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部長が、人気占い師に思えた日


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記事:こひだまり(ライティング・ゼミ平日コース))
 
 
15年以上勤めた会社を、あと数日で辞めようとしている日のことだった。
 
私のいた部署に異動してきた新部長が、部員全員と面談をしたいということで、もう辞めるまで秒読みだった私も15分間、話す時間をもらうことになっていた。
 
退職も間近にせまった私は、初対面の新部長に一体どんな話をすれば良いのか。
面談の時間が来て、その無機質で灰色なドアノブを開ける時には、ずいぶん緊張していたと思う。
 
けれど私の意に反して、なごやかにはじまったその面談で、部長はこんな風に言ってくれたのだ。
 
「すごく悩んで退職を決めたって聞いてるよ。
 
悩んで決めたことだし、これからきっと大成功すると思う」
 
と。
 
長く勤めたその会社は、新卒からずっと働いてきた会社だった。
けれど、その会社しか知らないという世間知らずも手伝って、退職の意思を固めるために、かれこれ5年以上も迷い続けたのだから優柔不断も過ぎるというものである。
 
私が会社を辞めたいというと一様に誰もが「いい会社なのに、もったいない」と言った。その「もったいない」の言葉にしばられて、随分と時間を重ねてしまった。
 
私は、きっと、ずっと怖かったのだ。
 
会社を辞めて独立して、果たして私に仕事が来るのだろうか?
給与や待遇が安定している正社員という境遇を捨てて、不安定なフリーランスになって、後悔はしないのだろうか?
そんな不安は山ほどあったけど、でも独立してみたい、という理屈では説明しきれない気持ちはどんどん膨らみ、ようやく辞める事を決心したのだった。
 
だから「大成功する」なんていう言葉を言ってもらえて、すごく嬉しかった。
たとえ、その言葉に何の根拠もないとしても。
 
部長も私と同じ小学生の子どもを持つ母親である。
 
「私もね、じつはずっと迷いながら仕事やってきたよ。だから、辞める理由もよくわかるし。でもね。すごく悩んで決めたことだし、きっと大成功すると思う。」
 
その言葉に、ものすごく背中を押された気がした。
気がつくと、初めて会ったその人の前で思わず涙を流していた。
 
なんとなく、占い師に似てるなと思った。
 
豊富な人生経験と、多くの人の悩み葛藤をきっとこれまで受け止めてきたからこその圧倒的な懐の広さ。初めてあったにも関わらず、つい本心を打ち明けてしまうその雰囲気。
そう、都会の一等地にお店をかまえる、とびっきり人気の占い師だ。
 
精一杯、人生に迷い、それでも幸せをなんとかつかみたいと思っている人に、必要なタイミングで背中をそっと押す。私にとっては、そんな言葉だった。
 
根拠もなく放たれたその言葉は、まるで「お守り」みたいに私の中に残って、会社を辞めた後も、不思議と私をそっと包んで勇気づけてくれたのだ。
 
もう一人、退職間際に私にとって「お守り」みたいな言葉をくれた人がいる。
独立するにあたって、最も不安だったのは金銭的なことだった。
 
私が独立し、給与が減ることで、子ども達との生活に影響が出ないか心配だった。これから教育費もかさむだろうし、老後資金に1千万円必要だなんて言われている時代でもある。
私は辞める決断をする前に、金銭的な不安を少しでも減らしたいと思い、知り合いのファイナンシャルプランナーの女性に相談した。
 
我が家の懐事情を洗いざらい話した後、独立したら一ヶ月これくらい稼げると思っているという見積り金額を彼女に伝えた。
自信もまるでなかったから、これくらいは最低限稼がなければと思っていた控えめな収入額を伝えた。
 
その後、彼女は我が家の家計のシミュレーションをしてくれて、あれこれと私の不安を減らす言葉を言ってくれた。
 
彼女はこんな風に言った。
「一時的に収入が減るとしても、お金には代えられないものが絶対にありますよ」
「それにね、なんとなくだけど……、こひだまりさんはもっと稼ぐと思うから、きっと大丈夫ですよ」
と。
 
またしても人気占い師の登場である。
 
控えめに言った金額よりも「もっと稼ぐ」と言われたのが、なんだかすごく自信になったのだ。
 
いや、待てよ。
今回も特に何の根拠もない。その証拠に、しっかりと彼女は「なんとなくだけど……」とまず前置きしていたのだ。
 
でも、この際、なんだっていい。
自分に都合のいい言葉を信じて、これからは生きて行こうと思えた。
 
「大成功する」

「もっと稼ぐ」
も、“なんとなく”でも“直感”でも“適当“でもいいから、そういう風に信じ切ってもらえたことだけを胸に刻んで、新しい人生に飛び込んでみようと思えたのだ。
 
現在、私はフリーランス2年目だ。
結果どうなったか。
 
やはりフリーランスは不安定だなと思う事もあるけど、自分が決めた道を歩んでいることに後悔はなく、毎日幸せだ。
もう会社員だったころのように、毎日、迷ってもない。
そのことに小さな幸せを感じているのだから、ある意味「大成功」なのかもしれない。
 
もっと稼ぐと思う、という言葉については、会社員時代より稼ぎは減ったけど、もともと伝えた控えめな収入額よりは、なんとか稼げている。
 
人気占い師さんたちにもらった言葉は、すべて現実になったわけだ。
 
私も周りにすごく迷っていて、ようやく一歩を踏み出そうとしてる人がいたら、彼女たちみたいに、ためらいなく背中を押す言葉を伝える。そんな人になりたいなと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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