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10年前の自分から手紙が届いた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:児島桜(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
今、私は新婚当時の自分を呪っている。
頭の中がお花畑、とはこのことである。
胃が煮えくりかえるような怒りさえ感じていて非常に具合が悪い。
そんな感情はこの先味わうことはないだろうと思い、ワードを打っている。
この頃の自分が好きではなかったからだ。
 
今日、パートから帰ってきてポストをみたら封筒が入っていた。
差出人は、自分。
なぜ? 記憶になかった。
封筒をよくよく見ると、
「博物館明治村から投稿された10年前のお手紙です」
とご丁寧に印字されている。
青ざめた。走馬灯のようによみがえる記憶と血の気が引いて体温が下がる感覚の差に適応できなくて立ち止まった。
過去の、うぶで未熟な自分を思い出して非常に恥ずかしくなった。
 
私は10年前に結婚をした。
入籍をしてすぐ、友人も親兄弟もいない土地へ引っ越してきた。
蛇口をひねると赤いさびた水が出る、築50年の社宅に住んでいた。
 
夫から口頭で聞いていた年収を1ミリも疑わずに
都内での正社員を簡単に手放して嫁いできたものの、
二人だけの生活費すら足りず、結局フルタイムの派遣社員を始めていた。
夫を責める気持ちはない。自分の判断力がただ足りなかった。
結婚するには早すぎたのだった。
 
残念なほど、夢見がちな世間知らずのアラサ―であった。
 
ちなみに
私が書いた手紙の内容はこうだった
「昨日、義実家から、みかんやりんごが届いて義父母さんたちから健康を心配するお手紙も入っていたよ。皆、優しくて幸せだね」
「10年後も幸せだといいね」
手紙の書き方はこうだったが、実際の感情は異なっていた。
完全に独身の生活を終えたのに、二人の生活への変化に適応できていなかったからだ。
お金の使い方、時間の流れ方、交通手段、人間関係、当たり前だが全部が変わって、とまどっていた。
 
しかし、手紙の中では感情を偽って楽しそうな自分を演じていた。
こんな調子で、企画された手紙というストーリー性のある雰囲気に流されて、
良く見せよう自分を演じる行為が好きではなかった。
結婚の理想と現実のギャップをそうして埋めたかったのだろう。
 
今と言えば、どこにでもいる主婦で、
育児とパートの仕事に追われて現実感に溢れた生活をしている。
子どもの発達は順調か、
子ども同士の出来事に介入しすぎていないだろうか
担任の先生との距離感は適切なのだろうか、
家事効率は良いか、
働き方は合っているか、
毎日が迷いと確認と選択の普通の生活感がある。
それはそれで幸せの形のひとつなのだろうとも思う。
 
しかし、
最後にゆっくりお風呂に入ったり、ファッション雑誌を開いたのはいつだったか。
自分の食べたい献立を作ったのは?
そんなことも思い出す間も持てない。これでいいのだろうかとも疑問が残る。
他のご家庭はどうやってこの日常を回しているのだろう。
 
ここまで書いて、
少し気持ちが落ち着いてきたのでSNSで過去に同じ明治村の手紙を利用した人たちの反応を調べてみることにした。
タイムカプセルと同様に当時の思い出に浸ったり
現在の自分と比べたりしているコメントが多い。
そうか、そんなふうに、やんわり受け止めたらいいんだ。怒りがしずまった。
ツイッタ―のある時代に生まれていてよかった。
 
ところで、
皆、10年前と同じ場所に住んでいるのだろうか、
転勤族からみたら、それって奇跡に近い。
もし、これからサービスを利用しようと思う方がいて、さらに引越の心配があるなら
実家宛てにしておくといい。
 
感情はえぐられたが、10年前の自分からの手紙が来て、過去の自分と対面してみたら
以前よりは口だけで夢におぼれるより非常に人間として地に足のついた生活をしていると思うし
子どもが産まれてライフステージも上がったのだと実感することが出来た。
生活の変化は日々、少しずつ積み重なっているもの。
大きく差がついていることに気づいているようで
実感が足りていなことにも気づかされた。
 
手紙の内容は非常にありふれた中身の無い文章ではあったが、
なぜだかその頃の感情も一緒に運んでくれたのが、この手紙の不思議だ。
 
まざまざと当時の社宅が思い出される。
 
コンクリートの上を白く塗っただけのペンキ臭い壁。
響きすぎる水道管。
セミの大群が眠る大木。
夕方ころまで回収にこないゴミ置き場。
名古屋港まで見渡せるベランダ。
アナログな回覧板。
社宅だけのお祭り、役員会。
 
そんな風景がまざまざと思い出される不思議な手紙であった。
 
明治村で、この手紙を企画された方にお会いできたら、是非感謝の気持ちを伝えたい。
なぜなら、自分だけがタイムスリップできる不思議な体験だったからだ。
この10年で自分が少しは成長できたのだろうか、そんなことを振り返る良いきっかけにもなった。コロナ渦のなか、営業はどうされているのだろうか。
また10年後の自分へ、今の近況を伝えに行きたい。また立腹するだろうか。
第3波が落ち着いたら明治村へ向かおう。
 
***
 
 
 
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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