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コーチはクライアントの「ダイビング器材」である


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記事:廣江悠輔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
コーチングに対する認知度が高まっているのを感じる。
日本においては特にビジネスの分野で、部下の育成などの人材開発の分野で活用されるケースが多いようだ。本屋のビジネス書コーナーでコーチングに関する本を目にした事があるという方も多いだろう。コーチングについて漠然と興味を持っている方も多いのではないだろうか?
 
かく言う僕は、偶然参加したとあるセミナーで講師の方から「廣江さんってコーチにすごい向いているよね」と言われてのがきっかけでコーチングの存在を知った。
 
そして、それに気を良くしてコーチングスクールに通い始め、6ヶ月のコースを修了。
現在コーチとしての人生を歩み出そうとしている。今考えてみると、コーチングに出会う前の自分はコーチングについて何も分かっていなかったな……と思う。
 
コーチングを学ぶ前の僕は、コーチングとはコーチがクライアントに対して何かを教えたり、指導するものだと考えていた。
 
サッカーや野球などスポーツにおけるコーチが、選手に「正しい技術」を教えるためにトレーニングメニューを考え、選手はそのメニューを黙々と消化する。そして、「正しい動き」が出来ていないところを時には優しく特には厳しくフィードバックして、選手が「正しい動き」を習得するように指導する。
これのビジネス版がコーチングであり、ビジネスの手法について教えたり、クライアントが仕事で成果を出す為の道筋を描くのがコーチの役割だろうと何となくイメージしていた。
 
だから、自分がコーチとしてクライアントにコーチングを行うことなんて到底出来ないと思っていた。
 
僕は、至って普通の中堅サラリーマンで、目立った成果を会社であげている訳ではない。成果をあげる手法を教えるような立場では間違いなくない……。
 
でも、その認識が全く違うという事にコーチングを学び始めて間もなく気が付く事になる。
 
まず最初に気がついたのは、コーチングはビジネスだけにフォーカスしたものではなく、人生そのものをテーマとするという事。
 
確かにビジネスに特化したコーチングをサービスとして提供するケースもあるけれど、それだけ仕事が人生において大きなウェイトを占めている人が多いからだと思う。
実際には、人生に関する様々な事柄、例えば人間関係や余暇、恋愛などもコーチングのテーマとなり得る。
 
この事に気がついて僕が思ったのは、人生そのものがテーマなんてなおさら自分に向いていないのではないか……という事。
 
人生について教えるられるほど長く生きている訳でもないし、むしろ30歳を過ぎ、このまま今の会社で働き続けて良いのかと今後の人生について迷い始めている自分にはコーチなんて務まらないのではないか。
そんな風に思っていた。
 
「コーチはクライアントに何かを教えなければならない」この認識が的外れで思い違いであるという事に深く納得する事が出来たのは、コーチングを学び始めて2ヶ月くらい経ってからだろうか。
 
コーチングはコーチのスキルとして知識はそれほど重要視されない。何より重要なのは、クライアントの話を全神経を使って聴く姿勢だ。
「答えはクライアント自身が持っている」というのがコーチングにおけるコーチの基本スタンスである。
どのような決断をくだすのかはクライアントに委ね、コーチは基本的にクライアントに何かを教えたり指導したりしない。
 
クライアントが答えを持っていてコーチが教えないのであれば、コーチの存在価値とは? と思うかもしれない。
僕もそう思っていた。
でも、クライアントが自分一人でその答えを見つけるのがとても大変な事だ。
 
クライアントは、答えを見つけるために、自分の心の奥底まで潜り込み自問自答をする必要がある。それはさながら海に潜り、地上にはない景色、見たこともない魚に出会うダイビングのようなものである。
クライアントが一人で自分の心の中にダイブすることは、身体一人で海に潜る素潜りのようなもので、海の中の景色をクリアにみる事が出来ないし、深く潜る事は出来ない。
何故なら、クライアントが無意識に持っている思考のクセや過去のトラウマなどが心の奥底まで覗き込むのを阻んでしまうからだ。
クライアントが自分に深く潜り込み、今まで気づいていなかった視点を獲得出来るように、コーチがダイビング器材としてクライアントに寄り添う。
 
クライアントが話すのをコーチは全神経を傾けて聴き、質問を投げかける。
その質問によりクライアント自身が考えていることを超えて、新しい事や広がった考え方が出来るよう促す。
時には、誰にも話した事がないような無意識に蓋をしているようなセンシティブな内容になるが、コーチはそれをただ受け入れてクライアントが自分の奥深く本質的な部分に潜るサポートを行い、一人では得られない気づきを見つけるのをサポートする。
 
つまりコーチとはクライアントが海に長く深く潜るための酸素ボンベであり、新しい景色をクリアーに見るためのゴーグルであり、ライトである。
 
この事に気がついてから、何となくコーチングを学び始めた自分がコーチとしての人生を歩んでいく事を真剣に考えるようになったと思う。
 
だって、人生を真剣に考えるクライアントが自分自身に深く潜り込み、大事な事を見つけ出す瞬間にたくさん立ち会う事が出来るなんてとてもワクワクする事だと思うから。
こういう瞬間に一つでも多く立ち会えるよう自分自身のダイビング器材としての性能を高められるよう努めていきたいと思う。
 
 
 
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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