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「エビに負けた九份」


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記事:晒谷 昌克(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
皆さんは九份をご存じだろうか?
宮崎駿のファンや「千と千尋の神隠し」を見た人であれば必ず知っているはずである。
九份は台湾にある風情のある古い街だ。初めて台湾に観光旅行に行った人であれば99%が訪れていると言っても過言ではない。九份を目的に台湾旅行をする人も多いはずである。
それほどメジャーで人気のある観光スポットである。インスタで検索すると70万件もヒットする。
 
-その九份が私の中ではエビに負けている。-
 
一昨年の社員旅行は台湾だった。
初めての台湾旅行の中で私の一番の思い出は何かと問われるとエビなのである。
 
九份は期待外れだったのか? というと全くそうではない。期待以上だった。
私は「千と千尋の神隠し」を観ていない。実は私は宮崎駿があまり好きではない、だからもちろん宮崎映画も劇場で鑑賞したことはなく、TV放映でも全編通して観たことはない。
そんな私でも九份が「千と千尋の神隠し」のモデルの街だと言うことは知っているし、訪れることにワクワクした。
そして九份はそんな期待値に応えてくれる素晴らしいところだった。散策する楽しみ、食べる楽しみ、買い物する楽しみ、写真を撮る楽しみ、全て兼ね備えている。私も滞在した約半日、時間を持てあますことなく夢中で写真を撮ったことを覚えている。
 
九份は三泊四日の台湾旅行のメインであり、二日目に訪れた。
もはや台湾を堪能しつくしたような気分になり、あとは細かい名所めぐりと土産物の購入だけだと考えていた三日目朝、スケジュールの中で唯一、憂鬱なイベントを迎えた。
 
エビ釣りである。
 
私は釣りが嫌いだ。食わず嫌いではなく、小学校の頃から幾度となく友達に誘われ経験したが、まったく興味を持てなかった。エサをつけるので指が臭くなる、準備が面倒、時間を持て余す等、強いマイナスイメージをもっていた。だから、なぜ台湾まで来て釣りをしなければいけないのか全く理解できなかった。
 
エビ釣り場は屋内にある釣り堀というイメージで、7,8メートル角の四角い生け簀のような堀が二つあり、水は濁っていて底は見えなかった。
先に来ていた客はすべて台湾人で日本人は私たちのグループだけだった。
最初に係の人から釣竿を渡され、エサのつけ方や釣り方を簡単にレクチャーしてくれた。エサは豚レバーと乾燥した小エビ(多分オキアミ)である。豚レバーは自分でカッターを使って切らなければいけない。私は豚のレバーに触るのが嫌だったので小エビをエサに選んで釣りを始めた。
 
しばらくすると一緒に行った仲間の釣竿に当たりがきた。かなり強い引きだ。係の人が手伝ってくれて、引き上げると大きなハサミの付いた手長エビが釣り糸の先にぶら下がっていた。20cm近くあった。係の人がエビの背中をもって器用にハサミのついた手をちぎり、バケツに入れていた。
 
そのうち他の仲間にも当たりが続き、次々とエビが釣れていった。
いくら釣りが嫌いな私であっても、やっぱり釣れないのは悔しい。なんとか釣れないかと釣り糸を投げ込むポイントを変えたとき、当たりが来た。
夢中で釣竿を引き上げると青いハサミのついた手長エビが糸の先で跳ね回っていた。私も係の人に手伝ってもらい、それをバケツに入れた。
 
当たった瞬間、そして引き上げた時、めちゃくちゃ気持ちよかった。
なんだろうこの感覚は。クセになるような快感だった。
 
そこからは一気に夢中になった。エサも豚レバーのほうが釣れそうな気がしたので釣り針にうまく刺せるサイズに一生懸命切り分けた。エビがいそうなポイントを見つけるためにいろいろと工夫をした。途中からはエビの手も自分で取れるようなった。
気が付いたら制限時間の2時間が経ち、8匹釣っていた。
 
良く思い出してみると今までの釣り体験で当たりを感じて実際に釣れた経験は無かった。食わず嫌いではなかったが、美味しいものを食べたことがなかったのである。
 
そしてこのエビ釣りには続きがある。
釣ったばかりのエビをその場で焼いて食べることが出来るのである。
エビを軽く洗い、串を刺し、塩をふり、大きなグリルに入れて焼く。自分で焼いてもいいし、係の人に頼めばやってくれる。
エビ釣り場では食事も注文できるシステムになっているので、チャーハンや野菜炒めなどを頼んで焼きたてのエビと一緒に食べた。もちろん美味しかった。
(万が一釣れなかった場合はエビも注文することが出来る)
 
かくしてエビ釣りは、私の台湾旅行の一番の思い出に一気に名乗り出た。
一番憂鬱なアクティビティだと思っていたのに、だ。
 
もし、台湾旅行に行く機会があれば、ぜひエビ釣りを体験されることをお勧めする。釣りが苦手でも全く問題ない、釣り嫌いの私が保証する。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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