
 
なぜ今更この話をしたくなったのか私にはよくわからない。ただ打ち明け話をすることによって、普段抑えている感情が解放され、成仏される感覚がある。恥ずかしさを超えて、スッキリと楽になった。長い間、受験で漏らしたことはトラウマだったけど、あの時、咄嗟に長男を笑わせる話題となったのだから、今では本当に良かったと心から思う。
 
そしてあれから5年が経ち、また試練の年がやってきた。
 
しかも今年は長男が大学受験、次男が高校受験というコロナと共に迎えるW受験だ。
 
でも、たとえ2人がどんな結果になろうとも覚悟はできている。
 
私は息子たちから溢れるすべての感情を、全部まるごと受け止めるつもりだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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