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「十人十色」を貫けるか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:しお(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
※記事内の人名は仮名です。
 
 
中学校の3年間同じクラスだったユウは、学ランを着て登校する女子だった。ひょうきんで、独創的なセンスがあるユウの話は面白かった。
ユウは学校に来るときと来ないときがあったけれど、来ればいつも楽しそうだった。私も、ユウがいる輪に加わって一緒に笑ったりした。
 
私とユウは、目が合えば声をかけるくらいの関係だった。
3年の時のクラスで、ユウがいつもつるんでいたのはトモヤとコウタだった。私は私で、ヒナノとマイと3人でいることが多かった。
そういうちょっとしたグループ、いわゆる「いつメン」はあったものの、私たちのクラスはとても仲が良かった。超内向的な私が誰とでもそれなりに話せて馴染めるクラスは、珍しかった。
 
修学旅行の計画を立て始める頃、ユウは久しぶりに学校に来た。
当日一緒に行動する班を、好きな者同士で組めることになった。男女ごとに2人組を作ったあと、男子2人と女子2人を組み合わせる。ただ、女子は奇数なので、1つだけ女子3人・男子2人のグループができることになる。
 
教室の後ろに集まった女子たち。とりあえず組んでみようということで、自然と「いつメン」ごとに分かれていった。
ところが、3人組が2つできてしまった。うち1つは、私とヒナノとマイのグループ。そして、真ん中で1人見回すユウ。ユウのすごいところは、ここでうろたえず「誰か組んでくれー」と手を振れるところ。
 
「じゃあ、私と組もう」
ずっと同じクラスだったし。嫌いじゃないし。
 
真面目な優等生だと思われていることを自覚しはじめた頃から、私はこういうシーンで名乗り出ることをためらわなくなっていた。人気がない委員会や合唱のパートに手を挙げて、先生に「ありがとう」と言われるときだけ、ちょっと輝ける気がしていた。嫌われてしまった子の、唯一の話相手になることも多かった。もっとも、自分自身、どちらかと言えば余り物になってしまいそうな立ち位置にずっといたのだ。
 
かくして、修学旅行は、私・ユウ・トモヤ・コウタで班を組むことになった。
 
班決めの帰り道、思いがけず黒い感情に戸惑った。
今までのイベントごとは、くじ引きか余り物同士で組んできた。初めて仲良し同士で過ごせる課外活動、ヒナノやマイと一緒に行く修学旅行を、私は自分で思っていた以上に楽しみにしていたみたいだ。
そして、今日久しぶりに来たユウはそれを実現した。というか、実現できなかったのはクラスで私だけだ。
 
家のソファで思わず泣いたところを、タイミング悪く帰宅した母に見つかった。
「自分で組もうって言ったんだからしょうがないね」
わけを聞いた母は言った。わかってる。正論だ。
 
さらに運が悪いことに、ヒナノは班決めでの一件を家で話していたらしい。うちの母とヒナノの母は知り合いだ。
「ユウと組むことになった私が家で泣いた」という事実は、あっという間に広がった。
自分だけで持っておこうと思った黒い感情に、[かわいそう]という名前が付いてしまった。かわいそう。そうか、私かわいそうなんだ。
 
修学旅行先にて。ホテルの3人部屋で、壁を向いて寝たふりをしながら、ユウとマイの会話を聞いていた。
ふいに、ユウが言った。
「シオっていつもなんかつまんなそうにしてるけど、たまに楽しそうな瞬間があることを発見した」
 
ぎくっとした。「つまんなそう」にしてたのは、旅行前研修の期間だ。班で活動するとき、盛り上がるユウとトモヤとコウタを前に、複雑な気持ちを隠せなかった。
でも、いざ修学旅行が始まったら「楽し」かったのも本当だ。非日常の力もあるが、班のみんなは地味なだけで、内面は面白い人たちだった。それに、3人だけで壁を作ることはしなかった。そんなの最初からわかっていたはずだったのだけど。
ユウとだって、行きの新幹線でオセロをして盛り上がったりした。お土産を一緒に選んで、好みが似てると思った。
 
その間、あっけらかんと振る舞うユウは、[かわいそう]に振り回されて揺れ動く私の気持ちと態度を、ちゃんと感じ取っていた。
でも、「楽しそうな瞬間」に気付いてくれたなら、良かったのかな。
そう思った私はまだのんきだった。事はすでに、ユウと私だけの問題ではなくなっていた。
 
修学旅行後の体育の授業。集団行動の声かけをする、ちょっとしたリーダーを話し合って決めることになった。しばらくの沈黙の後、ユウが立候補した。
「誰もやらないなら……」
……
誰も何も言わない。ユウを見るみんなの目は、冷たかった。このクラスでこんなこと、今まで一度もなかった。
結局、別の子が、リーダーをやった。
 
体育館を出て歩いているとき、ヒナノが言った。
「みんなと同じ制服着てくれるだけでもいいのに」
 
ユウに対するみんなの態度は、変わってしまった。そう、修学旅行以来。
流されるままに被害者の顔をし、ヒナノの言葉に何も答えられなかった私は、卒業文集の「優しい人ランキング」で、1位にランクインした。
 
私は正しいと思うことをした。その結果、「いつメン」と組めなかった。我慢したのは事実だ。でも、間違えた。
クラスメイトのみんなも、根は優しい人たちだ。かわいそうと言ったのも、最初は「もっといいやり方はなかったのか」という、ごく素直な感情だったはずだ。でも、間違えた。
みんな、ちょっとずつ間違えて、歯車は狂ってしまった。そしてユウは傷ついた。
 
今、あの頃よりはっきりものを言うようになった私が、もしタイムスリップできたら。
 
ワイシャツ3人にセーラー服1人の私たちをみて、「女子1人かわいそ」と言ってきた他クラスの人を、睨んでやっただろうか。
 
体育館の沈黙を破って、「ユウ、ありがとう」と言えただろうか。
 
「みんなと同じ制服を着るだけ」が、ユウにとってとてつもない苦行なんじゃないかと言い返せただろうか。
 
そして、「私はあのメンバーで修学旅行に行けてとっても楽しかった」「だから、もう気にしないで」とみんなに、何より本人に、言ってあげられただろうか。
 
色んなニュースに触れて義憤に駆られるたびに、そう自分に問いかける。
同調圧力は、悪魔の顔をしていない。天使のフリをしながら、少しずつ、みんなの「エゴ」や「正義感」を餌にして、心に忍び込むのだ。
 
もし、たった一人でも、偽物の天使に立ち向かえたなら。その一人でありたいというのが、弱い弱い私の、ひそかな願いだ。
本当は、あの時だってそうしたかったのに。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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