そのおふくろの味はもうメイドインジャパンじゃないかもしれない
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記事: 須黒亮吉 (ライティング・ゼミ日曜コース)
【おふくろの味】といったら?
皆さんはどんな料理を想い浮かべますか?
小さい頃から食べて育った家庭の味。故郷の郷土料理。どこか懐かしい、たまに無性に食べたくなる、食べるとなんだか胸がほっこり温かくなる、そんな優しいおふくろの味。
同じ料理でも、友達の家で食べるとなんだか違った味がして、やっぱりうちのお母さんの味が1番おいしいって思ったりします。皆さんそれぞれに、懐かしくて大切な味がありますよね。
肉じゃが、味噌汁、卵焼き、カレーライス、煮魚、鶏の唐揚げ、おにぎり、ハンバーグ、筑前煮、豚汁。これは「おふくろの味と聞いて思い浮かべる料理ランキング」の1位から10位までの料理です。(Gooランキング2019年調査)
このおふくろの味ランキングの半数が醤油、味噌などを使ったいわゆる和食の料理です。では、和食の味を作る、醤油や味噌の原料はなんでしょうか?
そうです。ご存じ【大豆】です。かく言う私は豆腐屋をしているので、毎日この大豆を使って仕事をし、商売をし、ご飯を食べています。大切で、ありがたい大豆たちです。皆さんが1番身近に大豆に接する時は、「鬼は外! 福は内!」の節分の豆まきでしょうか。(最近はポッと出の恵方巻きが節分の定番ですね)
大豆は我々の食生活の色々なところで、原料として使われています。例えば醤油、味噌、それから納豆、豆腐、きなこ、もやしなど。こんなに身近に、たくさんの食べ物が大豆から出来上がっています。
では、その大豆の国内の自給率は何%だと思いますか?
現在国産の大豆自給率は【7%】しかありません。言い変えると93%は外国からの輸入大豆です。初めてこの数字を見た方は、びっくりしているのではないでしょうか。これだけ毎日当たり前のように口にしている、日本の味、おふくろの味のもとである醤油や味噌は、現実には多くが外国産の原料で作られているのです。
更に、この大豆の限らず、現在それぞれの食品の国内自給率は、大変低い割合になっています。農林水産省の発表によると、2017年度の日本の食料全体の自給率は38% (カロリーベース)で過去最低を記録しています。これは、日本で食べられているもののうち62%は海外からの輸入品と言うことです。
食品別に見てみると、主食であるお米の自給率は100%ですが、大豆7%、大麦9%、小麦14%など、穀物類は軒並み低い割合です。また、牛肉の国内自給率は36%ですが、輸入される外国産の飼料で育った牛の肉を除外すると、自給率はなんと10%にまで下がってしまいます。豚肉49%、鶏肉64%、鶏卵96%、牛乳・乳製品60%と、一見それなりの自給率があるように見受けられますが、先の牛肉同様に外国産飼料で育てられたものを除外すると、それぞれ6%、8%、12%、26%と途端に低下してしまいます。
上の数字を見てみても、すでに私たちの食生活は、海外からの食品に依存している現実が見て取れますよね。
では、こんなに我々の生活になくてはならないものが、なぜ日本国内で作られていないのでしょうか? なんでこんなにも国内自給率が低いのでしょうか?
戦後間もない1946年度(昭和21年度)では、日本の食料自給率はなんと88%でした。貧しい戦後の時代でも、88%の食糧が日本国内で作られていたのです。ところが、そこから食料自給率は、年々ゆるやかに下がり始めます。平成の時代に入ると50%を割り込み、2000年代では40%前後まで落ちて、ほぼ横ばいに推移して行きます。
2017年度には38%まで下がった食料自給率を、政府は2025年には45%まで引き上げることを目標に掲げています。
戦前の日本の食卓では、主に国内で作った米・野菜などを使った和の食事が中心でした。敗戦後の復興に伴って、海外からたくさんの食糧が日本に入ってくるようになりました。さらにアメリカ統治のもと、食生活が少しずつ欧米風に変化していきました。もともと国内生産量が少なく、外国からの輸入に依存することが多かった小麦を使ったパン食の普及。飼料や原料の多くを輸入に頼る畜産物や油脂類の消費が増加して行きました。日本の食料自給率の低下には、私たちの食生活の変化が大きな影響を与えているのです。
さて、ここでおふくろの味の決め手になる、醤油、味噌の原料【大豆】に話を戻しましょう。醤油、味噌、豆腐、納豆。私たちは毎日のように調味料やタンパク源としてこの大豆を食べているのになぜこんなにも低い自給率(7%)なのでしょうか。
実は明治時代まで大豆は日本国内で自給自足できていました。ですが、戦中日本の領土となった満州で大豆を大規模生産するようになると、国内の生産農家は大豆を作っても商売にならなくなり、生産をやめてしまいます。これが大豆の自給率が低くなった始まりです。
敗戦で大豆の一大産地、満州を失った日本。満州からの大豆が入って来なくなると、戦勝国のアメリカから売ってもらうようになります。戦後は、アメリカから安く輸入するようになったのです。その後、相場の関係や、アメリカの思惑に左右され、大豆が不足する事態になり、ブラジルでも代わりに生産してもらうようになりました。
安く買えるので他国から輸入し、国内では利益が出づらいので誰も生産しない。大豆の自給率が低い状況は、満州からの安価な大豆に依存して以来、100年以上も続いています。
当たり前にあると思っていたものでも、気がついたらもう手の中にはない。そんな経験はありませんか?この大豆の自給率が低い理由を探ってゆくと、昨今のコロナ禍で、いつも当たり前にあると思っていた安価な【マスク】が、実は国内で作られていなかった現実とオーバーラップしてしまいます。
いつまでも同じ毎日、同じ幸せは、当たり前のように訪れません。大切なものは、多少不便でも、多少高くても、多少めんどうでも、大切にして行かなくてはいけません。
世の中がどんなに変わっても、世界がどんなに変化しても、私たちの中の【おふくろの味】の思い出は、決して変わることがないと思います。
私もずっと、この国で、変わらず大好きな“大根の味噌汁”が食べられる未来を生きてゆきたいです。
参考:日本の食料自給率|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
日本の食料自給率‐世界との比較や問題点・対策を解説|ジブン農業
https://www.sangyo.net/contents/myagri/zikyu_ritu.html
大豆の自給率はなぜ低いのか?|これ知ってるかい?
https://wisdom.kuni-naka.com/
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