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仕事の価値はどこにある?


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:根本 理沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
先日、祖母の四十九日の法要に参列した。新型コロナウイルスの影響もあり、身内だけでこぢんまりと行った。87歳の大往生だったとはいえ、やはり長年一緒に過ごしてきた身近な人が亡くなるのは悲しいものだ。遺影を眺めながらしんみりとした気持ちで席に着くと、お坊さんが入ってきた。
 
お坊さんがお経を読み始める。始まってすぐに、違和感を覚えた。どうもお坊さんのお経の読み方がおかしい。お経の合間にえー、や、あー、といった言葉が入るのだ。
横一列に並んでいた親族全員が、「ん?」と首を傾げているのが伝わってきた。
 
お坊さんをじっと観察してみる。お経は手元にある経本を読んでいるようで、お経を忘れてしまったということではなさそうだ。年齢も60〜70代くらいの老人で、とても新人には見えなかった。
最初のうちは、こういうご時世だし、久しぶりの仕事なのかもしれないと思っていた。ところが、いつまでたっても、のろのろと経本を読んでいる。どういうことかさっぱりわからなかった。
 
祖母を想う気持ちは何処かへ吹っ飛んで行き、お坊さんのことが気になって仕方なくなってしまった。お経が止まる度にハラハラし、またお経がはじまるとほっとする。子どもの発表会を見る親のような気持ちだ。
 
結局、経本を読み切るまで、お坊さんはお経をどもりながら読んだ。そして驚いたのはその後だ。空で読むお経はスラスラと読めるのだ。一体どういうことだろう?
ますます頭の中が「?」でいっぱいになった。
 
よくみると、どんどんお坊さんの粗が目立つようになってきた。姿勢も悪いし、物の扱いも雑だし(木魚を叩く棒の撞木は、毎回ゴトゴト音を立てながら置いていた)、貧乏ゆすりはするわで、法要が終わる頃には、かなり印象が悪かった。
その後も説法は雑談になるわ、突然名刺を渡してくるわで、散々だった。
 
祖母を丁重に弔いたいという気持ちが踏みにじられているようで、非常に腹立たしかった。お坊さんにとっては何度もある仕事のうちの一つかもしれないが、こちらはそういうわけではない。大切な親族を見送る、大切な儀式なのだ。それを、どこからどう見てもこなしているように見えるのが許せなかった。
 
そもそも、こちらは安くもないお金を支払っているのだから、それ相応の価値を発揮すべきではないのだろうか? 私たちは、価値に対してお金を支払っている。お坊さんという職業の人は、私たちの望む形で祖母を弔ってくれると信頼しているから、先にお金を支払うのだ。
 
後になって知ったのだが、経本が読めなかったのは、老眼だったからだそうだ。だったら、老眼鏡をかければいいし、それができないのであれば、暗記するのが、お坊さんの務めなのではないのだろうか。
 
父はまあ歳だから仕方ないなあ、と言っていたが、私は到底納得できなかった。高齢だったら、お経が読めなくていいのだろうか? 物を雑に扱っていいのだろうか? 故人を弔うことなく自分の話を話していいのだろうか? お金はもらうのに?
 
お金をもらって仕事をしている社会人として、ああはなりたくない、と強く思った。人によっては心が狭いと思われるかもしれない。私からしたら、お坊さんは、相手のことを何も考えずに仕事をしているように感じたのだ。自分がやりたいようにやっているだけで、相手から何を求められているのかを全く理解していないようだった。
 
相手が自分に仕事を依頼してくる時、必ず何かを求めているはずだ。いい商品やサービスを作りたい・欲しい、結果を残したい、利益を得たい、思い出に残る体験をしたい、素敵な時間を過ごしたい……
その何かを100%理解し、それと同等の、時にはそれ以上の価値を提供することが仕事だと考えている。シンプルだが、実行することはとても難しい。
だからこそ、一つずつ丁寧に仕事を進めることをいつも心がけている。うまくいかない時もあるが、そんな時はなぜうまくいかなかったのか、どうしたらうまくいくのかを考え、次に生かす。目の前のことをコツコツとやり切るしかないのだ。
 
お坊さんは、このご時世、全然仕事がなくてと一生懸命名刺を配っていたが、絶対にご時世のせいではないだろう。ご時世のせいにするな、まずは今日の法要での自分の姿を思い返してみるべきだ、と喉まで出かかったが、グッと堪えた。
働き方や考え方は人それぞれ。一度しか会わないであろう他人に、わざわざ自分の考えを押し付けるつもりはない。ただ黙ってニコニコしながらお坊さんの話を聞いていた。
 
そもそも、この日の法要は祖母のためのものだ。祖母がよければそれでいい。
マイペースで優しかった祖母のことだから、このお坊さんのことも、おもしろい人ねえと笑ってくれるだろう。お坊さんは、仏様に救われたのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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