私がペットショップで猫を買わない理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山岡香夏(ライティング・ゼミ平日コース)
会社の同僚のKさんは、今日も隣の席から猫の話をしてくる。Kさんは一人住まいのマンションで、何と猫を5匹も飼っている。動物の愛護団体から猫を譲り受けたり、預かったりしているうちに、こんなに増えてしまったのだそうだ。預かったまま数年が経過した猫もいる。
「他の家にお試しで行ってもね、なつかないから戻って来ちゃうの、あの子はたぶんずっとうちにいるよ」とKさんはあきらめたように、でも嬉しそうに話してくれた。
仕事の合間に毎日猫の話を聞かされているうちに、私も猫の一時預かりボランティアをしてみたいと思うようになった。一生飼うのは責任が重いけれど、一定期間預かるだけならいいか、と思ったのだ。ちょうどペットが飼える家に引っ越したタイミングでもあったので、インターネットで感じの良さそうな動物愛護団体を探して申し込んでみた。
数日後、団体からメールが来た。
「多頭飼育崩壊のペルシャがたくさんいます、2匹預かれませんか」
いきなり2匹か、でも団体も困っているんだろうな。夫と相談した上でOKの返事をすると、すぐに団体のボランティアの男性が2匹の猫を連れてやってきた。
茶色と白の毛むくじゃらの猫たち。心なしかちょっとくさい。
うちの猫ではないが、名前がないのも不便なので、仮に茶色の猫をちゃーちゃん、白い猫をしーちゃんと名付けた。
ちゃーちゃんは食い意地のはった賢い猫だった。狭い家の中でかくれんぼをしては、人間たちを慌てさせた。
しーちゃんは優しくて賢い猫だった。ちゃーちゃんにご飯を取られても文句も言わず、いつもじーっと座っているおじいちゃんのような。イメージはスター・ウォーズのヨーダ。
どちらも名前を呼んだり、机をトントンとたたいたりすると「何でしょうかご主人さま!」とでも言いそうな様子で、すぐにこちらに走り寄ってくるおりこうさんだった。
いかにもペルシャ、というペチャっとつぶれた顔が特徴的なためか、なかなかもらい手が見つからなかったが、そのうち団体を通じて素敵な里親さんが見つかり、うちから去っていった。ちゃーちゃんとしーちゃんの里親さんが決まって嬉しい反面、いなくなるのは寂しかった。実家で犬を飼っていた夫は「死ぬのを見なくていいからいいよ」と悲しそうに言った。
それからしばらくして、ママ友のSちゃんから急に連絡があった。
「うちのガレージに猫の親子が住み着いて困ってるの、どうしたらいい?」
様子を見に行くと、母猫と子猫たち、計3匹の猫がガレージで遊んでいた。Sちゃんが付けた名前はそれぞれ「ハハ」「ビビ」「ドン」
ビビはビビリだからビビ、ドンはドーンとして動じないからドン。ハハは美しい白黒の猫だが、娘たちはどちらもかわいらしい三毛猫だった。
野良猫を捕獲したことがなかったので、地元の動物愛護団体に連絡してみたが、なかなか電話が通じなかった。ちゃーちゃんとしーちゃんがいた団体に問い合わせたが、野良猫は引き取っていないとのこと。
もうすぐ冬が来て寒くなる。過酷な環境で暮らす野良猫の寿命は、飼い猫よりずっと短い。仕方がないので、自分たちで捕獲して、いったんうちで預かることにした。
ドンはすぐに捕まった。ビビは怖がってなかなか捕まらない。子猫を外で一匹だけにするわけには行かないので、まずはドンだけ連れて帰った。さすが動じないドン、すぐに慣れて、我が物顔でのんびりと過ごすようになった。
二週間ほど経ち、やっとハハとビビが捕まってうちにやって来た。何と、ドンは自分の家族のことを忘れていた。ハハとビビに対して「シャー!」と威嚇する。ハハは不思議そうな顔をしていたが、そのうち、ハハもドンに対して威嚇するようになった。
狭い家の中で、仲の悪い猫たちと暮らすのは人間も気を使う。どうしようかと悩んでいた数日後、ドンがハハのおっぱいを飲んでいるのを発見! やっとハハのことを思い出したようだ。ドンはビビにもちょっかいを出して遊ぶようになった。気の弱いビビは迷惑そうにしていたが、人間たちはほっと胸をなでおろした。
近くに、保護犬や保護猫の譲渡会を開催している動物病院がある。ハハビビドンの予防接種が終わった年明け、譲渡会にハハとドンを連れて行くと、すぐにそれぞれ素敵な里親さんが決まった。しかしビビだけはうちに残ったままだった。怖がりで抱っこが難しく、予防接種の時も夫が引っかかれてひどい目にあったからだ。
「この子はまだ譲渡会に連れていけないね」と話し合い、しばらくうちにいることになった。
ビビの教育係の夫が、ホームセンターで猫のおもちゃを買ってきた。丸くてフワフワしたボールがついている釣り竿のような作りで、それを振ると猫がジャンプして遊ぶおもちゃだ。ビビはこれがすっかり気に入って、おもちゃをくわえてきては夫に渡すようになった。そのうち、遊んでくれる夫を保護者として認識したのか、椅子に座っている夫のひざに自らジャンプして乗るようになった。
ビビと私はしばらく折り合いが良くなかったが、コロナ渦で在宅勤務が増えて、家にいる時間が長くなったことで、だいぶ距離が縮まってきた。今ではマッサージ係として認識されたようで、日々のブラッシングを担当させていただいている。ありがたいことだ。
ここまで人に慣れれば譲渡会に連れていけそうだが、かわいいビビにはどこにも行ってほしくないので、うちで飼うことにした。これもご縁だ。
私は仕事に出かけるとき、ビビに「ご飯代稼いでくるからね」と声をかける。故・伊丹十三監督が、子どもたちに「とうちゃん、味噌醤油代稼いできます」と声をかけていたというエピソードを知って、その真似をしている。自分や家族のためだけではなく、ビビのために働いていることで、ますます仕事をがんばろうと思えるからだ。
一時期より減ったものの、公的な施設(動物愛護相談センター等)にいらなくなった動物を持ち込む個人や業者はいて、いまだに殺処分は行われている。野良猫がいることもあり、特に猫が多いそうだ。
動物を飼ったら一生面倒をみるのは大切なことだが、飼い主が亡くなったり病気等で飼えなくなる可能性はゼロではない。そういった時に、他の誰かが動物を譲り受けて世話する仕組み作りが必要だと思う。
私はペットショップで動物を買うことを批判したいわけではない。どちらも同じ命だ。
私自身が、猫を預かろうと思ったのをきっかけに、動物愛護について学んでいくうちに、公的な施設や動物愛護団体から譲り受けることで助かる命があると知り、ペットショップで動物を買わないと決めたのだ。
ペットは人間に大切なことを教えてくれるし、生きる力を与えてくれる。私にできることはほんのわずかだが、この日本で一生を幸せに暮らせる動物が一匹でも増えるよう願っている。
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