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「ビジネス音痴」の一言に救われ、真のビジネス音痴へ


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記事:能勢 拓人(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お前はビジネス音痴やな」
25歳で転職。希望に満ちたはずの新たな職場は、こんな社長の一言から始まった。
 
転職活動を始めたころ、職業紹介会社の担当は親身になって相談に乗ってくれた。営業は向かないと伝えていたが、じゃあ何がやりたい? と聞かれても答えられなかった。若いうちに営業でたくさん経験を積んでおいた方が良いとアドバイスをもらい、その気になって、とあるベンチャー企業から営業として内定をもらった。
 
「お前はビジネス音痴やな。生まれつき歌が下手な人がいるように、スポーツが下手な人がいるように、お前にはビジネスの才能ないな」と、入社後一週間の研修で「ビジネス音痴」の烙印を、しかも社長に押されるとは思ってもみなかった。変なプライドもあったのだろう、その場で何故そう判断されたのかは聞けなかったし、今もその機会を逃したままだ。
 
学生時代を振り返っても、評定平均4は叩き出していたし、スポーツや音楽も○○音痴と言われない程にはこなしていた。でも確かに、何をしても中途半端だった。数学や国語は好きだったが、計算が早いわけでも、漢字の読み書きが得意なわけでもない。スポーツや音楽も同様に、こなしているにすぎなかった。
 
研修の帰り道、悔しさの混じった笑いがこみ上げる。
うまいこと言うよね。
 
いや、でも冷静に考えるとすごくないか? 1週間の研修中、社長に会ったのはたったの3回。その最終日にこの一言。妙な負けず嫌いも一役買った。あの社長の下で働いてみたい。
おそるべし、ビジネス音痴だ(決してドMではない)。
 
言うまでもないが、その後も相当苦労した。良くも悪くも面倒見の良い先輩方は1つのミスも見逃してはくれない。
それでも辞めずに続けられたのは「ビジネス音痴」の一言だった。言葉通りに放たれた一言に違いなかったが、皮肉なことに、ビジネス音痴はそうは捉えなかった。
 
ビジネス音痴だし仕方がない。マイペースに頑張ろう。
この一言は退職までの4年半、いや、今でも折に触れ思い出し、支えてくれる。
 
仕事に慣れ始めると、お客さんと対面するチャンスも増えた。成績も悪くもなかったが、数字を追いかけるのが苦手で、安定しなかった。
数字を追いかけるのが苦手なのもビジネス音痴と言われる要素ではある。しかし、それ以外にも理由はありそうだ。自然と同僚と比較していた。異動の多い職場(4年半で6拠点を経験)で、軽く疲弊はしていたが、自分と同僚を比較する点では好都合だった。
 
ビジネスマンは『鬼滅の刃』で言えば、すでに「呼吸」(流派)を体得している。たとえ修業中でも、どの「呼吸」を目指すか覚悟は決めている。
商談に合わせ、(攻撃を)「壱ノ型」「弐ノ型」と繰り出し、見事に商談をまとめる。
 
ビジネス音痴は一味違う。優柔不断で「呼吸」を1つに絞れない。
「水の呼吸 壱ノ型・弐ノ型は繰り出せそう。参ノ型は難しそうだから後回し。
それより、蟲の呼吸キレイだよねー! 蝶の舞でもやってみるかー。
でもやっぱ、炎の呼吸がかっこいい! いきなり伍ノ型に挑戦!」
 
「呼吸」が定まらないだけに、全てが「型もどき」だし、「柱」(各呼吸の最高位の剣士)にはなれない。
ビジネス音痴はこの覚悟のなさから放たれた一言のように思われる。
覚悟のなさは、自分の首をも絞めつける。お客さんに会うまで「呼吸」が定まらないから、商談前は頭の中の映写機がいつも超高速フル回転。見えないお客さんとの商談のイメージ(妄想)を脳内に映し出し、数パターンのセールストークを用意する。自分が使える「型」単体では負けることを想定し、組み合わせで抜け道を探す。
お客さんに会うまでに自信を持ったことなんて、一度もなかった。
 
唯一ビジネス音痴のいいところは、型にはまり過ぎないことだろうか。全く予想をしていないところで数字が跳ね上がる。1日で1週間の目標を優に超えることもあった。
同僚に、どんな商談をしたの? と聞かれても「気づけば商談まとまっていて……」と全く参考にもならなかったし、何が功を奏したのか自分でも全く分かっていない。
破天荒に上がり下がりする数字に、周りは呆れていたことだろう。
 
社長に「ビジネス音痴」の烙印を押されたことはその場にいた人しか知らない。その場にいた人も、そしてその言葉を放った社長も、おそらくすっかり忘れているだろう。
 
それでもこの一言はピンチに直面する度、少しの開き直りと共にぼくを救ってくれた。
そして、職場も変わり、社長にあの一言を放たれてから10年経った今では、少し違う見え方がしている。
 
ビジネス音痴だからこそ、できることはないか?
人とは違う目線で物事を考えられるのではないだろうか?
 
大抵のことはこう考えると視界が開ける。
社長がぼくに与えてくれた唯一の言葉で、真のビジネス音痴に近づきつつある。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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