苦手の多い私が段取り上手になるまで
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記事:綾崎(ライティング・ゼミ平日コース)
集中力がなく疲れやすい、忘れっぽい、心配性、コミュニケーションが苦手……。これらを煮詰めたものに、想像力を足すと「段取り上手」が出来上がる。私のことだ。
私が言う「段取り」は、一般的にイメージされるものとはと少し違うかもしれない。物事を進めるための順序を決めておくことだけでなく、締切日までの細かい作業計画のことも指している。これをきっちりとしておけば、メインの作業進行は劇的にスムーズになる。仕事上だけでなく、料理や洗濯物を干すといった日常生活でも段取りの出番は多い。とても汎用性が高く、苦手だらけの私が人並みに生活するための必須スキルといってもいいかもしれない。
そう、「段取り」は料理や車の運転と同じく一種のスキル=技術だ。
私が段取りの重要性を感じたきっかけは、短大時代の試験勉強だった。
短大に入学した私を待ち受けていたのは、多忙な毎日だった。タイトな授業スケジュールに毎週やってくるレポートの締め切り、そして週4回のアルバイト。そこへ試験勉強が加わると、息も絶え絶えになった。初めての定期試験が終わった後、二度とこんな目にはあいたくないと強く思った。
クラスメイトのキラキラ女子大生たちの余裕ぶりを不思議に思ったが、彼女たちはそれぞれのグループで協力し、こなしているようだった。クラスにはいくつかの仲良しグループが出来上がっていたが、コミュニケーションが不得意な私は大人数のグループには入らず、もっぱら友人Yと過ごしていた。この友人Y、明るくて楽しい女性なのだが、勉学関係に関しては協力を見込めそうにない人物だった。レポートは毎回私が頼られる側だったし、試験は一夜漬け。結局いくつも追試を受ける羽目になっていた。
追試は1科目につき3,000円程度かかったように記憶している。追試のためにまとまった金額を支払うYを横目で見ながら、貧乏学生だった私は決意を固めた。
この多忙な短大生活、一人で生き抜くしかない。
次の定期試験の範囲と日程が発表されると、私は早速計画を立て始めた。
試験日から逆算して予定を考え、手帳に書き込んでいく。予定通りにいかない日もあったが、こまめにスケジュールを微調整すれば問題なかった。予定を立てるのは少し大変だったが、おかげで2回目の試験勉強は格段に楽になった。3回目は、前回の反省点を踏まえつつ、また予定を立てて試験に臨んだ。そうして何回か繰り返すうちに、コツがわかってきた。
私が掴んだコツは大きく3つ。逆算、想像、分解だ。
段取りの基本となるのが「逆算」。目的達成のために必要なこと・ものを全て洗い出し、かかる時間を考えて、締切日から逆算して計画を立てていく。ここでヌケ、モレが無いように洗い出し、書き出すことが大切だ。
洗い出しの時に必要になるのが「想像」。今までの経験と照らし合わせ、想像力を駆使して問題を先回りして潰しておく。丁寧にシミュレーションし、問題となりそうなことの対策を考える。私は心配性なので、問題点がポンポンと出てきた。
1日に3時間勉強すると言う目標を立てた場合、3時間ずっとは集中力が続かないであろうことが容易に予想できたので、一工夫加える。3時間を45分ずつに区切って、4科目勉強をするような予定にした。
「予定を立てたのに動きづらい……」そんな時は、予定を見直して「分解」をする。
勉強する科目名だけを予定にしていると取り掛かるのが億劫だったが、参考書の何ページから何ページまでをする、というように、自分以外が見ても何をするのか明白な状態にまですると行動に移しやすくなった。考える余地があるとすぐに動けなかったが、予定を細かく分解し、行動をより具体的にすることで取り掛かりやすくなるのだ。
それでも取りかかる気力がわかないとときは、潔く仮眠をとった。こういう時は単純に疲れていることが多く、休憩を挟むと頭がすっきりとして、また勉強に集中することができた。
最後の定期試験が終わり、細長い試験結果表に合格マークが並んだ。私はついに、追試代を支払わなかった。短大生活を一人で生き抜いたのだ。
コミュニケーション能力の代わりに「段取り」という技術を獲得し、私は短大を卒業した。
社会人になっても段取りの技術は存分に役立った。複数の仕事を同時にこなす時や、上司との出張など、日々のスケジュール管理に大いに活躍した。
そうしていると、自分の仕事以外の段取りをすることも増えていった。企画の進行計画をはじめ、部署内での情報共有の仕組みづくりなど、仕事がスムーズに回るような土台づくりにも関わった。無駄な仕事が減り、余裕を持って作業に取り組むことができるようになった。明らかに仕事がやりやすくなっていった。
相変わらず私は、コミュニケーションが苦手で、集中力もイマイチ、心配性が過ぎて職場でちょっと鬱陶しがられたりする。でも、この段取り技術のおかげで重宝がられているようだった。
ある日上司が、取引相手に私のことをこう紹介してくれた。
「彼女は、うちの部署で一番の段取り上手です」
短大時代の自分を褒めてやりたい。自分の「苦手」を克服すべき対象ではなく、特徴として受け入れ、対策をとり続けた自分を褒めてやりたい。
一人で生きていくために身につけた技術は今や、人の役に立つような技術となっていた。
あなたの「苦手」も、素晴らしい技術につながるかもしれない。
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