海でようやく呼吸する
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:堀千晃(ライティング・ゼミ特講)
つい先日劇場で観た映画のワンシーン、命尽きる間近の登場人物が海へと向かうのが印象的だった。
そういえば、映画でもドラマでも海というのはなにか特別なものとして登場する。
人生の終幕、恋愛、出会いや別れ、日常の背景、あるいは重要な場面のための装置として。
創作物に描かれる海は、たいがい穏やかに晴れた日であることが多く、それは人びとの海への大らかな印象や淡い憧れの投影としても読み取れる。
私たちは本質的に海というものに対して、好意的でありたいのかもしれない。
私は海のそばに暮らしていて、日常と海はひとつなぎだ。
朝、目が覚めて天気がよいと犬を連れて、水平線を横目に歩くことが日課だ。
潮のにおい、波の音、風の声、柔らかな砂浜、向こう岸の島や山山の霞んだ曲線。
海に浮かぶ船は一体どこから来て、どこへ行くのだろうか。そんな、明日は忘れてしまうような些末なことを考える。
それら風景のすべては見慣れたものでありながら、心地よい空気感がいつでも胸に響く。
太陽の光に輝く水面を見ると、たびたび美しいと思う。
海に集う人の姿に、小さな平和を見出す。
予想もしなかった困難によって、日常が一変した今年。
街に出歩くことにも恐怖が付きまとい、多くのことが制限の対象となった。
気を付けなければならないことが沢山できた。
報道では次々にネガティブな情報が大量に更新され、不安は増していく。
人が密集する場所では呼吸することさえ、不安に繋がることもあった。
現状に怒りさえ、覚えることもあったかもしれない。
そして、今日もその困難は続いている。
先の見えない現状も変わっていない。
それでも安らげる時間が人間には必要だ。
受け止めてくれる場所が必要だ。
呼吸をしなければ人は生きてはいけない。
深く呼吸をして、心を落ち着けなければならない。
人間がストレスを受けたとき、最初に影響を受けるもののひとつに呼吸がある。人間の基本であるだけに、とても乱れやすいのだ。
浅く不規則な呼吸は血中の酸素濃度を下げ、脳へも影響する。
交感神経が優位になり、そのままにしておくと心や体への支障も出てくる。
かといってストレスを受けながらも、影響の受けない屈強な心身を突然に手に入れることはできないだろう。
不安や疲れ、怒りさまざまな感情とストレスを抱えつつも、それらが途切れて心が穏やかになる瞬間が必要だ。
この短い文章を読んでいるあなたへ。
ひとつの提案をしたい。
次の休日は何の予定も持たず、海へ行っていってみてはどうだろうか。
そして、海へ行ったらぜひやってみて欲しいことがある。
先ず、海全体を見渡して頭のなかに海のイメージを描き写す。
しばらく辺りを歩いてから、丘の斜面や草原の体にフィットしそうな場所を見つける。
そして、仰向けに横たわる。
このとき、時計は見ないように、時間は気にしないようにする。
次に、波の音を聞きながら、流れる雲の速さを目で追う。
最初のうちはいろいろなことが頭に浮かぶ。やらなければいけないことや、したくないこと。後回しにしていること。でもそれも次第に滲んでいく。
そうして状況に慣れてきて、ゆったりした気分になると、自然と正しいリズムを保った呼吸ができる。
次第に、地面から全身に陽のあたたかさが伝わってくる。体の奥、芯から指先まであたたまってとても心地よい。
気が付くと意識が鋭敏になり、潮の香や風の向きの些細な違いも気づくようになる。
その意識の先、さらに長い時間そのまま横たわっていると、心のなかに余白のようなものができる。
それは、眠っても目覚めてもいない、曖昧で柔らかな意識だ。
やがてとても深い呼吸ができる。
吸い込んだ空気は体を膨らまし、心地よいまま満たされた肺から滑らかに吐き出され、次の呼吸へとゆるやかに繋がっていく。
私は今、呼吸をしている、というのが腑に落ちるような感覚になる。
それはただの一息ではなく、生きるための息継ぎのようなものだ。
湧き上がる不安を抑えるのは難しい。日々に疲れても、明日の予定を取りやめるのもできないかもしれない。
毎日は無理だったとしても、時々は深い呼吸をする時間は大切だ。
それは、あなた自身の深い呼吸と癒しとなるにちがいない。
どうしようもない日々を受け止めてくれるのは海なのだ。
快晴の下、凪いだ海で私たちは息継ぎをしよう。
どんな心もきっと受け止めてくれる。
先の見えない日々もいつかは必ず終わる。
この困難を振り返る日が来るまで、ときどき海で深く呼吸をして、また明日へと向かって歩き出そう。
***
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