参加賞は、衣装ケースいっぱいのご褒美
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:フジ サワ(ライティング・ゼミ 日曜コース )
こなぐすりは はちみつとなかよし
のみぐすりは とまとじゅーすとなかよし
表に「ままへ おてがみ」と書いてある。娘が幼稚園生の頃、私にくれた手紙だ。
薬を飲むのが苦手で、粉薬は蜂蜜と混ぜてスプーンから舐め、液体の飲み薬には、トマトジュースを混ぜて飲ませた。薬の効能的には良くないのかも知れないが、苦味を消すための苦肉の策だった。
娘から、たくさんの手紙をもらった。
キャラクターの便箋に書かれたもの、メモ用紙や紙の切れ端に書かれたもの。表にはいつも「ままへ おてがみ」と書いてあった。
とびたす絵本の作り方を見て、作ってくれた「とびだすおてがみ」もある。開くと、私の似顔絵がとび出してきて、その下に「ねがいごと」と書いてある。そこに「やせますように」と書いてふたりで笑った。
私が書き物をしている時に、隣で真似をして、でたらめに線を書いていたので「字を書いてみる?」と聞いてみた。「うん」というので「あいうえお」を教え、絵本を一緒に読んだ。
あっという間に、ひらがなを覚えて「おてがみ」が書けるようになった。文字は教えたが、文章はその時々のオリジナルだ。そんな手紙の数々は、捨てられずに今でも取ってある。
ある時、朝から晩まで「いまなんじ?」と聞かれ続けた。子どもによくある、しつこい質問だと思いながら、キャラクターの「とけい」という幼児知育本を買ってきた。厚紙で作られた長針と短針が、指でくるくる回るようになっていて、答えの欄にシールがついている。
その長針と短針で「これが3時」と教える。次に「これは何時?」と質問する。正解したら、シールを貼っていく。どんどん、シールが増えていった。
次に300円ショップに行き、キャラクターのアナログの腕時計を買った。「かっこいいねー」人生はじめての腕時計をつけて、得意気だ。
今度は、私が「今、何時?」と聞く。暇さえあれば聞く。腕時計を見て娘が答える。はじめの頃は、2時30分を3時30分、と1時間ずれて答えていたが、繰り返していくうちに、時計が読めるようになった。
時計を見て時間がわかるようになると、時間の概念が出来たようだった。これは、すごく良い事だった。お友だちと遊んでいる時に「6時になったら帰るよ」と言うと、時計を見て逆算し、あとこのくらい遊べるな、と時間の感覚が掴めるようになったのだ。
子どもというのは、興味がある時に教えると、驚くほど吸収していく。
何もないゼロの状態から1になる。その瞬間を見た時、大人の自分にはない新鮮さを感じ、いつも「すごいなあ」と感動した。
「子育ては自分育て」と言う言葉がある。
これは、そうかも知れないし、そうじゃないような気もする。
子どもと過ごす事で目線が変わり、視野が広がるのかも知れない。全て自分のために使っていた時間やお金を「分け与える」事で、何かが育つのかも知れない。でも、なんだかそれを「自分育て」と言うのは、おこがましいような気もする。
「子どもと一緒に成長していく」という言葉もある。
これは、本当にそうだなと思う。が、しっくりこない。なんと言うか、子育てを美化しすぎの言葉のような気がするからだ。子育て以外にも、成長できる事は、きっとたくさんあるだろう。
文字を覚えて、手紙が書けるようになった。時計を見て、時間がわかるようになった。
自転車に乗れるようになった。泳げるようになった。速く走れるようになった。
出来なかったことが、出来るようになる。その時々を見て感じた、あの新鮮な気持ち。
併走しながら、違う目線で「人生2回目を味わえる」というのが、しっくりくる気がする。
娘が自転車に乗れるようになった時、一緒に喜びながら、自分が自転車に乗れるようになった日の事を思い出す。嬉しい気持ちと一緒に、切ないような、そんな気持ちが湧き上がる。
運動会で走っている姿を見ても、合唱コンクールで歌うのを聞いても、自分がもう一度経験できたような、そんな気がした。切ない気持が湧き上がるのは、1回目の自分の時に、上手く出来なかった事を思い出すからかも知れない。そして、2回目は喜びの後に「成長したなあ」とまた感慨深くなる。
きっと「自分育て」を、おこがましいと感じるのは、人生2回目のこの思いが、美味だからかも知れない。子どもと人生を併走するのは、とても味わい深く、何物にも代え難い事だと思うから。
その娘も大学生になり、私の子育ては終わった。
今でもたまに「おてがみ」を読み返す。手紙に始まり、夏休みに描いた絵や工作、書き初め、賞状、これらを捨てられずに、衣裳ケースひとつにまとめてある。「お正月」と書いてある書き初め、クラス文集、図工の時間に石膏で作った手の模型は、ぷくぷくした小さい手のままだ。それらを、ゆったり眺める、時間の余裕がやっと出来た。
人生2回目のゴールの後、私には、衣装ケースいっぱいのご褒美が残った。
***
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