メディアグランプリ

和菓子ミステリーから教わる文化と勇気


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記事:能勢 拓人(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
和菓子ミステリー『和菓子のアン』。
1作目を手に取った時は著者の坂木 司さんも知らなかった。物珍しさに購入したが、まさか和菓子×謎解きがこれ程までに奥深いと思っていなかった。こんなにハマるなんて……。
2作目が出たときはシリーズ化されたことが嬉しくて、本屋さんで眩暈がしたほどだ。
 
『和菓子のアン』シリーズは、習い事の受付のお兄さんやお姉さんのようだ。無知である自分を恥じるのではなく一緒に学びましょうと、そっと背中を押してくれる。
 
主人公は食べるのが大好き(でふっくら気味)なアンちゃんこと梅本 杏子(きょうこ)。デパ地下の和菓子屋さん『みつ屋』でアルバイトを始めるところから物語が始まる。個性豊かなお店の仲間と共に、お客さんの不可思議な行動や、悩みを解決していく。
 
・『おはぎ』と『ぼたもち』はどう違う?
・毎週お店へやってくるおばあちゃん。お盆の初日、和菓子の『蓮(はす)』を3つに、いつもの『松風(まつかぜ)』を1つ注文するが、そこへ店長が待ったをかける。「今月は『松風』を買う必要はないのでは?」と提案するその理由は?
・「腹切りだ」「うまく半殺しになってるといいな」と、にやり去っていく強面のおじさんに、アンちゃん茫然。このおじさん、何物だ? そして、恐ろしい言葉の真意とは?
 
1話ごとに謎が解明されるスピード感もあって、とても読みやすい。店の仲間に支えられ、一生懸命働くアンちゃんの姿に、ついつい応援したくなってしまうが、日々成長するアンちゃんの姿勢からも学ぶことは多い。
そして、さすが『和菓子ミステリー』と称するだけのことはある。和菓子や素材に関する由来、意味を追求し、日本の文化、歴史にも触れられる。
 
そして、3作目との出会いは突然訪れた。
2作目までは白っぽいカバーだったから、緑とピンクの和菓子が並んだカバーに、同じシリーズとは思わなかった。和菓子をテーマにした小説が珍しいと手に取ったのだが、そこに記されたタイトルと『坂木 司』の文字を見た瞬間、ついにあの3作目が! と、そのままレジへ(金欠なんてすっかり忘れて)並んでしまった。
 
『和菓子のアン』『アンと青春』に続いて3作目の『アンと愛情』。並べて気付いたが、作品名からしてチャーミングな謎が隠れていることに頬が緩む。
そして、最新作も和菓子×謎解きが素晴らしかった。読み終わった今では、ネタばらししたくて、うずうずしてしまう。
また、謎解き以外にも気づきのある1冊で、第5話目の『かたくなな』では、日本独自の文化って一体何なのだろう? と、ついつい考えてしまった。
 
食のこととなると図書館で調べ物が始まるほど、探求熱心なアンちゃん。調べ物が進むにつれ、和菓子だけでなく日本の食文化やその技法は、実は遣唐使が持ち帰ったものが多いことに気が付く。まさかあの調味料も中国の技法がもとに!? と衝撃を受けることになるのだが……。
 
『かたくなな』を読んでいる途中でぼくが感じたのは、「日本も実はパクリの国だったのか」という軽い喪失感のようなものだった。(実際お客さんから同じ様な指摘を受けるシーンがある)
でも、同じような話をどこかで聞いたことがあるような……。そうだ、以前にフランス料理のシェフから聞いた話だった。フランス料理は独立した料理のように思われがちだが、実はフランス人は他の国の料理を自国に持ち帰り、フランス料理に取り入れるのが得意だと言っていた。今では醤油やゆずを隠し味に使うレストランも増えているなんて話していたっけ。
 
いやいや、でも待て。フランス人がゆずや醤油を使うことを日本人はパクリと思っているのか?いや、パクリとは感じずに、むしろ誇りに思ってないか?
そうか、「パクリ」と思ってしまったのが間違いだった。無断で持って帰ってきたわけではない。その国で文化を教わり、日本に持ち帰り、それを日本の風土や人に合わせて発展させることはパクリではなく、伝承ではないだろうか。
 
今も昔も、完全に独立したその国の文化を確立するのは難しい。他にも日本独自の文化と思っていたものでも、実は他国から伝承されたものを日本向けにアレンジしているものが、たくさんあるのかもしれない。それでもその国になじみ、次第にその国の文化として認められるようになるのだ。十二分に素晴らしい。
今では中国や韓国など日本に影響を与えてくれたアジアの国々から、『日本文化』を楽しみに来てくれる人がいる。それは日本独自の文化として海外からも評価されている証拠ではないだろうか。
 
『和菓子のアン』シリーズを読むと、和菓子についての新たな知識と謎解きに痛快な読み心地を味わうのと同時に、ちくりと無知な自分を刺激してくる。今まで茶道、華道、書道。それに柔道や剣道も含め、日本の文化には触れてこなかった。海外に憧れがあるが、自分の国のことすら知らないことが多いのだ。
でも、そう言えばアンちゃんは、こうも言っていた。
 
大人でも学べるんだ。
 
1話目の『甘い世界』で海外のお客さんからのお礼メールを受け取ったときの一言だ。
そう、大人になってからでも学ぶことを恐れてはいけない。
アンちゃんは共に学ぶために、一歩踏み出す勇気をくれる。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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