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メディアグランプリ

タイトル: カレーの女王


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Atsu Fuji(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
梅雨の季節。外は雨がシトシト降り続いている。
濡れるのは嫌いだけど、雨の音は好き。
だから、地下一階のテラス席がある洋食屋で遅めのランチを取ることにした。
春から初夏にかけては、特に人気のお店だ。
 
「欧風カレーを1つお願いいたします。コーヒーは、ホットコーヒーを食後に」
 
注文を終えて、ふと一息。年を重ねると知らず知らずのうちに、一息が多くなっている。
来月、誕生日を迎えると、いよいよ50代になる。
学生の頃は、50歳の自分なんて想像つかなかった。
子供と旦那と、庭のある一軒家に暮らしているのだろうとボンヤリ思っていたぐらい。
 
現実はバツイチで、小さな研修会社のアシスタント。
派遣社員から頑張り、去年正社員になれた。
舞台女優を目指してイギリスに留学していた20代からは考えられない。
 
「欧風カレー、お待たせしました」
 
久しぶりのカレーは、濃いチャツネ色で、スパイスの良い香りが全身に広がる。
そういえば、お店で毎日スパイスを挽いてますって書いてあった。
これは、なじみ深いターメリックの香りが強い。
 
お米も粒が立っていて、輝いている。沖縄の白い砂浜のようだ。
お米だけでなく、カレーを入れているソースポットまでもツヤツヤしている。
 
一口食べてみる。
 
……ああ、美味しい。
 
美味しいだけでなく、懐かしい。
イギリスでルームシェアをしていた部屋になぜか全自動のミルが備え付けであり、お金がなかった私はよくスパイスからカレーを作っていたのだ。
 
親の反対を押し切り大学を辞めて留学したが、自分の語学力の低さを毎時間突き付けられ、サンドイッチが続く日々に、一か月でもうホームシックになっていた。
そこで、カレーを作り始めた。
 
二口目を食べる。
 
……ああ、スパイスの中に隠れる甘めの味。
 
でも、このカレーが私を救ってくれた。
 
バルセロナとポルトガルから来ていたルームメイト達が興味を持ち、カレーを食べて、そして大絶賛してくれた。
元来社交的な彼らは、カレーパーティの開催を提案し、大学の友人たちを集めてくれた。
 
当日は、日本で食べていたカレーに加え、出汁を聞かせたカレーうどんも用意した。
カレーパーティは大成功で、インド人ですら日本風のカレーを絶賛してくれた。
特に、カレーうどんはその後も何度も作ってくれと頼まれるようになった。
 
……ポリポリ。添え物のラッキョウ、歯ごたえも含め、やはりカレーに合う。
 
カレーパーティをきっかけに、学内で私の知名度は一気に高まった。
ユキとチームメイトになると、カレーが食べれる。そんな噂からか、以前は入れなかったチーム練習にも、スムーズにチームを組めるようになった。
私はチーム練習も頑張り、合わせてカレー作りも頑張った。
果てについた、ニックネームは「カレーの女王」
 
皆が、私をユキと呼んでくれるようになり、夢の中でも英語を使えるようになった頃、事務所のオーディションに受かった。
TVCMの中で、アジア人のエキストラの役などが来るようになり、同時にカレーパーティは卒業した。
 
……カチャッ。最後の一口を食べ終えてスプーンを置く。
 
結局は舞台女優としては芽が出ずに、日本に帰ってきた。
それ以降、舞台は見ていない。
でも、久しぶりのカレーは、イギリス時代の気持ちを呼び覚ましてくれた。
 
「食後のホットコーヒーになります」
 
程よい酸味と香りのよい珈琲だ。中炒りの豆だろうか。
スパイシーなカレーによく合う。
 
ふと、最近見ていなかったFacebookで、ポルトガルのルームメイトを確認してみた。
たしか、彼女はダンス教室の先生をしつつ、シングルマザーとして子育てをしていたはずだ。
 
最近の写真がこまめに投稿されている。まだダンス教室をしているようだ。
あれ? 子供と彼女の写真に混ざって、特定の男性との写真が多く掲載されている。
つい気になって、スクロールして過去の写真を見ていく。
 
ああ! 2018年6月、2年前に再婚している!
凄い。確か私より少し上だったから、50代になってから再婚したんだ。
旦那は年下っぽい。
ポルトガルの傘祭りのアゲダに家族3人で行った新婚旅行の写真もある。
空にカラフルな無数の傘が浮かんでいるが、彼女の笑顔も負けていない。
彼女の笑顔を見ていると、口癖であった「Just Do It ! (とにかく動け)」を思い出した。
 
「とにかく、感じるままに動いちゃえばいいのよ。理屈は後からよ」、とよく私の背中を押してくれた言葉を思い出す。
この言葉が、私をカレーの女王に、そしてTVCMの出演、果ては旅番組のアシスタントまでに押し上げてくれた。
 
そして傘祭りの写真は、私が隠していた願望も思い出させてくれた。
 
やっぱり、人生の旅仲間が欲しい。
彼女の言葉を思い出しつつ、感じるままに、最近見ていなかったスマホのアプリを開いた。
 
「お、凄い」
 
思わず、口走る。
会社の後輩の女の子に進められて始めた、婚活アプリ。
50歳に近い私にどれだけ価値があるのだろうと半信半疑だった。
 
2週間ぶりにあけると、イイネが321件も来ている。
遊び目的かと思うのも半分ぐらいあるが、意外と年齢が近く真面目そうな人も多い。
舞台に興味があり、年齢も家も近い人を見つけ、思い切って返事を出してみた。Just Do It !
 
雨が、少し上がったようだ。
少し、鼓動が早くなったのはコーヒーのカフェインのせいだけではないだろう。
これから、スマホを見るのが少し楽しくなる。
 
カレーは、いつも私の背中を押してくれる。
良きルームメイトのように。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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