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愛から生まれる秘密


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記事:かなたあきこ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「彼氏に過去の整形を告白すべきか?」
と銘打った一文が、あるお悩み投稿サイトに掲載されていた。私自身は整形したことはないし、芸能人の●●に整形疑惑が! というゴシップ記事をネットニュースで見かけても、さほど関心はない方だ。
こんな私が、この日に限って冒頭のお悩みに惹きつけられたのは、まったく同じシチュエーションの相談を友人から持ちかけられている真っ最中だったからである。
 
友人(A子)は彼氏との結婚を間近に控え、独身のうちに女同士で盛り上がろうと企画した飲みの席で、「今更だけど、整形してることを隠したまま結婚に踏み切っていいものか」といきなりぶっちゃけてきた。A子とは大学からの友人で、20歳になった記念に奥二重をくっきり二重にするプチ整形をしたことは、すでに知っていた。
というか、どの美容整形外科が腕がいいとか、値段が良心的とか、一緒になって口コミをチェックしてアドバイスまでしていたくらいなので、むしろ当事者と言っていいくらいだろう。だからこそ彼女も私だけに打ち明けてきたのだろうし、悩みが深いことは口調からも伺い知ることができた。
 
「結婚して子供ができて、もし赤ちゃんが二重じゃなかったら、絶対変に思われると思うんだよね。彼もキレイな二重だし。父親が違う? とか疑われても嫌だから、はっきりさせておいた方がいいんじゃないかって。」
真剣な顔でそんなふうに告げるA子を目の当たりにすると、「そんなのバレるわけないよ~!」と軽く流すことはできなかった。一生を共に過ごす相手に、ずっと嘘を付き続けなくてはならない苦しさも容易に想像でき、結婚という神聖な儀式の前にすべてをクリアな状態にしておきたい、という気持ちもわかる。
そこで私が彼女に送ったアドバイスは「彼がA子のことを本当に愛してるなら、整形を告白しても嫌いになったり、破談になったりするようなことはないと思う。もしそうなったとしたら、そもそも結婚しても上手くいかなかった相手だったのでは」というものだった。
 
彼女は嬉しそうに目を輝かせ、「だよね、やっぱり言ったほうがいいよね? 嘘ついて結婚するほうがむしろ悪いことだよね?」と乗り気になり、その場で彼氏に電話するくらいの意気込みだった。大事なことだから面と向かって言った方がいいだろうと、さすがにそれは止めたが、“正直こそが善なり”という考えにすっかりテンションが上がりスッキリした感じのA子を見て、ちょっとした違和感を覚えた。
その違和感は最後まで解消されることはなく、帰りの電車の中で何気なく眺めていたスマホのサイトで、冒頭のお悩み相談を見つけたのだった。
 
そこに書かれていたカウンセラーからのアドバイスに、私は衝撃を受けた。まるで私の考えとは違った、真逆の回答だったからだ。
「整形の告白は自分の肩の荷を下ろす行為でしかなく、相手のことを考えていない。自分が楽になりたいだけの告白は、相手を苦しめるだけ」
ズバリ、私の違和感の正体は、これだったのだ。思い返せばA子の舞い上がりようは、まるで“贖罪を終えた罪びと”のようだった。キリスト教では懺悔という行為を積極的に認めているが、罪を告白する相手は神であり、生身の人間ではない。一方的な告白は、“された側”を苦しめることにもつながるのだ。
 
整形を告白しても、整形したという過去は変えられない。彼がどうしても受け入れることができなく、もし別れることになったとしたら、A子の彼は自分の心の狭さにしばらく悩むことにもなるのではないか。そしてA子も、あんなこと言わなければよかったと後悔するかもしれない。言ってスッキリするのは一時のことで、誰も幸せにならない告白であれば、最初からしない方がマシである。ましてや整形の告白を“真実の愛の証”と引き換えにするなんて、とんでもない……!
 
カウンセラーのアドバイスには続きがあり、「①ありのままの自分を受け入れてくれなければ、別れる覚悟を持って告白する」、あるいは「②ありのままの自分を受け入れてもらうことを諦め、秘密は墓場まで持っていく」の二通りの選択肢を示していた。まさに①は相手より自分を愛している場合で、②は自分より相手を大切に思っている場合の結論だ。A子はいずれの覚悟もなく、ただ自分の過去をさらけ出して楽になりたかっただけなのだ。そこに、私は違和感を覚えたのだ。
 
深夜にも関わらず、私はあわててA子に電話をかけた。今この瞬間にも、彼氏に整形を告白してしまうかもしれないと、ドキドキしながら呼出音を聞き続けた。結論からいうと、A子は整形を告白することを回避して、来週入籍を済ませることになっている。悩みに悩んだ末に、秘密を墓場まで持っていくことを選んだのだ。
「パパ似でくっきり二重の赤ちゃんが生まれるかもしれないし、そもそも子供ができるかもわかんないしね~」とあっけらかんと言っていた、A子の逞しさが救いだった。
この結論が正しいかは私には分からないが、あの時何も考えずにあっさり告白しなかっただけでも、意味があったと思う。私も彼女の秘密を守り抜くため、今一度覚悟を決めてから、「結婚おめでとう」のメッセージを送るとしよう。愛から生まれる秘密だって、きっとあるはずなのだから。
 
 
 
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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