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私の姉は『となりのトトロ』のサツキちゃんだった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永井 廣子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「私には友達しかいなかったから……」
これは、社交的で友達が多くて後輩にも慕われていて、いつも楽しそうで、私とは正反対だと思っていた姉の言葉だ。
何気なく私が言った「キヨちゃんは昔から友達が多かったよね」に対する反応だったが、聞いた時にはびっくりした。
一人目の子どもで内孫だった姉は、両親にも祖父母にもかわいがられて育ったように見えたので、そんな寂しさを抱えていたとは思ってもみなかった。
 
「いつもあんたたちの面倒を見させられて、結構大変だったんだからね!」
お互いに子育ても落ち着いたころに、なぜかそんな話になった。
どうやら、姉に卓越したリーダーシップが備わったのは、幼いころから4人の弟妹相手に言うことを聞かせようと試行錯誤を繰り返した日々で鍛えられ、同級生とは比較にならない経験値があったかららしい。
下の子の出産や育児で母の手が回らなかったのは確かだが、威張って命令ばかりしていた姉にそんな苦労があったなんて、ちっとも気付かなかった。
しかも、私が一番苦労をさせていたようで、素直に申し訳ない気持ちになった。
 
「あの『となりのトトロ』のサツキちゃんは、ヤングケアラーなのですよ」
テレビでコメンテーターが話しているのを聞いて、私はもの凄く衝撃を受けた。
素敵なファンタジーだと思っていた大好きなアニメだったが、見方が180度変わった。ヤングケアラーの定義は知っていたのに、サツキちゃんとは結びついていなかった。
ヤングケアラーとは、通学や仕事のかたわら、障害や病気のある親や祖父母、年下のきょうだいなどの介護や世話をしている18歳未満の子どもを指す。
最近は社会問題化しているが、昔はそんな子どもがたくさんいた。一世を風靡した『おしん』というドラマのように、戦後までは食事と寝床を与えれば「ねえや」と呼ばれる子守りをお願いできたし、きょうだいの世話は日本では当たり前の光景で、学校に通うより子守りが優先の子どもも多かったようだ。
 
本人は重過ぎる責任を抱えて親の苦労の肩代わりをさせられていたのだから、相当大変だったことだろう。
無邪気に甘えて過ごせるはずの子ども時代がなくなるのだ。
メイちゃんがいなくなった時のサツキちゃんの慌てぶりを見れば、誰もが心をかき乱されるに違いないが、現実にはネコバスやトトロは現れてはくれない。
 
ヤングケアラーとしての経験が子育てに生かされて楽になる場合もある。
だが、自分が子どもの頃にした辛い経験がよみがえってきて、それを子どもに向けてしまい、甘えを許すことができずに「自分が頑張ってしていたのだから、できないのは頑張りが足りないからだ」と、不要な厳しさで子どもを追い込んでしまう場合もある。
 
姉も自分の子どもにはものすごく厳しく接していて、見ていて心配だった。
「そんなに怒らなくても……」と言った私に対して「ヒロコは甘やかしすぎじゃない?」とか「ちょっと親バカじゃない? そんなに自分の子を可愛いって言って恥ずかしくないの?」などと言っていた。
私は自分の子ども時代を反面教師にして「子どもには愛情がしっかり伝わるように育てよう」と決めていた。できる限り抱きしめて、ポジティブな言葉掛けをして、なるべく笑わせて育てようと思っていたので、姉とは育児に関しては全く意見が合わなかった。
 
そんな姉も孫には甘々で「孫に対しては責任がないから、安心してかわいがりたいだけかわいがれる」と、いつも言っている。
そうか、あの厳しさは彼女が背負っていた責任感から来ていたのか。
謎が一気に解けた気がした。
多くの長男長女が幼いころから自然に背負わされている「責任」という恐ろしい呪いから、もう解放されてもいいはずだ。
 
紆余曲折はあったものの、姉の3人の子どもたちも、上の2人は優しくてしっかりした大人になり、素敵なパートナーをみつけて結婚し、それぞれの家庭で子どもを大切に育てているし、一番下の子もとても優しくしっかりしていて、姉の子育ての厳しさを心配する必要はなかったようだ。
母子家庭で一番下の子どもの面倒は上の二人でみることも多かったが、2代にわたるヤングケアラーでも明るくて愛情がこもっていた。二人とも子育て経験が豊富なので、初めて自分の子どもを育てる時にも落ち着いていて、抱っこやおむつ替えも上手で安定感があった。
精神的につらい時には、家族やたくさんの友達が姉を支えていたし、姉も自分のことを後回しにしてでも家族や友達を支えていた。
 
「ヤングケアラー=不幸」とは言えない。
自分から進んで世話をしていて、役に立てることを喜んでいる子どももいる。
だが、ヤングケアラーの孤立は避けるべきだ。
支えあえる人や悩みを話せる人がいれば、もし辛くても和らげることができる。
頑張っていることに気付いて心配してくれる人がいるだけでも励みになる。
もし、ヤングケアラーの子どもを見つけたら『となりのトトロ』の中のカンタのおばあちゃんみたいに、さりげなく気にしていて、いざという時には迷わず手を差し伸べてほしい。サツキちゃんの異変に気付き「メイがいないの!」という叫びを受け止めて、みんなで探してくれたように。
 
姉が団地で友達に囲まれて子育てを始めたばかりの時に「今はしっかりしなくていいからとっても気が楽。抜けているところを友達が助けてくれるの」と言っていたことがあった。
それは、実家から離れて長女としての責任を手放せた安堵感だったのだろうか。
サツキちゃんも、お母さんの退院でその責任を手放して、無邪気に甘えられたのだろうか。
 
大人になって、離れた場所で子育てをしている今は、姉を客観的に見られる。
明るくて面倒見がいいうえに、料理が上手で安い食材でもお店で出てくるよりおいしいご飯を作る。家はいつも片付いているし、無駄遣いもしない。家に来た人も自分の実家のようにくつろいでいる。
どんなに望んでも真似できない、苦労したからこそ得られた、彼女だけの強烈な個性がそこにある。
どこまでも私とは正反対の姉を、今は心から尊敬している。
 
姉も私も、様々な経験を積み重ねることで個性的に成長してきた。
どんな経験も、それがあったからこそ今の自分があると思える。
姉も今ではそう思ってくれているのだろうか。
そう思っていてくれればいいな。
 
***
 
 
 
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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