メディアグランプリ

わすれちゃ、だめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:シマザキ キミコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「どんな時も一番大事なのは自分自身だ。
一番大切なのは自分だってことを決して忘れるな」
 
このセリフは、私が今視聴している韓国のドラマ『キム秘書はいったい、なぜ?』という作品の中で、主人公の男性がヒロインのキム秘書に言った言葉だ。
ドラマの中でキム秘書はこれまで家族のために自分の事を後回しにし、仕事に邁進してきた。「家族に不満はないのか?」と質問され「不満はない」と答えた直後の会話だ。
 
私には、この言葉がとても深く心に刺さった。
 
というのも、自分が友人の相談に乗っている時に、これと同じ内容の話をしたばかりだったからだ。
 
友人は、今同じ飲食店の接客スタッフで働いている同僚なのだが、仕事を続けるのか辞めるのかで悩んでいた。
現実問題、職場の上司と折り合いが悪く、友人は出勤するや否や朝から機嫌が悪くなり、仕事はどうにかこなしてくれるものの、他のスタッフとのコミュニケーションに於いても、深い意味は何もないコメントや意見にすらこじらせた解釈をしてしまう、困ったさんな側面があった。
挙句、職場のラインで一方的に「出勤を控える」とコメントして連絡が数日取れなくなったりするという事実もあった。
 
彼女のメンタル面で、きっとこちらには計り知れない色々な問題が起きているに違いないと思ったが、私たちは精神関係の専門家でもなければ、スピリチュアルに彼女を導く力もない。
 
前回彼女と一緒に仕事をした時には「あなたが居てくれて助かったよ」という話をしているにも関わらず「私なんてご迷惑をかけるばかりで、すみません」とかみ合わない返事を寄越されて、さすがに辟易とした気持ちになってしまった。
 
そんな彼女から「相談したいことがあるから、電話をしてもいい?」と連絡をもらった。
相手がどんなテンションなのかがわからないので、こちらにも身構える気持ちがないわけでもなかったが、ここで拒絶するのも大人気ないと思い電話することになった。
 
(私、どうせ我慢できなくて思ってること言っちゃうんだろうな……)
 
彼女には耳の痛い意見も、そろそろ言うべき時期に来ていると感じていた。
私もダイオウイカが生息する駿河湾のように深い心の持ち主ではない。
彼女の態度に呆れ果てている同僚もいるので、ただ甘言をささやき職場に引き止める、というつもりは全くなくなっていた。
 
約束の時間に、スマホの画面にライン電話の着信が表示される。
最大限、いつもと同じように挨拶する。
冒頭、彼女からこのところ迷惑をかけ通しで申し訳なかったという謝罪から始まった。続けて「私、もう少しこのお店で頑張ってみようと思うんだけど、いいかな?」
相談を受けてはいるが、私も一介のパート従業員だ。何の決定権もない。
ただ、スタッフの中では比較的おばちゃんなので、何となくご意見番風な立場になっているだけなのだ。
 
「あのさ、正直、仕事続けなよとも辞めなよとも言う気がないんだよね」
(あー、いきなり本音を言ってしまった)
 
こうなったら、もう言いたい放題だ。
 
「これがもっと若い人だったら、もう少し頑張ってみたら? とか無責任に言ってたかもしれないけど、貴女はもう立派な大人なんだからさ、その人の人生にもっとこうしたら? とかアドバイスなんかできないよ」
「ただ、今日これだけは聞こうと思ってたんだけどさ、何がしたくてこの職場で働いてるの? 貴女にとって一番大切なことって何?」
「お金を稼ぐためなら多少精神的に苦しくなっても頑張るっていうのが一番の目的? もしそうじゃないなら、ただ頑張るって思ってもこれまでと同じことを繰り返す可能性がかなりあると思うんだよね」
「これまでだって、何回も上司と揉めてその度にネガティブな感じになって、その時間って本当はいらないんじゃないかな? って、見てて思うんだよね」」
「今一番大事なのは、貴女はどうしたら自分の人生を楽しく生きられるかってことなんじゃない? 頑張る必要があるのはそこだけだよ」
 
お説教と質問と、これまであまり伝えてこなかった文句をめちゃくちゃに織り交ぜて、言葉が止まらなくなった。
 
(でも、少なくとも正直な気持ちで話してる。これで伝わらなかったら、そこまでだ)
 
「人のこととか、店のことなんかいいから、とにかく自分が楽しくなるにはどうしたらいいのか、自分が満足出来るのはなんなのか、そこだけしっかり考えてクリアにしてほしい」
「今一生懸命にならなくちゃいけないのは自分を幸せにすることだけだよ?」
「自分のこと大切にできるのは自分だけなんだからね?」
 
話しているうちに、次第に彼女がすっきりしたような声になり始めた。
 
「そうか、そうだね。わたし頑張らないとって思い込みすぎてて余裕がなくなってたかもしれない」
 
彼女との電話は40分ほどで終わった。
結果、もうしばらくは今のお店で頑張ってみるという。
その後、彼女はとても良い雰囲気で仕事をしてくれている。
 
電話の後、彼女との会話を思い出しながら、自分でもそういえば完全に間違った解釈をしていたことがあったことを思い出す。
以前、他のレストランの入社1日目の座学研修でこんな質問を出された。
 
「勤務をしている時に地震や火災などの災害があったとします。あなたが一番最初にすることは何ですか?」
「え……お客様を安全に非難誘導することですか?」
「違います。まず自分自身の身の安全を図ることです。お客様のことを第一に考える姿勢は大切ですが、その前にあなたが無事でいてください」
(……ホンマや)
 
大手チェーン店のマニュアル講習とはいえ、とても良い事を仰るなと感心してしまった。
 
「どんな時も一番大事なのは自分自身だ。
一番大切なのは自分だってことを決して忘れるな」
 
冒頭のセリフを言う主人公は容姿、頭脳、仕事に於ける才能、実家は財閥で自身もお金には困っていない、ナルシストで傲慢不遜なキャラだが、
この言葉は立場に関係なく、誰にでも当てはまる普遍的な言葉だと思う。
 
実はこのセリフには、その前にこういう文言が入っている。
 
「人は犠牲をいとわない人生に価値があるというが実際は違う、
ただ損をして自分を失うことなんだ」
 
日本でも、この価値観は昔からとても美しいものとして捉えられ、私もこの考え方に共感し、自己犠牲を払ってでも人の為に尽くしたいと心底思っていた時期もあった。
 
でも、自分を損なう事は本当に美しい事なのか?
自分を大事にしてこそ、より多くの人のために尽くせるというのが実際なのではないか? というシンプルな事を意外に見落としている事も多いのではないだろうか。
 
自分の利益だけに固執して生きろという意味では決してない。
ただ、人生を美しく誇り高く、そして単純に楽しいものにしてくれるのは、こんな心がけひとつなのだ。
 
何かに悩んでいる時、苦しい気持ちが湧き上がった時、
繰り返し、心に刻みたい。
 
「どんな時も一番大事なのは自分自身だ。
一番大切なのは自分だってことを決して忘れるな」
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-10-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事