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メディアグランプリ

見えない価値観に肌で触れるとき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:畑澤直希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
大学で英語学を専攻していた私にとって、英語が主流のアメリカに行くことは憧れであった。ただ、お金がない。でも、どうしても行きたい。そんな堂々巡りの悩みを抱えていたとき、たまたま1ヶ月間アメリカでホームステイができるプログラムを見つけた。しかも、安い。迷わず申し込んだ。
 
そのプログラムは、キリスト教の学習を前提としたプログラムであった。英語の勉強は大学ではなく教会の一室を借りて勉強し、聖書を読む時間が設けられていた。まあこれも経験だろうと、迷わず応募した。
 
私は「宗教」とは無縁であった。実家の近くに教会があり、そこで毎週日曜日に何かが行われていることだけは知っていたが、それ以上は知らない。何かわからないものは、得体が知れなくて怖い。そんな曖昧なロジックから、宗教=怖いというイメージしかなかった。
 
初めてのアメリカ。一人暮らしもしたことがないし英語も話せないしやっていけるのだろうか。と、出国前寸前のその時まで、チケットを破り捨てたいくらいに緊張した。しかしそれは杞憂であった。アメリカについて出会ったホストはとてつもなくポジティブに自分を受け入れてくれた。シャイで話すことが苦手であった自分に対し、簡単な英語で何度も話しかけてくれた。見ず知らずの自分を受け入れてくれる優しさに触れ、とても感動したことを覚えている。
 
それから、教会での勉強が始まった。レベル別に分けられた教室で、日常で使える英会話を学び、その後別室に移り新約聖書を読む。聖書に書かれている内容は、正直そこまで覚えていないが、知らない知識を得ることについてはとても興奮した。
 
毎週日曜日の礼拝は、どこか暗いムードを予想していたが、バンド機材が立ち並び、ドラムやベース、ギターとともに聖歌を歌う。そのハッピーなムードに呆気に取られた。ただ、慣れてくると居心地が良くなるから不思議なものだ。
 
アメリカでは、発見の連続だった。宗教観をはじめ、未知が、未知でなくなっていく。信仰に至るまではなかったが、得体のしれない宗教に対する価値観が、体験とともに実態を帯びていくことを肌で感じていた。
 
ただ一つ、「ハグ」というコミュニケーションは苦手であった。単純に、知らない人に近づかれるのが苦手なのだ。なぜ肌を触れ合わせなければいけないのか。男とも、女とも恥ずかしいからハグはしたくない。と、頭の中で葛藤しつつ、もちろん声には出せないため、「アイム、ソー、シャイ」とか適当な理由をつけて断っていた。
 
ある日、ホームステイプログラムの一環の一つで、自然公園の湖でカヤック体験をすることがあった。
 
私は2人のアメリカ人女性と組むことになった。とにかく女性が苦手であった私は、何か恥ずかしい気持ちに囚われ、終始無言で舵を取り続けた。結果、船頭を務めていた私のコミュニケーション不足で、森林の奥地に迷い込んでしまうトラブルが発生した。
 
どうしよう。なんで異国の地で俺は迷子になっているんだ。と絶望していると、女の子の一人が笑顔で声をかけてくる。
 
「大丈夫。みんな迷ってない分、私たちだけがこの状況を楽しめるよ!」
 
なんて前向きなのだ。そのポジティブさに心底救われた。マイナスな出来事も捉えようによっては前向きな意味づけができるのかもしれない。そこから、何かが吹っ切れた。寂しさを紛らわすために、日本のアニメの歌を大声で歌いながら、ひたすら森を漕ぎ続けた。豹変する私の姿に呆気を取られていた女性二人も、優しくこのテンションについてきてくれ、段々と仲良くなった。
 
すると、運良くプログラムの主催者が我々を見つけてくれた。めちゃくちゃ安堵したと同時に、仲間意識が芽生えていた。陸地に戻ると、ハグを求められた。そして、恐る恐るハグをした。
 
初めてのハグは、自分が思う以上に自然な挨拶であった。おそらくその時は、安心と達成感のハグだっただろう。力加減で、何を伝えたいのかが分かる気がした。肌が触れることで、その人の体温がわかる。そこに「エロさ」みたいなものはなく、とてつもなく爽やかで、親近感を覚えるような挨拶であった。
 
身体的な距離と心理的な距離は比例する。よくパーソナルスペースという表現をするが、日常の挨拶レベルでハグをするこの文化は、人との距離を近くする。きっと、コミュニケーションを円滑にする役割を担っているのだろう。郷に入っては郷に従うという諺があるように、文字通り相手の文化に「触れる」ことで、初めてハグの価値観を理解することができた。
 
未知なものは、触れることで実態を帯びる。文化や宗教のように、見えないものほど怖い。しかし、触れて体験し、自分の解釈を与えることで実智になる。そして、形を理解し、自分の言葉で表すことで、価値観が広がっていく。
 
アメリカを離れる時、ホストや友人たちと自然にハグをして別れた。決して近くない距離の国にいるため、いつまた会えるかわからない。帰りの飛行機の中、一ヶ月間で得た思い出とともに、彼らの肌の感覚を近くに感じていた。
 
日本に到着したあと、教会に足を運んだことはない。ただ、以前とは違い、未知への怖れはなくなっていた。遠くのものが近くなる。多様な価値観の中で、触れることで見えてくる世界。空を見上げ、この空が遠くアメリカまで繋がっていると思うと、不思議と寂しさはない。そして、この空で繋がる、まだ触れたことがない価値観との出会いに胸が高鳴った。
 
***
 
 
 
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2020-11-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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